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新型コロナワクチン接種後に熱が出るほど抗体価が上がる? 日本から複数の研究結果が報告

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

ファイザー社製ワクチンを1・2回目に接種した人が、3回目に武田/モデルナ社製ワクチンを接種する「交互接種」をおこなった場合、3回目にファイザー社製ワクチンを連続接種した場合よりも、発熱しやすいとされています。含まれている成分量の違いで、発熱しやすいようです。また、前者の「交互接種」のほうが抗体価が高くなることが示されています。ここで浮上するのが、「新型コロナワクチン接種後の体温が高いほど抗体価が上がるのではないか」という仮説です。

図1. 3回目接種の発熱と抗体価(参考資料1をもとに筆者作成)
図1. 3回目接種の発熱と抗体価(参考資料1をもとに筆者作成)

図1を見て分かるように、発熱と新型コロナワクチン接種後の抗体価上昇には相関があるように思われますが、これを証明するため、日本から複数の研究結果が報告されました。

体温が高いほど抗体価が上がる

発熱と新型コロナワクチン接種後の抗体価の関連については、これまではっきりと示されていませんでした。

国立国際医療研究センターにおいて、ファイザー社製ワクチンの2回目接種を受けた88人の発熱と抗体価の関連が調べられました。接種後、体温が37.5度未満だった人と比べると、38.0度以上の人では抗体価が著しく上昇したことが示されています(2)。抗体価の差は、接種後2か月以上維持されました(図2)。

図2. ファイザー社製ワクチン2回目接種から60~74日後の抗体価(参考資料2より一部改変して引用)
図2. ファイザー社製ワクチン2回目接種から60~74日後の抗体価(参考資料2より一部改変して引用)

また、九州大学病院と福岡市民病院において、ファイザー社製ワクチンの2回目接種を受けた335人の発熱と抗体価の関連を調べた研究結果も報告されています(3)。38.0度以上の発熱があると、37.0度未満の人と比べて抗体価が1.81倍高いという結果でした。

現在3回目接種に関して研究中だそうですが、やはり発熱があるほうが抗体価が高い傾向にあるそうです。

なお、頭痛や関節痛など、発熱以外の副反応が出ても抗体価は変わらなかったとされています。

この研究では7割以上が翌日に解熱鎮痛薬を服用しています。副反応が出た後に解熱鎮痛薬を服用しても、その後得られる抗体価は下がらないことも示されました()。

表. ファイザー社製ワクチン2回目接種後の幾何平均抗体価(参考資料3を元に筆者作成)
表. ファイザー社製ワクチン2回目接種後の幾何平均抗体価(参考資料3を元に筆者作成)

医学界には、「解熱鎮痛薬で副反応を抑えると、抗体価上昇も抑えられる」という都市伝説がありましたが、この研究では否定的ということになります。

さらに、富山大学附属病院においても発熱と抗体価上昇の関連性が報告されています(4)(査読前論文)。これでも体温が高いほど、得られる抗体価は高いという結果でした。

以上、発熱と抗体価の関連を見ると、おそらく3回目接種についても「新型コロナワクチン接種後の体温が高いほど抗体価が上がる」の論理が成立するものと思われます。

女性のほうが抗体価が上がりやすい?

なお、先ほどの九州大学病院と福岡市民病院の研究によると、女性のほうが男性より1.44倍抗体価が上がりやすいことが示されています(3)。

これまで人類に接種されたさまざまなワクチンの研究によると、女性の方が副反応が出やすいことが分かっていますので(5-7)、もしかすると女性のほうがあらゆるワクチンの恩恵を受けやすいのかもしれません。

まとめ

接種後に体温が高いほうが確かに抗体価上昇は大きいのですが、発熱がなくても十分抗体価の上昇が見込めます。

また、ワクチンで得られる効果は、抗体価が全てではありません。細胞性免疫といって、抗体価が低下しても重症化を予防できる効果があります。

そのため、発熱がないからといってガッカリする必要はなく、「発熱があれば儲けもの」くらいの気持ちで接種に臨むとよいでしょう。

(参考)

(1) 第76回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和3年度第28回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催). 資料1-8. ファイザー社ワクチン初回接種者に対する3回目接種後中間報告. (URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000899481.pdf

(2) Yamamoto S, et al. Vaccine. 2022 Feb 14;S0264-410X(22)00196-7.

(3) Tani N, et al. Vaccine. 2022 Feb 14;S0264-410X(22)00158-X.

(4) Kawasuji H, et al. medRxiv preprint. doi:10.1101/2022.02.23.22271433(査読前論文)

(5) Klein SL, et al. Trans R Soc Trop Med Hyg. 2015 Jan;109(1):9-15.

(6) Fischinger S, et al. Semin Immunopathol. 2019 Mar;41(2):239-249.

(7) Menni C, et al. Lancet Infect Dis. 2021 Jul;21(7):939-949.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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