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想定を上回る第6波の医療逼迫 1日死者数が第5波を超える 3回目ワクチンの意義は?

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

オミクロン株はデルタ株より軽症が多いということで、医療現場もやや楽観視していた部分がありました。「肺が真っ白の患者さんは数えるほどで、軽症例がたくさんやってくるのだろう」「医療逼迫は大丈夫だろう」と思っていました。第6波が始まり約1ヶ月が経過しましたが、その予想は崩れ去り、第5波を超える水準で厳しい医療逼迫が続いています。

高齢者の死者数が増加

オミクロン株の憎たらしいところは、インフルエンザを根絶するほど全力で感染対策をしているのに感染が広がることです。医療従事者が現在死守している一般病棟内で、入院患者さんに伝播すると致死的になりかねません。

コロナ禍前であっても、病棟内でインフルエンザのクラスターが出れば病棟を閉鎖していました。伝播性が高いオミクロン株感染者が病棟内に複数入り込めば、病棟閉鎖どころでは済まないかもしれません。結果的に、それが救急医療や外科手術を縮小させてしまうことにつながります。

実際に、医療従事者や入院患者に感染が広がった関西の大学病院で、全ての病棟での新規入院と手術を中止しているところがあります。

すでに指摘されているように、デルタ株のような凶暴性は低いです。凶暴ではないのですが、ただただ性格が悪いです。小児や若年者層では、肺炎に難渋するということはまれですが、高齢者層では肺炎を起こす患者さんが増えています(一部はデルタ株かもしれませんが)。

「基礎疾患のある高齢者」と「オミクロン株」の相性は悪く、ワクチン接種後時間が経過して抗体価が低下した高齢者に感染していきます。軽症で終わることが多いとはいえ、感染者の絶対数が多いことから、余生を穏やかに過ごしている人を崖から突き落とすような感染例が目立ちます。

第6波の1日死者数はデルタ株による第5波のピークを超えました(図1)。重症化率が低いと報道されがちですが、実はすでに多くの人が第6波で亡くなっています。現場と報道の乖離が大きいです。

図1.国内の発生状況(新型コロナウイルス感染症まとめ[https://news.yahoo.co.jp/pages/article/20200207])
図1.国内の発生状況(新型コロナウイルス感染症まとめ[https://news.yahoo.co.jp/pages/article/20200207])

救急医療が壊滅的打撃

医療逼迫が進む中、できれば救急受診を要するような状態にはなりたくないものです。

東京ルール(救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案)は、過去最多水準で高止まりしています(1)(図2)。

図2. 2月4日時点の東京ルール適用件数(参考資料1をもとに筆者作成)
図2. 2月4日時点の東京ルール適用件数(参考資料1をもとに筆者作成)

各地の救急搬送困難事案も過去最多を更新しています。搬送対象者に発熱や酸素飽和度の低下があると、新型コロナ対応が可能な病院を探すことになります。これがなかなか見つからず、何時間も救急車内で待機する事態が現在発生しています。

ワクチン不要論の再興

「オミクロン株は軽症だし、感染予防に効果がないのだから、3回目の新型コロナワクチンは無意味」という意見を耳にすることが増えました。これはやや短絡的な結論なので、どうか熟考していただきたいと思います。

確かに、ファイザー社製・武田/モデルナ社製ワクチンのオミクロン株に対する発症予防効果はデルタ株より低く、2回目接種20週目以降には約10%まで低下します。しかし、追加接種により発症予防効果が65~75%に高まります。

入院予防効果についても、2回目接種25週目以降で44%だったものが、3回目接種2週目以降で89%に回復します(2)。

国民の約8割が2回ワクチンを接種しているため、入院してくる人のほとんどがブレイクスルー感染というのは必然です。

重要なポイントは、ワクチン未接種のほうが何倍も感染リスクが高いということです(3)()。たとえば、ワクチン未接種者の20~29歳では89人に1人がすでに感染しています。入院や重症化という観点では、未接種者のリスクはさらに高くなるでしょう。

表. ワクチン接種歴別の新規陽性者数(参考資料3より引用)
表. ワクチン接種歴別の新規陽性者数(参考資料3より引用)

軽症が多いとしても、病院の機能を守らなければいけません。感染拡大は、上記のように明確な医療逼迫を招き、若い人も子どもも病院を受診できなくなる事態を引き起こします。

オミクロン株の性格が悪いのは、こうしたワクチン不要論を再興させてしまうところにもあると思っています。

デンマークは国民の8割以上が3回目接種を完了しており、コロナ規制を全て撤廃しました。日本でここまで思い切ったことができるかどうかは分かりませんが、ここから3回目接種率を一気に上げていかなければ、医療提供がじり貧に陥るかもしれません。

まとめ

若年者のほとんどの人が軽症で終わるものの、中高年~高齢者にとって生死にかかわる問題となる事例を目の当たりにしています。オミクロン株による感染拡大が先行した沖縄県では、若年者層で感染者数が減少したものの、高齢者の感染者は多い状況が続いています。

感染者数の多さに引っ張られて、発熱外来、救急医療、入院診療、外科手術などがすでに逼迫しています。現場としては、「早くピークアウトおなしゃす」と祈りをささげているレベルです。

伝播性が高いウイルスほどワクチンの寄与度が高くなるというのは公衆衛生学的な常識ですが、なぜかここにきてワクチン不要論が再興しています。広く3回目のワクチン接種を普及させることが望まれます。

(参考)

(1) 救急医療の東京ルールの適用件数(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/

(2) SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 34(URL:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1048395/technical-briefing-34-14-january-2022.pdf

(3) 第70回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年2月2日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00333.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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