★記事をアップデートしています(2022年4月13日):『高まる新型コロナ「5類相当」への引き下げ論 実態はすでに引き下げになりつつある』(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220413-00290667

新型コロナの景色は、デルタ株以前とはずいぶん変わりました。第4波・5波でみられたような肺炎は起こしにくく、「新型コロナを季節性インフルエンザと同じ5類にすべき」という意見を目にすることが増えてきました。他方、ダウングレードは時期尚早という意見もあります。

公式見解として、岸田総理大臣は、1月21日の参院本会議において、「オミクロン株の感染が急拡大している時点で感染症法の位置づけを変更することは現実的ではないとは思うが、変異を繰り返す新型コロナの特質をしっかり考えた上で、今後の感染状況等もふまえ、厚生労働省の審議会等において専門家の意見を伺いながら議論を行いたい」と述べています(1)。

新型コロナの区分のおさらいと今後について、私見を交えて書きたいと思います。

新型コロナの位置づけ

「感染症法」では、重症度や病原微生物の感染力から、感染症を「1類~5類感染症」の5つと「新型インフルエンザ等感染症」「新感染症」「指定感染症」の3つの合計8区分に分類しています()。現在、新型コロナは「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられており、入院勧告や外出自粛要請など強い措置が可能で、医療費も公費負担です。これは、当初感染症法の1~2類感染症に近いものでした(1~2類相当)。

表. 感染症法の「感染症」(筆者作成)
表. 感染症法の「感染症」(筆者作成)

新型コロナの就業制限や入院措置は厳しいものです。しかし、初期よりかなり緩和されています。ある程度自治体に裁量権があり、自由度が高いです。

「5類」へのダウングレードには、「感染症法上の5類感染症にする」と「新型インフルエンザ等感染症の枠組みのまま5類相当にする」という2パターンが想定されます。現時点では、感染者急増により実質的に後者がすすんできています。

「5類」あるいは「5類相当」へのダウングレード

①メリット

保健所では未処理の書類が山積みになりつつあるそうです。感染者数急増により、特措法の規定そのものが行政・医療の首を絞める関係になっている側面もあります。マッチポンプとまでは言いませんが、これにより濃厚接触者の同定を諦めざるを得ない保健所も出てきました。

「5類」あるいは「5類相当」にダウングレードするメリットは、これらの保健所・行政の業務逼迫が改善することです。電話やFAXベースの業務をなくせば、もっと業務逼迫は改善するのでしょうが、それはまた別の話です。

ダウングレードによって、幅広い医療機関で新型コロナが診療できるという意見を見ます。しかし、ラベルを変えたからといって「医療機関はすべからく新型コロナを診るべき」という転換が起こるかどうかは疑問です。

②デメリット

「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みを外れると、国民への自粛要請や特措法が適用されなくなります。そのため、自宅待機要請・入院要請・病床確保要請ができなくなり、感染者数を抑制する手段が削られます。

オミクロン株は感染力が強いため、ハンマーアンドダンス(※)のハンマーが以前より「コスパの悪いもの」になってしまいました。厳しい割に、効きが悪い。そのため、もう少し実効性がある具体的な場面での啓発(人数制限)に切り替え、ある程度感染者数が増えることを容認しなければならないフェーズになりつつあります。

※ハンマーアンドダンス:流行のピークを抑える施策をハンマー、行動制限を緩和することをダンスとし、これらを繰り返すことで感染状況をコントロールすること。

「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みを残すならば自己負担の心配はありませんが、「5類感染症」にするとこれが発生します。当然、入院して治療を受ければ、高額になる可能性もあります。

写真:Paylessimages/イメージマート

「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みを残すかどうか

2009年に発生した新型インフルエンザ(当時のH1N1豚インフルエンザ)を覚えているでしょうか。当時は特措法もなく、検査体制は充実しておらず、診断されていない感染者がそれなりにいたと思われます。患者数が減り、次第に報道されなくなりました。

入院措置、治療費やワクチンの公費負担、強い措置発令のために、「新型インフルエンザ等感染症」区分のまま「5類相当」として対応が継続されました。その後、いつしか「5類感染症」へ変わりました。

意外と知られていませんが、新型インフルエンザは現在も季節性インフルエンザの1つとして普通に存在しています。

また、当時の教訓をもとに作成された2013年の「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(2)において、患者数が増えた場合「患者の濃厚接触者を特定しての措置(外出自粛要請、健康観察等)を中止する」「全ての医療機関等で患者を担う」という案は既出で、現在有効と考えられる医療逼迫軽減策のいくつかも同計画内に記載されています。

「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みの中で、国民に受け入れられやすいように中身を変えていくのは良策かと思います。たとえば医療費に関わる部分は2類相当、行政が逼迫する業務は5類相当などのように分ける方法も考えられます。

すでに新型コロナは、入院措置としつつも、宿泊療養と自宅療養が主になっています。また、保健所を通さずに医療機関にコロナ治療を認める方向へシフトしつつあります。これは、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みの中で実質的にダウングレードが始まっていると解釈してよさそうです。「大区分は変更しないが、ここまではやっても大丈夫」であれば、政府・厚労省はそのような説明をこまめに行う必要があるでしょう。

まとめ

「5類」論は分かりやすいテーマですが、本質は新型コロナのラベリングではないように感じます。次の第7波で、毒性が強いと懸念される変異株(VOC)が登場するリスクも軽視できません。「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みの中で、今何が行われているかを私たちは知る必要があります。

感染力が強く病毒性が低いオミクロン株が相手なら、リソースの投下先を高齢者や基礎疾患を持つ人に絞らざるを得ません。厚労省専門家組織は「軽症者には効率的に、ハイリスク者にはきめ細かく」「若年層で重症化リスクの低い人については、必ずしも医療機関を受診せず、自宅での療養を可能とすることもあり得る」という見解を提出しています(3)。

みなさんが向いている未来はきっと同じ方向なので、丁寧な議論を重ねていただきたいところです。

(参考)

(1) 参議院インターネット審議中継(1月21日本会議)(URL:https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

(2) 新型インフルエンザ等対策政府行動計画(URL:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/jichitai20131118-02u.pdf

(3) オミクロン株の特徴を踏まえた効果的な対策(令和4年1月21日公表)(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000885350.pdf