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コロナ禍で増えた医療の誤情報・怪しい健康本 われわれはどのように正しい情報を得るべきか

倉原優呼吸器内科医
(写真:アフロ)

いまだに根強い新型コロナの誤情報

新型コロナワクチンの2回接種率が諸外国を抜いて現在約80%ですが、いまだに「新型コロナワクチンを打つとこんなことになる」という不確かな情報がSNSで拡散されています。厚労省の「新型コロナワクチンQ&A」では1つ1つの質問に丁寧に回答されています(1)。

コロナ禍に入り2年が経過していますが、空間除菌に関してもいまだに「新型コロナに効果があり安全」という誤情報を流す業者がいて、これを採用している自治体すらあります。厚労省は「人がいる環境に消毒や除菌効果を謳う商品を空間噴霧して使用することは推奨されていない」と明言しています(2)(図1)。景品表示法に違反する行為として、今年に入っても多くの企業に措置命令が出ています。

図1. 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請及び一般消費者等への注意喚起について(参考資料3より)
図1. 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請及び一般消費者等への注意喚起について(参考資料3より)

コロナ禍で医療ニュースが増えた

コロナ禍では、医療ニュースに注目が集まりやすくなりました。特定の分野に限ったことではありませんが、情報の質の高低は必ずあって、中には明確に誤った情報を掲載しているものもあります。

この構造の興味深いところは、誤情報を信じてしまった人から見ると、正しい情報のほうがむしろ間違っていると認識されてしまうことです。そのため、いつの間にか「厚労省や政府がデマを流している」という陰謀論者になってしまいます。

SNSで多くの情報を目にするようになりましたが、デメリットはそのメリットと表裏一体で、フォロワーが多い専門家が誤情報を流すインフルエンサーになってしまえば、社会に対してよくない影響を与えてしまうことになりかねません(4)。

新型コロナのパンデミック初期における総務省のデータによると、誤情報を見聞きしたとき、全体の約3割が「1つでも正しい情報だと思った・情報を信じた」を選んでいます(5)(図2)。国民全体で考えるとかなりの人数にのぼると思われます。

図2. 17の新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報(いわゆるフェイクニュース・デマ)について、1つでも「正しい情報だと思った・情報を信じた」を選んだ人の割合(参考資料5より引用)
図2. 17の新型コロナウイルスに関する間違った情報や誤解を招く情報(いわゆるフェイクニュース・デマ)について、1つでも「正しい情報だと思った・情報を信じた」を選んだ人の割合(参考資料5より引用)

書店で見かける怪しい医療本・健康本

書店で、不適切ながん治療について書いていたり新型コロナやワクチンに関する誤った情報を掲載していたりする本を見かけることがあります。内容に偏見や誤びゅうが見受けられる本は、「〇〇をするだけで××が完治する」などのキャッチーなタイトルや、「長生きしたければ□□しなさい」のような読者へ過剰な期待や恐怖を煽るタイトルのものが多いです(もちろんすべてではありません)。

私は医学書出版社の編集者と話す機会が多いのですが、この現状について質問してみました。編集者の全員が、「正しく病気や医療のことが伝わっていない本が多く、忸怩(じくじ)たる思いがある」とおっしゃっていました。

出版社にとっては、もちろん書籍の公益性も大事ですが、初版を作って売り切ることは重要課題です。売れるものを作らないと、会社が潰れてしまうからです。賛否両論あるデリケートなテーマの場合、その迷いを断ち切ってくれる痛快な本のほうが売れるわけです。

たとえば、「この薬は飲んではいけない」という特集を雑誌で組むと、「この薬を飲むといいですよ」という特集よりも発行部数は伸びるそうです。また、「毎日運動して体重を減らす」というタイトルよりも「毎朝1杯水を飲むだけで体重が減る」というタイトルの本のほうが売れます。出版社としては売れるほうを選択したいと思うでしょう。

(いらすとや、イラストACのイラストを使用し筆者加工)
(いらすとや、イラストACのイラストを使用し筆者加工)

「医師が執筆しているのだから一定の信頼性が担保されている」という前提になっていますが、その医師の価値観がエキセントリックな場合、書籍は偏った内容になります。ファクトチェックはなされず、「私の意見だ」と言われれば、それまでです。

医療や健康に関する本については、第3者機関による評価や公的機関の規制があるべきと思っていますが、実現は難しいでしょう。焚書坑儒だという意見も出ますから、言論の自由を阻害することはできません。

議論性のあるテーマに関してはどんどん出版されてよいと思います。しかし、「論」ではなく、ただの誤情報を、まるで妥当な科学的検討をしているかのごとく出版する行為までもが許されてよいはずはありません。

本来受けられるべき医療で助かったはずの命が、これらに惑わされ助からなかったとしたら、それを自己責任で済ませてはいけません。

誤情報に惑わされないために

玉石混交の医療情報に右往左往しないためには、学会や公的機関のガイドラインや指針に耳を傾けるべきです。

特に学会のリリースは、あまり報道されることはなく、学会から出版されている書籍も医療従事者向けであるため、一般の人に情報が渡りにくい構造になっています。マスメディア・出版社とうまく連携しながら、正しい情報発信ができる世の中になればと心から願っています。

(参考)

(1) 新型コロナワクチンQ&A「これは本当ですか?」(URL:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/truth/

(2) 新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html

(3) 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請及び一般消費者等への注意喚起について(URL:https://www.caa.go.jp/notice/entry/023162/

(4) 総務省:誤情報やフェイクニュースの流布(URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd123110.html

(5) 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 消費者行政第二課 新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査(URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000693280.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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