専門医を取得するまで

私は、日本内科学会の総合内科専門医、日本呼吸器学会の呼吸器専門医、日本感染症学会の感染症専門医という3つの「専門医」を持っています。平均的には医師1人につき1~3つの専門医を持っており、多くても4~5つくらいが限度だと思います。それ以上持っていると、後で述べる「更新」が大変になります。

日本専門医制評価・認定機構が公表している資料(1)によれば、基本領域専門医は19、サブスペシャルティ領域専門医は23、その他もろもろあわせて、「広告が可能な専門医」というのは59にのぼります。かなり多いです。

さて、私たち医師はどのようにして専門医を取得しているのでしょうか。

専門医の話の前に、医師免許についてお話しましょう。医師を志す人は、6年間の医学部で勉強を終えた後、医師国家試験を受験します。合格率は90%以上で、医学をしっかり学んでいる人にとっては、比較的合格しやすい試験と言えます。合格すると、晴れて医師免許がもらえますが、最初の肩書きは「初期研修医」です。修業中のひよっこドクターということです。

医師は、医師免許以外にも資格を取得することができます。研修医時代が終わると、「専門医」を目指して勉強するのです。その道の専門家として修練を積んだことを証明するために取得することが多いですが、先輩からすすめられてなんとなく取得している医師も少なくありません。

どのように専門医を取得するのか?

専門医の受験資格を得ると、当該学会に受験申し込みをします。その後、筆記試験などの受験を受けて合格すれば資格が授与されます。医師国家試験とは異なり、合格率を少し低めに設定している学会が多いです。私の持っている呼吸器専門医や感染症専門医は合格率60~70%程度です。

試験で問われるのは、その専門分野に対する知識の深さをみるものです。専門医の多くには技能試験や面接などがありません(外科系の場合手術ビデオ提出などがあることも)。

専門医を取得すれば、ようやくその分野で一人前というお墨付きがもらえるわけです。

写真:CavanImages/イメージマート

専門医には更新試験がない

専門医を更新するための試験はありません。一度でも取得すれば、更新するだけで一生涯専門医を名乗ることができます。もちろん、学会費を払わなかったり規約違反を犯したりすれば資格を剥奪されることはあります。ちなみに呼吸器専門医はたばこを吸ったらアウトです。

各学会は、定期的に総会や地方会を開催しており、これら学会に参加すると資格維持に必要な「単位」が取得できます。そう、専門医の更新はポイント制でもあるのです。そのため、私たち専門医は各種学会に積極的に参加して専門医維持に必要な単位を取得しなければいけません。また、専門誌に学術論文を投稿することで単位が取得できる学会もあります。現在はコロナ禍ということもあって、オンラインの学会参加で単位がもらえます。

ただし、専門医の更新に必要な学会参加や年会費には万円単位のお金がかかってしまいます。複数の学会に所属している医師は、学会関連費用だけで年間10万円以上のお金が飛んでいきます。

ちなみに、医師免許にも更新試験はありません。一度受かってしまえば、たとえ医師をリタイアしたとしても医師免許を持ち続けることができるのです。実際、医師免許を持ちながら医業に携わっていない人はたくさんいます。

専門医の質の保証

専門医に更新試験がないということは、今存在する専門医資格の質が必ずしも保証されているわけではないということを意味します。ひどい場合、学会会場の入口で参加費を支払って専門医維持のための単位を取得して、学会会場にすら入らずクルリと引き返して帰宅する医師だっています。

現行のシステムではこういった専門医資格を維持するだけの行為を取り締まることはできませんが、一口に「専門医」といっても、一度試験に通っただけの「なんちゃって専門医」から、たくさんの患者さんを診たり、論文をいっぱい書いたりしている「エキスパート専門医」までピンキリです。

メディアに出演している「専門家」「専門医」

そのため、メディアで「専門医」という肩書きを持っている人が登場しても、専門医試験に合格した後資格を維持しているということは分かりますが、誰しもが認める“真の専門家”かどうかは分かりません。

コロナ禍の初期に出演されていた「専門家」の中には、残念ながらそうではない方も混じっていました。現在は、おおむね医療アカデミアの世界で信頼性のある専門家がたくさん出演されています。

専門医は「免許」ではなく、「証」だと思います。「免許」というのは、運転免許と同じで「その行為が許可される資格」のことです。しかし、専門医というのは、患者さんが享受する医療の質を保証する証明書であるべきです。そのため、私は「免許」よりも重たいものだと思っています。

(参考)

(1)日本専門医制度概報(URL:https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/gaiho_2020.pdf)