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【ユニクロ銀座店レポート】全館丸ごとミュージアム化、機能の秘密やサステナビリティ、進化する定番を体感

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
インスタレーション×ショッピングで新顧客体験を提供するユニクロ 銀座店。筆者撮影

デジタル化の加速やECの台頭、コロナ禍でのニューノーマルの買い物、さらには、サステナビリティの重要性の高まりや生活者のマインド変化など、リアル店舗の在り方が問い直されている。リアル店舗ならではのセレンディピティ(偶然の出合い)や新たな発見、地域の人々との交流、情報の受発信、OMO(オンラインとオフラインの融合)など、顧客体験を中心にさまざまな価値を創造することが求められている。何よりも、ブランドの理解や信頼を深めるとともに、「買いたい」「行きたい」と人々の心を動かすエモーショナルさの重要性が高まっている。

 そんな中、ユニクロは今日9月17日、世界最大店舗でありグローバル旗艦店の「ユニクロ 銀座店」をリニューアルオープンした。売場面積約1500坪(4950平方メートル)、12フロアを1棟丸ごとユニクロのミュージアム(博物館)として創り上げた館で、「New Life, New Wear, New GINZA」をコンセプトに、「インスタレーション×ショッピング」を全フロアで展開する「LifeWearの世界を体感できる展示を髄所に詰め込んだ、新しい体感型店舗」を目指す。

 この店の最大の特徴は、各階に「LifeWear インスタレーション」と呼ぶミュージアム形式とも展覧会形式ともいえる売場作りを行っている点だ。機能性の秘密や、サステナブルなモノづくりの仕組みやトピックスなどを、アート&サイエンス&テクノロジー&ファッションの切り口で紹介している。

 改装をディレクションしたのは、木下孝浩執行役員クリエイティブディレクターだ。マガジンハウス出身の元「ポパイ」編集長で、ユニクロの様々な情報やコンテンツを再編集し、新たな切り口や深掘りして発信。ニューヨークやパリ、ロンドンで開催してきた、「The Art and Science of LifeWear」をテーマに掲げたエキシビション「LifeWearデイ」のディレクションも行ってきており、銀座店ではそれを壮大かつリアル店舗で実現したものである。

 ユニクロは昨年12月から、ライブ配信動画を見ながら商品を購入できるライブコマース「UNIQLO LIVE STATION」をスタートした。「ユニクロオンラインストア」「ユニクロアプリ」「StyleHint」を通じて、商品のオススメポイントやコーディネートをライブで紹介しつつ、リアルタイムに質問やコメントを受けることで、インタラクティブなオンライン購買体験を可能にした。銀座店をステージにした配信にも力を入れていく。リニューアルオープン前夜にも人気スタイリストを起用した配信を銀座店から行っている(アーカイブの視聴も可能だ)。

 そして今回、もう一つの目玉が、接客販売の開始だ。気軽に自由に買い物ができて、必要なときには販売員がサポートする、セミセルフサービス型の基本としてきたユニクロが、「特別な研修を受けた専門スタッフを各フロアに配し、LifeWearの品質や付加価値、クラフトマンシップを伝える最高の接客サービスの提供を目指す」というのは見逃せないポイントだ。モノの力だけでなく、接客による新たなブランド価値、体験価値の創造につなげられるか注目される。

 今回の改装は、2012年にオープンした同店が、今年10年目を迎える節目に合わせて行ったもの。コロナ禍前は売上高の約5割をインバウンド(外国人観光客)が占めていたという同店はもちろんのこと、銀座の街でも客数が大幅に減り、売上げが減少しているところがほとんどだ。「ユニクロが活性化することで銀座を元気にしたい」。ただし、「ユニクロだけでは繁栄できない。地域の方々の協力を得て、共栄していきたい」と、個店経営や地域密着にも一層力を入れていく。

――ここからは、各フロアの見所ポイントを写真とともに紹介する。

1階

LifeWearスクエア

1階はユニクロのコンセプト「LifeWear」の世界観を表現したスペースに。ショーケース“ビッグ・ガラスタンク”には、かつてのマネキンに代わって、打ち出しアイテム(現在はカシミヤ20枚)を振り子のオブジェで紹介。LifeWear WALLと呼ぶ壁面では注目商品を展示。シンプルで完成された服が、ケースの中でメトロノームように揺らめくことで、「その造詣や色の美しさが際立ち、新しい見え方をするはず」と同社。裏側のエントランスに近いエスカレーター脇で花の販売はしているものの、服の販売は全くナシ。日本一土地・家賃が高い銀座で驚くほどの余裕と覚悟を感じさせる。

筆者撮影
筆者撮影

(サービス)UNIQLO FLOWER

2020年4月にユニクロパークベイサイド横浜店に初出店し、原宿店、ユニクロトウキョウ、浅草店などにも併設したフラワー売場が銀座店1階にも登場。1束390円、3束990円というユニクロプライスで、花が彩る豊かな日常生活を提案する。

筆者撮影
筆者撮影

2階

(インスタレーション)GINZAコラボレーション

「ハロー、ネイバーフッド」(近隣の方たち、こんにちは)をスローガンに、銀座にある15の名店とコラボレーションしたTシャツとトートバッグを展開。飲食店では銀座木村家、煉瓦亭、銀座千疋屋、銀座ウエスト、ナイルレストラン、つばめグリル、銀座日東コーナー1948、ロックフィッシュ、トリコロール本店、カフェーパウリスタ。文化・芸能関連では鳩居堂、伊東屋、歌舞伎座、森岡書店、銀座たくみと協業。鳩居堂や伊東屋など、コラボ先の象徴的なグッズも販売する。

筆者撮影
筆者撮影

1階から2階の吹き抜けにかけて広がる“ビッグ・ガラスタンク”の上部からはカシミヤの振り子オブジェを覗き見ることができる。その周囲にはアーティスティックなヘッドドレスを施したマネキンが彩りを添えるとともに、ベーシックウエアを使った遊び心のあるスタイリングを提案する。

筆者撮影
筆者撮影

3階

ウィメンズカジュアル売場

ウィメンズにも好適なメンズアイテムもこのフロアで展開し、ジェンダーニュートラルな打ち出しも行う。

(インスタレーション)リサイクルダウン

ウルトラライトダウンの軽さと、ダウンのリサイクルの仕組みを表現。裁断された表地とダウンが空気の流れで表地は下へ、ダウンは上へと分離されて回収される様子がコンパクトに再現されている。また、ショーケースに近づくと下からエアーが吹き出し、ウルトラライトダウンがふんわりと踊るように舞い上がったり降りたりするシーンはSNS映えしそうだ。

筆者撮影
筆者撮影

筆者撮影
筆者撮影

4階

ウィメンズクリーンカジュアル売場

“クリーンカジュアル”の名称が初めて登場。「セオリー」とのコラボ商品を含めて、シティ感覚のシックで洗練されたきれいめアイテムを中心に集積。

(インスタレーション①)3Dニット

島精機製作所のホールガーメント編み機で、縫製のいらない立体的なワンピースができる様子を紹介。車で15分ほどの東京・東雲にあるニット工場で生産したMade in TOKYOの地産3Dニットも販売する。

筆者撮影
筆者撮影

(インスタレーション②)エマニュエル・ムホーの作品「人人・色色|hitobito iroiro」

建築家でありアーティストでありデザイナーでもあるエマニュエル・ムホーのカラフルな作品は、ダイバーシティ&インクルーシブを表現するもの。何百もの人型切り紙の中には、天使やネコが隠れているが、発見できるか?

(C)Emmanuelle Moureaux
(C)Emmanuelle Moureaux

5階

ウィメンズボトムス売場

(インスタレーション)ジーンズイノベーション

米国ロサンゼルスのジーンズ研究・開発施設「ジーンズイノベーションセンター」を拠点にジーンズの加工工程の水使用量を最大99%削減する先進技術「ブルーサイクル」を開発。使用する軽石を半永久的に使える 人工のエコストーンに変え水質汚染を軽減。手作業だったヒゲなどの擦り工程にレーザー機械を導入し、従業員の身体への負担も軽減させている。これらの工程や、節水量を可視化している。現在、ジーンズ1本の加工時に使用する水はたったティーカップ1杯分だ。

筆者撮影
筆者撮影

(サービス)カスタムコーナー

売場奥には、Tシャツやトートバッグにプリントができる「UTme」や、刺繍サービス「MY UNIQLO」が体験できるカウンターを開設。参考商品も陳列。裾上げもここで対応。これまでECのみで可能だったチェーンステッチ仕様の裾上げも開始。。

筆者撮影
筆者撮影

6階

ウィメンズインナー/ルーム

“ルームウエア”ではなく“ルーム”なのは、ヒートテックのブランケットやクッション、スリッパ、タオルなどホーム関連アイテムも扱っているから。銀座店のリニューアルオープンに合わせて吸水ショーツを新発売する。

(サービス)INTIMATE WEAR SALON

ウィメンズのインナー相談専門カウンターを初めて設置。総勢5人のブラアドバイザーを擁して、採寸したり、会話の中から好みのホールド感などを聞き出しつつ、商品の機能性の違いやフィット感、好適サイズなどきめ細かく提案。通常店舗よりも幅広いサイズを取り扱い、実際に試着して購入できることで安心感も提供する。

筆者撮影
筆者撮影

7階

キッズ&ベビー

(インスタレーション①)サステナビリティ

使用済みペットボトルを投入すると、分解し、ペレット、さらには繊維となり、Tシャツができるまでの工程を紹介。ハンドルを回すと工程の簡易映像が登場してそのれをわかりやすく体感できる。

筆者撮影
筆者撮影

(インスタレーション②)ドラえもんサステナモード

ユニクロのサステナビリティにまつわるグローバルブランドアンバサダーに就任したグリーンのドラえもんサステナモードが随所に登場。クイズ形式で地球や環境に良いことを学べる仕掛けをしている。

筆者撮影
筆者撮影

8階

メンズカジュアル

(インスタレーション)ハイブリッドダウン

スノーボードのオリンピック銀メダリストでスケートボードでも東京オリンピックに出場した平野歩夢選手と共同開発したハイブリッドダウンの温かさの秘密をデジタルを活用してフューチャリスティックに表現。

ユニクロ公式
ユニクロ公式

9階

メンズインナー/ルーム/スポーツ

(インスタレーション)ヒートテック

繊維の素材や形状、編み方などによる温かさのメカニズムをインスタレーションで解き明かす。

ユニクロ公式
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10階

メンズクリーンカジュアル

(インスタレーション)UNIQLO Masterpiece

考え尽くされたシンプルな服をさらに良いものへと改良させていく、ユニクロの進化する定番シリーズ。今回はスーパーストレッチシャツ(クロスファインシャツ)、隙のないダウン(シームレスダウン)、万能チノパン(スリムフィットチノパン)などを紹介。他にも、ちくちくしないスフレヤーンモックネックセーターやオックスフォードシャツ、フランネルシャツ、50色のソックスや傘などをラインナップ。 

筆者撮影
筆者撮影

(サービス)CUSTOM ORDER SALON

オーダーメイド感覚で選べるスーツサロン。ドメスティックのデザイナーズブランドなどでスーツの接客販売の経験を積んだスタッフや、特別な研修を受けた専門スタッフを配置。胸囲、胴囲、袖丈、首周りをメジャーリング(採寸)し、16サイズのジャケットと30サイズのパンツなど豊富なサンプルの中から実際に試着して着用感を体感・確認しながら最適なものを選択できるのがメリット。補正後、1週間で納品されるスピード感もウリ。「普段の既成服を買う気軽さで、オーダーメイド感覚の体にフィットした服を楽しんでもらいたい」と担当者。

筆者撮影
筆者撮影

筆者撮影
筆者撮影

11階

UT専門店

(インスタレーション)エスカレーター前や壁面のガラスケースに収まったUTの商品群は、Tシャツをキャンバスにしたポップアートのギャラリーのようだ。

筆者撮影
筆者撮影

(サービス)UNIQLO PHOTO BOOTH

1500円以上購入者が無料で利用できるユニクロバージョンのフォトブースを設置。「PEANUTS」(ピーナッツ)とコラボした限定壁紙やスタンプを用意し、銀座の街のイラストを背景に、スヌーピーやウッドストックなど人気キャラをデコることもできる。心なしか目が大きく肌がツルリと映るビューティがありそう。

筆者撮影
筆者撮影

12階

ユニクロU(コラボレーションフロア)

最新のコラボレーション商品を集めた売り場に。こけら落としにはパリを拠点にクリエイティブディレクターを務めるクリストフ・ルメール(元「エルメス」ウィメンズデザイナー、元「ラコステ」デザイナー)が手がける「ユニクロU」を展開。自然を感じさせるイメージボードなどをうまく使いながらゆったりと商品を陳列。

筆者撮影
筆者撮影

(インスタレーション①)「LifeWearマガジン」

年2回発行するユニクロのフリーマガジン「LifeWearマガジン」の最新号のページをズラリと並べたウォールを設置。刺しゅう入りパーカやスウェット、シャツ、トートバッグなど「LifeWearマガジン」のグッズショップも開設

筆者撮影
筆者撮影

(インスタレーション②)UNIQLO HISTORY

1984年に広島に1号店をオープンしてからの37年間の歴史を紐解く展示コーナー。柳井正会長兼社長が創業時にしたためたコンセプトシートや、かつてのロゴ、1998年の原宿出店時の行列、2007年に佐藤可士和氏がディレクションして原宿店を刷新したUTストア1号店などの写真を展示。ソファに座りながら眺めることができる。

筆者撮影
筆者撮影

筆者撮影
筆者撮影

(インスタレーション③)サステナブルウォール

ソファを挟んでUNIQLO HISTORYの逆サイドには、ファーストリテイリンググループのサステナビリティへの取り組みを紹介したウォールを設置。

(サービス)UNIQLO COFFEE

ユニクロ初のオリジナルコーヒーが飲めるカフェ「UNIQLO CAFFE」を初めて併設。オリジナルブレンドコーヒー200円(ホット、アイス)、ゲイシャ種ハンドドリップコーヒー450円(ホットのみ。数量限定)と、地元の名店「銀座ウエスト」のバタークッキー200円を販売。隣接するミニカウンター席や中央通り沿いの窓際のソファでコーヒーブレイクができる。コロンビア産のゲイシャ種の豆を使ったハンドドリップコーヒーはシングルオリジンのスペシャリティコーヒーで、ミューシレージ(コーヒーチェリーの他の周りにある粘膜質)を残したパルプドナチュラル(ハニープロセス)製法により、甘みが強いのが特徴。近隣なら1000円以上するとのこと。コーヒーまでユニクロ価格を実現。蓋を紙製にし、竹のストローを使うなど、プラスチック削減にも取り組んでいる。

ユニクロ公式
ユニクロ公式

 ユニクロは今週、大阪・心斎橋店のユニクロ・GU併設店舗のリニューアルオープンに加え、フランス・パリのリヴォリ店のオープンも重なっている。北京や台湾での店舗網の再編や、来春のロンドンのリージェントストリートへの出店も控えている。逆風のこそ成長のチャンスと、ユニクロの攻勢は続きそうだ。その次世代型の店作りのヒントやチャレンジがここ、ユニクロ 銀座店に詰まっていそうだ。

                 <了>

関連記事:ユニクロが「アート」がテーマの大型店をパリ・リヴォリ通りに出店 目玉はルーヴル美術館との協業

https://news.yahoo.co.jp/byline/kumimatsushita/20210908-00257077

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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