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LVMHがダイバーシティ&インクルージョンでレスリー・キーと協業 「SUPER LVMH」写真展開催

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
LVMHジャパンのノルベール・ルレ社長(左)とレスリー・キー氏 写真は全てキー氏

「ルイ・ヴィトン」や「ディオール」「セリーヌ」「ケンゾー」「ジバンシィ」「ブルガリ」「ティファニー」など数々のラグジュアリーブランドを擁する巨大コングロマリットのLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン。日本でグループを展開するLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパンが、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)をさらに推進するため、「“ 性” と“生” の多様性」を祝福するイベント「東京レインボープライド2024」(4月19~21日、代々木公園)に協賛し、21日にはグループの250人がパレードに参加。「パルファン・クリスチャン・ディオール」「ゲラン」「パルファム ジバンシイ」「メイクアップフォーエバー」がジェンダーレスメイク体験ブースに出展した。さらに、レスリー・キー氏がグループのエグゼクティブとメゾンのアイテムを身に着けた30組のアーティストらを撮り下ろしたマガジン「SUPER LVMH -Art de Vivre-」を発行するとともに、5月19日まで東京・原宿キャットストリートの「Creative Space Akademia 21」で写真展を開催中だ。LVMHのエグゼクティブが一堂に会して露出するのは稀有なことで、D&Iに対する強いコミットメントが表れている。LVMHジャパンのノルベール・ルレ社長とレスリー・キー氏に、この企画が実現した背景や、込められた思いを聞いた。

――「東京レインボープライド2024」への参加、そして、「SUPER LVMH -Art de Vivre-」が実現したきっかけは?

ノルベール・ルレ社長:レスリーとは昨年9月、私たちのウォッチブランド「ゼニス」と夢を追う人々を撮り下ろした写真展で初めて会い、もう、1秒目からすごい人だと感じた。フォトグラファーとしてはもちろんのこと、その人間性が素晴らしかった。美味しい「モエ・エ・シャンドン」のシャンパンを飲みながらいろいろ話すうちにさらに意気投合し、レスリーがサポートしてきた「東京レインボープライド」の30周年が2024年4月に行われるので、何か一緒にできないかという話になった。

私たちはもともとD&Iに強くコミットメントしていて、グループ内でもメッセージを発信し、社内向けのムービーでその重要性を伝えたり、マインドセットの改善を呼びかけたりしてきた。日本の中にも、D&Iのメッセージをもっと発信していきたい、行動したいという思いが強い社長も増えていた。ちょうどタイミングも良く、レスリーのアイデアと私たちのアイデアを融合させて実現することができた。

レスリー・キー氏:LVMHグループを含めて、多くのメゾンの服やアーティストを雑誌のタイアップで撮ったりするだけでなく、日本がもっと良くなるような、理想の日本の実現に向けた企画なども多く手がけてきた。でも、もし企業の力を借りられたら、自分のビジョンをこれまでの100倍ぐらいの人々に届けられると思っていた。トップ企業のLVMHの日本の社長であるルレさんのことは懇意にしている経営者の方からも聞いていたので、ずっとお会いしたいと思っていた。

これまで「東京レインボープライド」は友人のアーティストなどをキャスティングしたり、撮影したりすることでサポートしてきたが30周年の節目の年にもっとインパクトがあることができないかと相談されていた。

そして、LVMHグループのキーパーソンの方々との出会いもきっかけの一つになった。それが、「パルファム ジバンシイ」の金山桃社長だ。まだまだ文化祭のイメージがある「東京レインボープライド」のブースに昨年出展していて、「え、ラグジュアリーブランドが参加しているの?」と正直驚いたのだが、とても熱い思いを持っていて。「次はグループと連携して出たいので、何か一緒にできる可能性はありますか」と相談を受けていた。

ノルベール・ルレ社長:レスリーはパリに年5回ほど訪れているということだったので、10月のファッションウィークのタイミングで本社を訪問してもらい、人事担当の副社長の話を聞いてもらったり、私たちの歴史やDNAを知ってもらったりもした。同性婚をしているレスリーの夫のジョシュアさんと、パリに住むゲイの私の弟も交えながら食事をしたりもしながら、さらに理解を深めていった。

すごくスムーズに話が進んだのは、目的が一緒だから。みんなが好きなようにやりたいことをやり、自由な気持ちで行動し表現する。法律違反以外のことならなんでもしてくださいと。社会的に何かができないといった縛りはほとんどなかった。

それは私たちのファッションやジュエリーのデザイナーやイベントのクリエイターなどの仕事と同じだ。壁を作らず、壁を超えなければ、新しいコレクションやプロダクトなどは出来ません。今、社会にはいろいろな壁があり、無駄な壁が多い。私たちは社会的な壁を超えたい。壁を壊したい。壁をゼロにしたい。それによって、ファッションを前進させ、夢を実現させ、自分がなりたいものになる。人生は面白いものなのだということをあらためてメッセージとして伝えたかった。

私たちのグループでは会議もするし、毎日顔を合わせるが、一丸となってこれだけのプロジェクトを行うのは初めてのこと。でも、そのスタンスは通常となんら変わらない。ラグジュアリーブランド、ラグジュアリービジネスを通じて、どんどん良いものをつくり、良いものを見せ、良いブティックをつくり、文化的にも街に貢献したい。その強い思いがあり、一番いい会社だからこそ、レスリーも情熱をかけてクリエイションしてくれたのだと思う。

レスリー・キー氏:「ゼニス」での撮影やマガジン、写真展も含めて、グループの方々との信頼関係が築かれていたのも、すごいスピードで今回の企画が実現するきっかけのひとつになった。一番嬉しかったのは、撮り下ろした「SUPER」マガジンをルレさんがルーペを取り出して見て、「いい本ですね」と褒めてくれたこと。雑誌社の社長も務められたことがあるルレさんは紙媒体に対しても思いが強く、その方に褒められたことがとても誇らしかった。

デジタル化がどんどん進む中で、私が憧れた媒体もどんどん減っていってしまっている。写真はプリントされてこそ初めて写真になるもの。今の若い世代はデジタルに慣れているけれど、今回のように写真を大きく引き伸ばして写真展で見るとその素晴らしさや凄さは何倍も印象が違う。ファッションの服やバッグもブティックに行って実際に見て触るからこそ、よりその素晴らしさがわかるもの。ジュエリーも時計も同じで、デジタルは一つのきっかけにはなるけれど、人間はリアルに行動することで感動が何倍にも大きくなるものだと思っている。今回は、LVMHのD&Iと私のビジョンとモーション、パッションが合わさって、よりパワーのあるものを生み出すことができたと思う。

――グループ・ブランド各社の経営トップがこれだけ登場することはとても稀有なことだ。それだけダイバーシティ&インクルージョンに対する強いコミットメントの表れだと思うが、本国からの反応は?

ノルベール・ルレ社長:すごくいいねと好評で、すぐにやってくださいとゴーが出て、本格的に企画を進めていった。日本ということにも大きな意味があった。私たちにとってもファッション業界全体にとっても、日本は“インスピレーション・カントリー”だ。日本から来るトレンドをよく注視している。それもあって、D&Iのメッセージを日本から伝えるのは良いことだという判断もあったと思う。

しかも、コンテンツがいいし、レスリーのフォトグラファーとしての評判も良かった。やはり私たちが作るものは、すべて良い品質、良い紙で、良いポーズで、キレイに美しくありたいと思っているので。われわれLVMHグループのいつものやり方でできたということも大きなポイントだ。

レスリー・キー氏:長年、撮影をしたり、いろいろなイベントやエキシビションに行くことで、LVMHからはたくさんのインスピレーションを受けてきた。100年を超えるレガシーを持つブランドも多くあるが、すべて清く正しく美しく、守るだけでなく壁を超えていき、永遠に輝き続けるために進化し変革し、多様性を包含していく各メゾンのDNAや姿勢から、いつも学ばせてもらっている。心を込めてつくったものを最高のクオリティで多くのオーディエンスやコンシューマーに丁寧に届け続けてきていることも素晴らしい。

ラグジュアリーブランドは遠い存在だと思われる人もいるかもしれないけれど、LVMHはハートウォーミングで人間味もあり、愛があふれていて、社会に伝えたい強いメッセージを持っている。「SUPER LVMH -Art de Vivre-」の写真展で、その思想はもちろんのこと、ラグジュアリーな衣食住のライフスタイル・プロバイダーであるLVMHグループの多くのブランドを知ってもらうきっかけになってくれたら嬉しい。いつかパリのチームの写真も撮ってみたい。

そして、フォトグラファーとして、私のライフワークとして、記憶と歴史に残る今回のプロジェクトは、さらに大きな責任と課題に取り組んでいくきっかけになると思っている。それは、30年以上住む愛する日本を世界に発信し、世界に日本を推していくことだ。日本から世界をもっと良いものに変えていくことに努めたい。

ノルベール・ルレ社長:今回のプロジェクトは、まさに「3 Be」が詰まったものだった。1つ目はBe Happy。2つ目はBe Optimistic。楽観的に。未来には良いことが起こると信じて。Pessimistic(悲観的)はダメで。3つ目は、Make Your Dream、あなたの夢を実現して、ということだ。

私は日本に住んで43年になるけれど、初めて日本に来た時に持っていたのは、パスポートと10万円だけだった。レスリーも私も縁あって人生の多くを日本で暮らしてきたが、私たちはこの国からチャンスをもらい、とても幸せだった。時には人生は大変なこともあるし、世界に目を向ければ戦争もある。だけど、日本は平和で、教育も整い、みなにチャンスが与えられている。良い建築物も増えているし、和食だけでなく食も豊かだ。新旧のさまざまな文化もある。素晴らしい国民がいるし、生活環境もとても良い。LGBTQの方々も楽しく暮らせるし、欲しければ同性同士でも子どもも持てる。世界のモデルケース、地球のモデルケースにしてきたい。他の外国人たちにも、どんどん日本に来てください、この国で仕事をしてくださいと伝えたい。言葉は勉強しなければならないけれど、暮らしやすく働きやすい場所だ。素晴らしい日本社会に、恩返しし、さらに良くなるように貢献したい。その思いがこのプロジェクトにも込められている。

LVMHグループのダイバーシティ&インクルージョンのスローガンは「本質的なダイバーシティと、選択的なインクルージョン」だ。LVMHの従業員は4世代(平均年齢34歳)、190超の国籍で構成され、80ヵ国超に拠点を置く、「元来、ダイバーシティを備える企業」だ。背景に関わらず、本人のユニークさ、才能、特異性を強く信じ、「視点の違いを大切にすることで、ビジネスをより創造的に、より革新的に、そしてより強くすることを日々目指して」いる。インクルーシブは皆が取り組むべき課題であり、「人」「パートナー」「イメージ」を行動の3つの柱に据えている。つまり、LVMHとそのメゾンは「インクルーシブな慣習を従業員のエンプロイージャーニー全体に組み込」み、「サプライチェーン全体にインクルーシブな慣習を取り入れ」、さらには、「マーケティングキャンペーンから店舗での体験に至るまで、インクルーシブな慣習」を追求している。

写真展「SUPER LVMH ~ ART DE VIVRE Photographed by Leslie Kee」

期間:4 月 19 日(金)- 5 月 19 日(日) 11:00 ~ 19:00

会場:Creative Space Akademeia21 Harajuku

渋谷区神宮前 5 丁目 27 番 7 号 アルボーレ神宮前 1F/2F

メディアパートナーおよび『SUPER LVMH』マガジン発刊パートナー:朝日新聞社

ノルベール・ルレ(Norbert Leuret)/LVMH ジャパン代表取締役社長

フランス生まれ。1981年に来日し上智大学に入学。フランス大使館勤務を経て、「コルドン・ブルー」に勤務し日本の「コルドン・ブルー」設立に参画。キャンピングガスジャポンを経て、ベルギー滞在の後、LVMHに入社。1997年に再来日しケンゾー・ジャパンのマネジング・ディレクター、社長。2003年アシェット婦人画報社社長、2006年ザラ・ジャパン取締役兼CEO。2016年から現職。

レスリー・キー(Leslie Kee)/フォトグラファー

シンガポール出身。1994年に来日し、東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。1998年にフォトグラファーデビュー。2001年から9年間ニューヨーク在住。2004年に自らクリエイティブディレクター兼発行人として雑誌「SUPER」を創刊。著名人のジャケットやポスター、雑誌などの商業写真に加え、災害支援のチャリティ写真集やLGBTQカミングアウト・フォト・プロジェクトなどにも参画。2019年にニューヨークで“同性婚”し、2020年に渋谷区でパートナーシップ証明書を取得。現在の拠点は日本とニューヨーク。

東京レインボープライドに賛同する LVMH ジャパンのブランド・会社

☆ファッション&レザーグッズ:「ルイ・ヴィトン」「クリスチャン・ディオール・クチュール」「フェンディ」「セリーヌ」「 ジバンシィ」「ロエベ」「ケンゾー」「ベルルッティ」「ロロ・ピアーナ」「マーク ジェイコブス」「ステラ マッカートニー」「モワナ」「リモワ」

☆ウォッチ&ジュエリー:「ブルガリ」「ティファニー」「ショーメ」「フレッド」「タグ・ホイヤー」「ウブロ」「ゼニス」「LVMH ウォッチ&ジュエリー」「レポシ」

☆パフューム&コスメティックス:「パルファン・クリスチャン・ディオール」「パルファム ジバンシイ」「ゲラン」「ケンゾー パルファム」「ロエベ パルファム」「メイクアップフォーエバー」「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」

☆ワイン&スピリッツ:「MHD モエ ヘネシー ディアジオ」

☆セレクティブ・リテーリング:「DFS」

写真展参加セレブリティ/( )内は着用ブランド。アルファベット順

グレース・ジョンソン (Bulgari) / 野宮真貴、Solomiia (DFS) / 大平修蔵、マギー (Fendi) / アオキ・リー・シモンズ、Yamato (Fred) / ジュリアン・シュナイダー (Givenchy) / 桐谷美玲 (Guerlain) / 水上恒司、すみれ (Hublot) / &TEAM、I Don't Like Mondays. (Kenzo) / 河瀨直美、エミリオ・インソレラ、カローラ・インソレラ(Loro Piana) / Miyu、ルカ・ノヴァコフスキー、小黒 直樹 (Make Up For Ever) / 西内まりや (Marc Jacobs) / Ele (Parfums Givenchy) / AMIAYA、長谷川ミラ (Rimowa) / マリー・ソフィー・ウィルソン (Repossi) / アオイヤマダ (Stella McCartney) / 三浦孝太 (TAG Heuer) / 三吉彩花、ネイサン・ハルトノ (Tiffany) / ジョシュ・ワルド、クララ・ボダン (Zenith)

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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