死者数は過去5年、死傷者数は過去10年で最多ペース

 2月21日、厚生労働省が2022年1月1日から31日までの1ヶ月間の労災事故の死者数、死傷者数(2月7日までに厚労省に報告された速報値)を公表した。

 統計によれば、この一ヶ月だけで既に56人が労災で亡くなったことが明らかになった。実はこの死者数は、過去5年(同時期の速報値での比較)で最多ペースだ。近年の1月の労災の死者数は、47人(2018年)、35人(2019年)、37人(2020年)、37人(2021年)と推移している。

 また、4日以上の休業を必要とする労災の死傷者数についても、既に4827人(主にコロナ感染が理由とされる527人を除いている)に達している。こちらに至っては、過去10年間の1月(2015年以降は同時期の速報値での比較)で最も多い(下図参照)。

厚労省資料より筆者作成。
厚労省資料より筆者作成。

 労災には、長時間労働やハラスメントによる脳・心臓疾患や精神疾患もあるが、そのほとんどを占めるのは、機械への巻き込み事故などの、いわゆる労災事故である。過去5年、10年で最多ペースの労災事故は、一体どのような形で起きているのだろうか。そして、この労災の増加傾向を変えていくには、どうしたらいいのだろうか。

転落、はさまれ、崩壊、転倒……象徴的な労災事故

 まず、実際にどのような事故が多発しているのかをみていこう。事故のパターンごとにまとめると、この1月における死亡災害の1位は墜落・転落(19人、昨年から7人増)、2位ははさまれ・巻き込まれ(10人、昨年から5人増)、3位は崩壊・倒壊(6人、昨年から1人増)となっている。

 次に、死傷災害の1位は転倒(1856人、昨年から202人増)、2位は墜落・転落(791人、昨年から42人増)、3位は主として感染症による労働災害(527人)、4位ははさまれ・巻き込まれ(472人、昨年から31人増)だ。

 こうしたパターンごとに、具体的な労災事故を1月のニュース報道からみてみよう。

転落

1月21日、埼玉県嵐山町にある大手牛丼チェーンの工場で、食品加工中の過程で発生する排水の移し替え作業中を行っていた30代の男性が、深さ3メートル分の汚水の入っていた貯水槽に転落して死亡した。

はさまれ・巻き込まれ

 1月9日、東京都府中市のアスファルト製造会社で、工場のミキサー機械を内部で点検していた20代と40代の男性が、何らかの理由で作動したミキサーの棒状の部分に挟まれ、死亡した。

 本事件に関してはこちらの記事も参照してほしい。

崩壊・倒壊

 1月28日、静岡県沼津市で、市道に下水道管を設置するため、18歳の男性が長さ約12メートル、深さ約2.6メートルの穴を掘る作業をしていたところ、約3.3立方メートル分の土砂が崩れて下敷きとなり、死亡した。

転倒

 1月19日、広島県東広島市で、工事現場においてコンクリートを打ち込むため、40代の男性がショベルカーを操縦していたところ横転してしまい、下敷きになって死亡。

 これらの死亡事故は、深刻な労災被害の一部に過ぎない。統計では月60件近く、1日2件ほどのペースで労災死亡事故が起きているのである。

2021年の年間労災死傷者数は、なんと過去20年で最多ペース?

 ここで、最近の労災事故の増加の背景について考えてみたい。労災事故件数の多さは、もちろんこの一ヶ月に限ったことではない。実は、2021年の1年間における労災事故の死傷者数は、現在集計中だが、過去20年間で最多になる勢いなのだ。

2022年2月時点の速報値で12万3452人(コロナ感染による労災約1万9000人を除いている)。この数は、2019年2月時点での2018年の労災死傷者数の速報値を上回っている。

 近年、製造業や建設業の労災件数が減少傾向にある一方で、小売業や介護などの第三次産業における労災事故は増加している。小売業や介護では、死亡するほどではないが、転倒や動作の反動・無理な動作による被害が多く、まだまだ安全対策が不十分だ。

 さらに、事故を起こしやすい高齢労働者の増加や、差別によって万全な安全対策を受けられない外国出身の労働者の増加も、労災死傷者数の近年の傾向に影響している。こうした経緯から、2018年には年間の労災死傷者数が、過去20年間で最多である12万7329人に達している。

 そのうえで、2021年の労災件数の増加には、さらに独自の背景があると考えられる。2021年に労災が増加した理由として、間違いなく考えられるのは、(直接の感染を除く)コロナ禍の影響だ。感染対策のために打ち合わせのオンライン化が進んだり、現場を巡回する人員が削減されてしまったりすることで、対面での安全指導が弱まっているという指摘がある。

 加えて、外国出身の労働者が感染対策のための入国規制によって日本で働くことができなくなったことで、企業が人手不足を補うことができず、現場の業務が過剰になるなどして、安全対策がおろそかになっているという点も指摘できる。

 コロナ禍で人手不足が加速したことで、過重労働におちいったり、過密なスケジュールで働くことで安全配慮がおろそかになるといった事態が頻発しているわけだ。こうしたことも、コロナ禍の「労働」への重大な影響である。

労災事故に遭ってしまった場合に

 最後に、深刻な労災事故の増加の中で、自分や周囲の人が被害に巻き込まれてしまったら、どうすればいいのかを確認しておきたい。

 第一に、労災保険制度の利用だ。労働基準監督署に労災事故に遭ったことを申請すれば、治療費の全額に当たる療養給付と、賃金の8割に当たる休業給付が払われる。会社が手続きを進めてくれる場合も多いが、労災事故を隠蔽されたり、事実と異なる内容で報告書を労基署に提出されたりしてしまうケースも後を絶たない。会社任せにせず、自分から労基署に申請することや、会社の記入した報告書をしっかり確認することをお勧めしたい。

 さらに、労災の後遺症が残る場合には、改めて労災申請を行うことによって、障害給付が支給される。万が一、被害者が亡くなった場合は、遺族に遺族給付が支給される仕組みになっている。

 労災の給付が降りても、それだけでは不十分だ。会社側の責任を追及して、慰謝料や、本来今後の生涯で働いて、受け取ることのできたはずの逸失利益などの損害賠償を会社に請求することができる。この権利行使を推奨したい。

 もちろん、いくら賠償が払われたとしても、事故でなくしてしまったり、動かなくなってしまったりした身体が元に戻るわけではないし、被害者が亡くなった場合はなおさらだ。しかし、残された被害者自身や遺族の生活を少しでも過ごしやすいものにするためにも、同様の被害を今後起こさせないよう経営者に徹底的にわからせるためにも、損害賠償請求を行うことは非常に大事なことだ。

 ただ、いずれも個人で行うことはかなり困難なので、ぜひ労災被害者の権利行使を支援する団体や専門家に相談してみてほしい(末尾も参照)。

 産業構造の変化や、労働者層の変化、感染症の拡大などによって、労災事故が今後も増える可能性は否定できない。だが、労災事故を減らすためにも、労働者や遺族が声をあげ、損害賠償を払わせることが当たり前になる社会になっていくことが不可欠なのではないだろうか。

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