「手取り13万円」がTwitterでトレンド入りし、話題になっている。きっかけとなったツイートは以下のようなものだ。

 このツイートに対し、共感と批判が寄せられている。まず、自分自身も同じ境遇に置かれているという人たちからは共感が集まっている。

 就職先決まったのだが、給料を手取り計算サイトで計算したら13万くらい。「やっぱりキツイんですね…将来が不安です…」というものや、「国は本当に知らないんだろうけど、自分も契約社員だった時は給料が低くて常に人生詰みそうだった」という声などだ。

 他方で、このツイートに反発する意見としては、「転職すればいい」という意見が多くみられる。

 こちらも具体例を紹介すると、「自分も手取り13万円の時がありましたが、今は転職して給料は倍になりました。今の時代探せば色んな仕事があります。頑張って下さい」といったものや、「嫌なら転職すりゃあいい、給与上げるだけならそこかしこに求人あるんだから探しなさい」といったものだ。

 こうした意見に対しては、さらに、「違うんだよ。手取り13万に対して転職しろ、このバイトしろ、節約しろじゃねぇんだよ」、「個人の生活背景なんて誰にもわかんねぇ、口だしちゃいけねぇ。真っ当に頑張って働いても13万の人が多くいて、その日ぐらしで、明日のことなんか考えられない状況が今の日本だってことなんだよ」といった反論も寄せられている。

 以上の議論も踏まえ、今回は、データを参照しながら、手取り13万円がどれくらいの水準なのか、転職することで解決ができるのか、などについて考えていきたい。

「手取り13万円」は飢餓賃金

 まず、「手取り13万円」がどれほど低い水準の賃金なのだろうか。

 最新(2020年)の賃金構造基本統計調査によれば、正社員の平均賃金が32万4200円、非正規雇用の平均賃金が21万4800円であるため、「手取り13万円」は非正規雇用に多い可能性が高い。

 その上で、非正規雇用の消費実態を見ると、「手取り13万円」の水準の低さがわかる。全国消費実態調査によれば、最も支出が少ないのが男性の派遣社員で13万2911円、最も支出が多いのが女性の派遣社員で15万8773円である。

 つまり、「手取り13万円」では非正規雇用の平均的な支出さえ割り込み、貯蓄は当然無理であり、かなり切り詰めなければ生活ができないということを示している。

図1 非正規雇用の消費支出(「平成26年全国消費実態調査」)
図1 非正規雇用の消費支出(「平成26年全国消費実態調査」)

 さらに、生活の最低限に位置づけられるべき水準(最低生活費)とも比較してみよう。ここでは、実際の地域ごとの一般的な生活必需品を詳細に分析した静岡県立大学准教授の中澤秀一氏が試算した最低生計費を参照する。

参考:後藤道夫・中澤秀一・木下武男・今野晴貴・福祉国家構想研究,2018,『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし 雇用破壊を乗り越える』。

 ここで言う最低生活費とは、労働者・市民に対する「生活実態調査」「持ち物財調査」に基づき、7割以上の人が保有の品目を組み入れ、消費数量としては下から3割の人が保有する数を基準として算定している。

 中澤氏は、保有率が7割以上の品目をピックアップし、所得階層が下から3割の人が保有する数を消費量として算出している。このような方法で、被服・履物費以外の食費や住居費などを算出した結果が図2の通りである。

 さいたま市在住のケースでは、25の1DKのアパートに住み、家賃は更新料込みで5万2500円。冷蔵庫、炊飯器、洗濯機、エアコンなどの家電は実際の買い物先である量販店の最低価格帯でそろえている。

 朝食は家で食べ、昼食はコンビニなどで弁当を買い(1食500円)、2か月に3回同僚や友人と飲み会・ランチに行っている設定だ。この金額を割り込むということは、本当に、物理的に生活困難になっていくという水準であることがよくわかる。

 例えば、埼玉県さいたま市在住の男性であれば、月額の最低生活費は税抜190824円で、うち食費38610円、住居費と水道・光熱を合わせて59367円となっている。その他の地域であっても、「手取り13万円」で足りるということはない。

図2 最低生計費調査結果
図2 最低生計費調査結果

 最後に、法的に定められた最低生活費に基づいて支給される生活保護と比べるとどうだろうか。例えば、東京都内の単身者であれば、生活扶助(生活費)7~8万円、住宅扶助(家賃)53700円を合わせて約13万円には達する。

 しかも、生活保護では医療費が無料となり、住民税や水道の基本料金、NHKの放送受信料などが免除される。その上、アパートの更新料や引っ越し費用などの一時的な出費についても保護費から支給されるのである。つまり、生活保護の方が高い水準であることは間違いないだろう。

 このように、「手取り13万円」は最低限度の生活すら不可能な、飢餓的な賃金水準だと言わざるを得ないだろう。

転職すれば解決するのか?

 それでは、批判者の言うように、転職すれば解決する問題なのだろうか。

 この点については、「雇用動向調査」の中にある「転職入職者の賃金変動状況」が参考になる。最新(2020年)のデータによれば、前職の賃金に比べ「増加」した割合は34.9%、「減少」は35.9%、「変わらない」は28.4%となっている。

 つまり、転職することで増収する可能性は3割強でしかなく、現状維持か減収になる可能性が圧倒的に高いのである。

 もし仮に、非正規から正社員に転職ができた場合でも、賃金が必ず上がるとは言えない。実際に、労働力調査(2020年)のデータでは、正社員のうち年収200万円未満(手取りの水準では13万円に近い)の割合が男性4.8%、女性16%に上っている)。

 さらに、社員を使い潰す「ブラック企業」の正社員であれば、時給換算すると最低賃金ギリギリで、過労死ラインを超える長時間労働の分、額面上の賃金が上がるに過ぎない。

 事例は枚挙にいとまがないが、一つだけ例を挙げよう。

 ある大手コンビニのフランチャイズ会社で「店長候補」として新卒で採用された労働者は長時間・低賃金労働だった。

 毎日8時から22時までの14時間勤務で、「基本給15万円、営業手当2万円、業務手当3万円、手取り17.8万円」しかもらえなかった。前述の非正規雇用の可処分所得の額とほとんど変わらない。

 現状を踏まえれば、飢餓賃金を耐えるか、過労死ラインの長時間労働を耐えるか、の二者択一になってしまう。転職などの自助努力で解決することはほとんど不可能に等しい「無理ゲー」状態が、現実なのである。

最低賃金1500円の実現を

 このように考えてくると、正規も非正規も、苦しい生活から脱却するためには、最低賃金のさらなる引き上げが必要である。

 非正規雇用の貧困を改善し、正社員の場合には過労死を予防するためにも必要だ。

 今年は最低賃金の全国加重平均が昨年の902円から930円に引き上げられた。それ自体は歓迎すべきことだが、最低賃金はまだまだ引き上げられる必要があるということだ。

 前述の中澤氏によれば、所定労働時間を173.8時間とすると、最低生計費を稼ぐには少なくとも時給1300円は必要だという計算になる。

 しかも、この所定労働時間はお盆もお正月も関係なく1日8時間週40時間で1年間働き続けるという想定なので、よりゆとりを持たせるためには時給1500円は必要とされるだろう。この水準は、最低限の「生存権」の水準にあるといえる。

 今回の選挙では、野党のほとんどが「最低賃金1500円」を公約に掲げている。これが実際に実現されるためには、社会運動による後押しが不可欠である。労働者自身が非正規・正規の垣根を超えて「生存権」を主張していくことが重要だ。

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