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企業へのインターンシップじゃ物足りない? NGOや労働組合が注目される理由

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:Paylessimages/イメージマート)

インターンシップは「視野を広げるため」が55%

 夏休みシーズンが近くなり、インターンシップ先を探す学生が増えている頃だろう。「マイナビ 2022年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査」によれば、いまや学生のほぼ8割が、何らかのインターンシップに参加しているという。

 同調査によると、インターンシップの志望動機は、1位「どの業界を志望するか明確にするため」(68.1%)、2位「どの職種を志望するか明確にするため」(56.6%)、4位「特定の企業のことをよく知るため」と、就職先の方向性を具体化することを目的としているケースが多い。

 一方で、3位「視野を広げるため」(55.0%)、5位「自分が何をやりたいのかを見つけるため」(50.1%)と、直接に就職につながる情報を得るだけでなく、もっと広い経験を求める希望も多い。

 後者の場合、インターンシップ先の選択肢に、企業以外のNGOやNPOも入るだろう。非営利団体では、自分たちが生きている社会にどのような問題があるのかを知り、組織の利益追求という枠に限定されず、自分が社会でどのように生きていくのかをじっくり考えることができる。

 その中でも、最近興味深いケースがある。労働組合(ユニオン)がインターンシップ先として選ばれるようになっているというのだ。そもそも、労働組合インターンとは何だろうか。なぜ選ばれているのだろうか。そして、どのような体験をできるのだろうか。

「就職先」としてのNGOと労働組合

 NGOやNPOなどの営利追求を第一目標としない非政府組織は、世界的には「有力な就職先」とされており、学生の就職希望者も多い。ハーバード大学ケネディ行政大学院の卒業生の就職先(2016年)のうち、4割が民間、3割が政府、2割がNGO・NPOだったという。

 また、世界中の就職先希望の団体ランキングを毎年発表しているUNIVERSUMの大学生を対象とした調査でも、次のような実態が明かされている。

 アメリカでは、教育困難地域の学校に大学卒業生を教師として派遣する教育NPO「ティーチ・フォー・アメリカ」が毎年、就職先希望ランキング(人文学系)の上位の常連であり、2020年も11位のアップル、12位のスポティファイに次いで、13位に並んでいる。

 イギリスでもそのイギリス支部である「ティーチ・ファースト」の人気が高く、2021年の同ランキングでは8位のグーグルに次いで9位だという。イギリスでは、貧困層への支援を行う国際NGO「オックスファム」を希望する学生も多く、2019年の同ランキングでは、10位のアップルを押さえて、8位にランクインしている。

 実は、世界的にはNGOやNPOの母体が労働組合であることも多く、労働組合は非営利組織の組織・財政基盤である。一例を挙げると、2005年に日本でも「ホワイトバンド」を腕につけるアクションで注目された「Make Poverty History」(貧困を過去のものに)という世界的なキャンペーンがあった。当時のG8サミットに合わせて貧困国の債務帳消しを求めたのだが、これは国際NGOがイギリスの最大の労働組合「イギリス労働組合会議」(TUC)の支援を受けて行ったものだった。

 そもそも労働組合じたいが、NGOやNPOの代表的な存在でもある。労働者の権利を守るための非営利組織として、世界各国に存在する。行政とも連携した活動を行い、国や自治体の公の機関である労働委員会では、労使紛争の問題解決のために労働組合の経験者を「委員」に任命しているほか、審議会など様々な政策決定の場面で「労働組合代表」が参加している。

 当然、労働組合ではその活動を支えるための専従スタッフも多数抱えている。日本最大の労働組合である連合でも、100人を超える職員が働いている。

 さらに、労働組合の活動は労働者一般の権利を保護する活動であるため、労働者自身が働きながら活動を支えたり、一定期間休職して専従者を務めたりすることも多い。そうした実務経験から自治体の委員を担う専門家が育成される。労働組合の活動を経験することで、自分自身や周囲の人々の労働問題に対応する「労働コンサルタント」としての能力を養うこともできるのだ。

労働組合では何ができるのか

 では、その労働組合は、一体どのようなことができるのだろうか。実は、労働組合は法律上特別の権利を有しているため、独自に労働問題を解決することができる。

 特に、個人が抱える問題の解決に貢献しているのが、地域を中心に活動するコミュニティ・ユニオンである。コミュニティ・ユニオンでは、企業内労働組合と異なり、その地域の労働者から、残業代未払いや長時間労働、パワハラ・セクハラなどの労働相談を広く受け付け、改善や補償などの解決に取り組んでいる。

 労働者は、企業の内外を問わず、労働組合に加入して組合員になることで、経営者に労働問題について話し合う団体交渉を求めることができる「団体交渉権」を持つ。経営者はその団体交渉を受ける義務を課されている。加えて、労働者は労働組合に加入すれば、会社前での抗議活動やインターネット宣伝、ストライキなどを行うことのできる「団体行動権」が認められる。労働組合では、これらの権利を駆使しながら、会社と交渉するのだ。

ユニオンみえのインターン体験談

 ここで、具体的な労働組合インターンの体験談を見ていこう。

 大学生のAさんは昨年、三重県にある個人加盟の労働組合「ユニオンみえ」で、コロナ禍のオンライン授業期間を利用して、約1年にわたり、労働組合インターンを体験した。

 ユニオンみえでは、学生や若者を対象としたインターン制度を設けている。具体的なメニューは、

(1)電話や来所による労働/生活相談の対応

(2)団体交渉などの労使交渉への参加

(3)ユニオンみえが多数の労働者を組織している職場の見学

(4)裁判や労働委員会の傍聴、抗議行動の参加労働基準監督署への申告に同行等、(5)組合企画の参加。(集会・学習会…など)

となっている。最初は労働相談から始めて、慣れてきたら具体的な事件の担当者を任され、団体交渉や団体行動まで経験していくという。インターンでありながら、実際に問題を抱える企業と「交渉」し、労働問題の「解決」まで任されるというわけだ。しかし、そのハードルは高いように思われる。

 そこで、事前に実施される団体交渉の「ロールプレイング」がユニークだ。最初は、「労働組合」の役を演じる労働者とインターン生が、「経営者」役のユニオンの専従スタッフから、徹底的にやり込められる。「第2ラウンド」では逆に、労働者とインターン生が「経営者」役を演じ、徹底的に要求を受ける状態になる。しかしこの体験を踏まえることで、本番では物おじすることなく、経営者の思考まで想定しながら、団体交渉に挑むことができるという。

 Aさんが労働組合インターンに本格的に参加したのは、ちょうどコロナ禍が全国的に広がり始め、労働相談も非常に多い時期だった。

 団体交渉での経営者への違法・不当行為の追及や、会社への抗議行動は、これまで全く縁のなかった行為で、最初は戸惑ったという。しかし、それをはるかに上回って驚かされたのは、経営者側の態度だった。労働者を低い賃金で働かせ、容赦なく雇い止めし、団体交渉でも横柄な態度の経営側の人間たちが、「SDGs」のバッジをつけている。「自分たちはいいことをしている」と信じ込んでいる企業が、労働者への補償については「心外だ」と開き直ってくる。Aさんは、こういう経営者たちが平然と差別や貧困を生み出しているということを痛感させられた。

支援の「先のこと」まで考えたい

 ところで、Aさんには、労働組合インターンに参加に参加した自分なりの理由があった。実はAさんは、以前に国際支援NGOでインターンに加わっていた。しかし、そこでもどかしい思いをしていたという。確かに「目の前で困っている人」を助けることは必要だ。でも、一時的に海外に行って支援活動を行っても、持続しないのではという疑問を感じていた。支援を受ける人のその先の生活や、さらに格差を生み出す背景に目を向けることが必要なのではないか。

 また、そうした思いは、Aさんの個人的な経験にも裏付けられていた。小学校の頃から学年に中南米系やフィリピン系の友だちがおり、彼らへのいじめに立ち向かったことがあった。高校生でアメリカにホームステイしたときに、ホストファミリーがアフリカ系で、周囲の白人地主からの差別を目の当たりにしたこともあった。差別や貧困などの社会問題は、上辺の対応だけでは解決しないという実感があったのだ。

 コロナ禍で大学がオンライン授業になり、しばらく地元に帰ることにした際、ちょうどユニオンみえの存在を知った。ユニオンみえは、外国人労働者が多く加盟していることで全国的にも有名だ。労働相談もポルトガル語、英語、スペイン語に対応し、最近ではシャープ亀山工場における4000人の労働者の雇い止めを問題を社会的に告発している。

組合インターンで気づいた社会運動の重要性

 Aさんが労働組合インターンを体験してみて、その良さを実感したのは、労働組合による「支援」のあり方だった。労働相談に駆け込む人たちの中には、労働組合のことを、困っている労働者を助ける「サービス」として割り切っている人も少なくなかった。これでは、やはり短期的な「支援」で終わってしまいかねない。

 しかし、最初は「サービス」感覚だった相談者たちが、自分以外の組合員の団体交渉に参加するようになっていき、同じ労働者、同じ労働組合の一員としての自覚に目覚めていく。労働組合は、労働者がお互いに支え合いながら、経営者に対して権利行使をできるようにエンパワーメントされる場でもある。特に、「サービス」感覚の日本人労働者が、徐々に外国人労働者の団体交渉にも積極的に参加し始める様子を見て、自分は組合員の意識を変えていく支援をしていきたいと思ったという。

 また、地方のユニオンでありながら、コロナ禍における労働問題について、メディアを通じた告発や、行政への申し入れも行った。個々の労働事件を通じて、企業のあり方を問い、制度の必要を訴えるなど、社会的に影響を与える取り組みができることも知った。

 単発的な「支援」にとどまらずに労働者をエンパワーメントし、労働問題の構造を把握して、その「原因」となる経営者と直接向き合い、さらには社会を変える取り組みをできるのが、労働組合インターンの特徴だ。Aさんはインターンを終えて、今後の就職や進学、そして自分の生き方について考えているところだ。

社会人からの労働組合インターンも

 一方で、社会との関わり方について、インターンを通じて考え直そうとするのは、学生だけではない。労働のあり方に疑問を抱いた労働者が、休職中や失業中に、労働組合インターンに参加するパターンもある。

 東京や仙台を中心に活動している労働組合「総合サポートユニオン」でも、去年から今年にかけて、さまざまなきっかけから、大学生や社会人のインターンの応募が相次いでいるという。総合サポートユニオンでも、団体交渉や宣伝行動、学習会などを通じた組合インターンのメニューを用意している。

 これに参加している30代前半のBさんは、建設関係の企業で現場監督として働き、多い月には200時間を超える残業をして働いていたが、残業代は払われていなかった。心身ともに限界を感じ、会社に「迷惑」をかけないように辞めようと考えていた。大型の案件が終わったタイミングで退職を切り出したところ、上司から「人としてどうかと思う」と一蹴された。

 「そこまで会社に言われる筋合いはない」。Bさんは吹っ切れた。退職届を出し、残業代請求に踏み切ることに決めた。インターネットで「残業代請求」と検索し、ヒットした総合サポートユニオンに連絡した。面談で説明を聞き、組合員になって、団体交渉が始まった。

 最初は自分の権利のことしか考えていなかったBさんだったが、自分の団体交渉に、他の職場の組合員が5名応援に来てくれたことに驚いた。「なんでこの人、来てくれるんだろう。何の得もしないのに」。わざわざ自分の時間を使って他の人の労働事件に来てくれるという行為が衝撃的で、これまでの経験ではありえないことだった。しかし、やがてBさん自身も、最初は「興味本位」だったが、他の人の事件の団体交渉に参加するようになった。そこで、どこの職場も同様の問題を抱えているということを知り、労働者が組合の仲間を通じて権利行使をできることの素晴らしさを理解するようになった。

これまでの世界観が「めちゃめちゃ変わった」

 Bさんの事件は比較的スムーズに解決した。しかし、月200時間残業と、あまりに長く働きすぎたことで、解決後も半年くらいは就職したくないという思いが強かった。会社から解決金が支払われたことで、数ヶ月は生活できる余裕もあった。

 その頃にコロナ禍が広がり、総合サポートユニオンにも労働相談が例年になく殺到していた。せっかく時間もあるし、団体交渉に参加するだけでなく、じっくり他の労働者の事件に関わってみたいと思い、Bさんは労働組合のインターンに参加することにした。

 電話での労働相談の受付から経験を積み、まもなくコロナ禍を理由に雇止めされた派遣社員の事件の担当者の一人を任された。当事者と一緒に団体交渉や街頭宣伝を行って、派遣会社と闘い、解決にまでこぎつけることができた。

 さらに転機となったのが、カンボジアの技能実習生の事件を担当したことだった。Bさんは、もともと建設系の元請けの立場にいたため、建設現場で技能実習生と一緒に仕事をしたこともあった。ところが、「すごく真面目に働いている」という印象こそあったものの、当時は技能実習生制度を問題としては認識していなかったという。

 それが、直接に当事者の労働相談を受け、当事者をエンパワーメントしながら団体交渉を行う中で、技能実習生の実態と、彼らなしで日本社会が成り立っていないという現実に直面し、愕然とした。また、労働者が声を上げるためには、経験を積んだ支援者のサポートが必須だということを痛感した。

 Bさんは最近、インターンを終了して、以前と同じ業界で働き始めた。しかし、インターン以前とは、社会の見え方が「めちゃめちゃ変わった」という。すでに新しい職場でも、上司のパワハラが明らかになったり、今後「特定技能」資格の外国人労働者が採用される予定だったりと、労働問題があるという。Bさんはインターンの経験を経て、今度は「当事者」として、労働者の立場で周囲に働きかけながら、自分の職場や業界を通じて、社会運動に関わっていきたいと考えている。

 総合サポートユニオンでは現在、社会人に限らず学生のインターンシップも募集している。労働組合インターンは、学生であっても、社会人であっても、これからの生き方を改めて考え、社会の矛盾に対する視点を持つために、重要なきっかけになる。興味のある人は、ぜひ参加してみてほしい。

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インターンを募集している労働組合(ユニオン)

総合サポートユニオン

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

ユニオンみえ  

059-225-4088

QYY02435@nifty.com

仙台けやきユニオン

022-796-3894

sendai@sougou-u.jp

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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