外国人・実習生に対する「強制帰国」の実態 暴力行為や拉致も横行

(写真:アフロ)

「嫌だったらスリランカに帰れ!」

 先週、群馬県の農業法人で働くスリランカ人技能実習生が上司から日常的に暴力や暴言などを受けているという深刻な人権侵害の実態が明らかになった。技能実習生本人と彼女を支援する個人加盟の労働組合「総合サポートユニオン」が群馬県庁で記者会見を行ったのだ。

参考:スリランカの技能実習生が前橋の農業法人告発 日常的に暴言や暴力

 「○○へ帰れ!」という言葉は、この事例に限らず、外国人に対して多々投げかけられる言葉である。しかし、これは単なる嫌がらせの言葉ではない。実際に、強制的に空港まで「拉致」され母国へ帰国させられる外国人たちがいるのだ。それが「強制帰国」である。

 先日、この「強制帰国」に関して、総合サポートユニオンは、日清製粉グループのトオカツフーズ株式会社で働いていた元カンボジア技能実習生の管理団体である「全国中小事業協同組合」と送り出し機関である「株式会社ジェイ・シー・アイ」と団体交渉をした。そして、この団体交渉で、管理団体は技能実習生のパスポート及び在留カードの取り上げ、さらに「強制帰国」という重大な人権侵害の事実を認めたという。

 

 本記事では、これらの「事実」について紹介しつつ、技能実習生への人権侵害の解決方法について考えていきたい。

「強制帰国」とは何か?

 強制帰国とは、実習先の受け入れ企業やその管理団体が、労働法違反などを訴える実習生を、暴力や威圧などによって強制的に空港まで連行し、そのまま帰国させてしまうという行為だ。次の映像にその様子が収められているので、ぜひ実際の様子を見てほしい。

 黄色い服と黒い服を着た2人の女性に両腕をつかまれ泣きながら1人の女性が車へと「連行」されている。まるで、警察官に「連行」される容疑者のようだ。車へ「連行」されているのが技能実習生であり、両腕をつかんで「連行」している女性や「連行」を見張っている大柄の男性らは管理団体や送り出し機関の人間だ。

 当然のことながら、管理団体や送り出し機関の人間に技能実習生本人の意思に反して、強制的に車へ「連行」する法的な権限などない。これは明らかな違法行為であり、「拉致」と評価されることもあり得るだろう。実際に、多くの法律家は「強制帰国」を刑法における有形力の行使(つまりは暴力)であり、犯罪行為であると指摘している。

 異国の地で言葉も不自由な実習生が、「おまえは日本にいられない」「いうことに従わなければ処罰される」などと男性たちに囲まれて脅迫されれば、恐ろしくなり、逃げ場のないままに空港のゲートの外まで追いやられることは、容易に想像できる。しかも、その過程では複数人によって物理的に腕を拘束し、連行されることが一般的に行われている。

 ちなみに、よく混同されるが「強制送還」と「強制帰国」は違う。「強制送還」とは入国管理局がオーバーステイの外国人などに対して行う措置である。その一方で、「強制帰国」は企業や管理団体の「一般人」が、何の権限もなく、外国人を強制的に車に乗せ、空港に連れていき飛行機に搭乗させ帰国させるのだ。このような「拉致」行為が、白昼堂々と日本の住宅街で行われているのである。

「強制帰国」が蔓延する日本社会

 この「強制帰国」は日本社会で広く行われており、たびたび問題になってきた。例えば、2007年栃木県のイチゴ農園では、労働条件に不満をもった中国人研修生が労働組合に相談にいったことをきっかけに、イチゴ農園から解雇され、その日の内に、車に無理やり乗せられ成田空港まで「連行」されたのだ。このケースでは、空港で必死に中国人研修生が抵抗し、帰国直前に労働組合の役員が空港に駆け付け、無事に保護された。

 また、2008年山梨県のクリーニング工場では、中国人技能実習生6名が労働条件の改善を要求した数日後の早朝、彼女らが就寝中に突然、社長と社員十数名が寮に押しかけ、暴行を加えるなどをして、強制的に車に乗せ、成田空港へ連れていこうとしたのだ。6名中3名は「強制帰国」となり、残りの3名は逃亡し、その後、労働組合に保護された。

 さらに、2018年神奈川県の水産加工業者では、ベトナム人技能実習生が管理団体に有給休暇の申し出をしただけで「強制帰国」させられたのである。

 実は、私が代表を務めるNPO法人POSSEの外国人労働サポートセンターがはじめて取り組んだ外国人実習生の労働事件も「強制帰国」の問題であった。

参考:留学生が「強制帰国」を争って日本語学校を提訴 日本の介護現場を支える違法労働の実態とは

 当事者のフィリピン人留学生は、日本語学校が紹介したアルバイト先で、無理やり「タダ働き」させられており、そのことに抗議すると「強制帰国」させられそうになったのである。そして、「強制帰国」の直前で逃亡し、運よく通行人らの助けを得てPOSSEに繋がったのだ。

 このように「強制帰国」は外国人にとって非常に「身近」であり、これら事例も氷山の一角なのである。

なぜ、企業や管理団体は「強制帰国」を行うのか?

 企業や管理団体などが、時には暴力を用いながら外国人労働者を「強制帰国」させるのは、企業の利益のために彼ら彼女らを従わせるためである。企業が欲しているのは「安くて従順な労働力」だ。企業にとって「使えない」、「反抗的」な外国人労働者はいらない。そこで、「強制帰国」という戦略が採用される。先の事例でみたように、有給休暇を求めるような「使えない」外国人労働者や労働条件の改善を訴えるような「反抗的」な外国人労働者を「強制帰国」で黙らせるのだ。

 そして、この「強制帰国」は、ターゲットになっていない他の外国人労働者に対して、「会社や管理団体に従わなければ帰国させるぞ!」という強烈なメッセージを与える。

 想像してみてほしが、「~~に帰れ」という発言は、外国人にとってはとてつもない恐怖を与える。こうした言葉自体が明らかな外国人差別であり、人権侵害行為なのである。それが実質的に解雇=帰国となる実習生であれば恐怖は想像を絶するだろう。

 なお、日本人に対しても「会社を辞めろ」などと発言し、上司が圧迫を加えることは違法行為であり、裁判例上は損害賠償の対象になる。

 このような「強制帰国」の恐怖は労働者としての「権利行使」を著しく困難にさせる。実際に、「強制帰国」が横行する職場では、時給300円程度の低賃金や長時間労働、パワハラ、セクハラなど職場における様々な人権侵害が横行している。「強制帰国」とは、劣悪な労働条件下で外国人労働者を従わせるための日常的な「労務管理」の一部になってしまっているのである。

「強制帰国」後の人生とは?

 さらに、「強制帰国」が実習生に対して強い恐怖を与える事情がある。それは、ほとんどの実習生が事前の借金をしていたり、中途解約時の違約金の支払いを約束させられているからだ。つまり、途中でやめるととんでもない借金を背負わされてしまう。この日本政府がアジア各国との間で確立した「人身売買システム」は、世界中から強く批判されている。

 このことをより深く理解するために、実際に「強制帰国」させられた元技能実習生Aさんの事例を見ていこう。

 Aさん(20代)は、カンボジアの貧しい村出身だ。Aさんが日本に行くのは簡単ではない。というのも、多額の渡航費用や仲介手数料等がかかるからだ。そこで、Aさんは貧困から抜け出すために、借金をして渡航費用等を用意した。Aさんが借金をしたのは日本に行けば借金を返せると考えたからだ。

 そして、やっとの思いで来日したAさんはトウカツフーズ株式会社で働き始めた。しかし、来日してから6か月後のある日突然、朝8時に、管理団体と送り出し機関の人間が寮に押しかけ、Aさんを含めた技能実習生3名が部屋の中に集められた。そして、管理団体の人間は「パスポートを見せて」と言い、Aさんら技能実習生にパスポートを要求し取り上げたのだ。

 そして、彼女らを外へ連れ出し、荷物と一緒に強制的に空港へ「連行」した。移動中はずっとAさんは手を掴まれ逃げれないように拘束された。トイレに行く時でさえ手を掴まれ見張られていたほどだ。そして、搭乗の直前に取り上げられたパスポートを渡され、Aさんはカンボジアへの帰国便に乗るしかなかった。Aさんは会社の寮からカンボジアに到着するまでずっと泣いていたそうだ。

 そして、母国に帰ってきたAさんに待ち受けていたのは「地獄の日々」であった。田舎の村では、Aさんが日本で何か悪いことをしたからたった6ヵ月で帰国したのではないかという噂をされ、1か月ほど実家の外に出ることができなかった。「もう村の人とは会えない」とAさんは言う。現在、彼女は村を出て都市部の裁縫工場で働いている。

 日本に夢と希望を抱いて行ったのに、「強制帰国」の後、彼女に待ち受けていたのは、多額の借金返済のために低賃金で働く毎日だ。さらに、彼女は故郷の村で「信用」と「居場所」を失ったである。

 Aさんのような「強制帰国」させられた外国人労働者の、その後の人生はあまり知られていない。というのも、帰国してしまっては、もはや、被害の実態を社会に訴えるのが困難だからだ。訴えることができなければ、「強制帰国」の事実は社会的には「なかったこと」になってしまう。

「強制帰国」後に、労働組合に加入し団体交渉へ!

 しかし、今回は「泣き寝入り」にはならなかった。Aさんはなんと「強制帰国」の約4年後に日本の総合サポートユニオンに加入し。現在、Aさんに加え、同時期に「強制帰国」をさせられたカンボジア技能実習生2名も総合サポートユニオンに加入し当時の問題に対してしっかり責任を取らせるべく交渉している。

 これまでの「強制帰国」問題は、「強制帰国」の直前に逃亡することができ、日本に残ることができた外国人労働者たちが労働組合へ加入し闘ってきた。つまり、今回のケースで画期的なのは、約4年も前に「強制帰国」させられた元技能実習生たちが母国から労働組合に加盟し、約4年前の「強制帰国」の事実を、団体交渉で管理団体に認めさせた点にある。

 この画期的な取り組みは、今月に入り月末での雇止めの通告を受けたカンボジア出身の通訳Bさんが、総合サポートユニオンに労働相談したことからはじまった。実は、Bさんは職場でずっとたったひとりで技能実習生や留学生など外国人労働者の味方をして差別的な処遇に声をあげていたのだ。すると、会社は、Bさんにだけに仕事を与えなかったりパワハラをしたりするなどの嫌がらせやイジメをするようになった。その結果、Bさんは精神疾患を発症し休職を余儀なくされたのだ。そして、最終的にBさんは雇止めに遭ったのである(この雇い止は、総合サポートユニオンが会社と交渉し撤回された)。

 総合サポートユニオンはBさんから労働相談を受けるなかで、会社や管理団体、送り出し機関が技能実習生に対してパスポートや在留カードの取り上げと「強制帰国」を行っている事実を把握した。そして、Bさんと共にSNSなどでAさんら「強制帰国」させられた元技能実習生たちと連絡をとり、ユニオンによる団体交渉へと結実したのである。

 現在はカンボジアにいるAさんら元技能実習生たちは、オンラインで団体交渉の申し入れ及び団体交渉に参加し、管理団体に約4年前のパスポートや在留カードの取り上げと「強制帰国」の事実を認めさせた。インターネットを活用し、「オンライン団体交渉」をするというネットを活用したグローバルな実践が、これまでほぼ不可能であった「強制帰国」させられた外国人労働者の権利行使を可能にしたのだ。

 今後、総合サポートユニオンや組合員たちは、トオカツフーズ 株式会社へもこのような事態が起きた責任を問うていく方針だ。

外国人差別と闘う「本当の支援」の必要

 

 通常、会社に使いつぶされた労働者が「権利行使」をするのは困難だ。外国人労働者であれば、言語や在留資格の問題から、さらに難しい。今回のケースでは、当事者たちの権利行使を支える支援団体の存在が大きかった。

 今回は通訳のBさんが日本語が非常に堪能であったため、労働組合と繋がることができた。しかし、支援団体と繋がれても実際に会社と闘うのは大変だ。Bさんにしても、職場でイジメられることで精神疾患を発症するほどダメージを受けていた。

 実際に、会社へ団体交渉を申し入れに行く途中で、Bさんは胸が苦しくなり休憩を取りながら行ったほどだ。それでもBさんのまわりには、一緒に闘う「仲間」がいた。それは総合サポートユニオンの組合員やPOSSE学生ボランティアたちだ。彼ら彼女らは、一緒に申し入れにいくだけでなく、会社の不誠実な対応に一緒に抗議し、トオカツフーズ 本社前でビラ配りや宣伝活動なども行った。

 また、今回のような問題を解決するためには、困難を抱える当事者が支援団体につながる回路作りが重要だ。というのも、彼ら彼女らは日本語ができないことが多く、支援団体と繋がることじたいが困難であるからだ。

 「差別と闘う」ためには、「差別反対」とスローガンを叫ぶだけでは不十分だ。実際の現場で、差別されている外国人たちの権利闘争を具体的に支援し一緒に権利を求めて闘うことが重要であり、その闘争の中で、外国人との真の「国際連帯」は生まれるのだ。

 総合サポートユニオンやNPO法人POSSE外国人労働サポートセンターでは、様々な外国人労働者からの電話・メール相談を受け付けている。学生の組合員・ボランティアが、通訳や翻訳、相談活動、会社との交渉や宣伝行動を担っている。

 支援活動へ興味のある方は両団体に限らず、ぜひ具体的な差別改善の取り組みへ参加してほしい。

NPO法人POSSE 外国人労働サポートセンター

メール:supportcenter@npoposse.jp