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ヨガスタジオで「提訴」へ コロナ禍で問われる「名ばかりフリーランス」 

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はヨガのイメージです。(写真:アフロ)

 12日、業務委託契約に基づいてヨガスタジオで働くインストラクターが組織する「yoggyインストラクターユニオン」(以下「ユニオン」とする。)が厚生労働省で記者会見を行った。

 ユニオンの主張によれば、インストラクターは実態としては会社の指揮命令を受ける「労働者」であるにもかかわらず個人事業主として扱われ、労働者であれば受けられる法制度上の保護を受けられずにいるという。

 さらには、緊急事態宣言が解除されてスタジオの営業が再開した後、労働組合の主要メンバーがクラス担当から外されたとして不当労働行為(法律上、使用者が行ってはならない反組合的行為)だと訴えている。

 背景には、広がりつつある「名ばかりフリーランス」の問題がある。「自分で特殊な働き方を選んだのだから自己責任だ」という声も根強いが、果たしてそうなのだろうか。

休業補償なし 再開後もクラスは激減

 記者会見を行ったのは、株式会社ヨギーが全国に展開する「スタジオ・ヨギー」のクラスを担当するインストラクターたちだ。ユニオンによれば、同スタジオで働くインストラクターは全国に300人ほどいるが、その大半は業務請負契約に基づき仕事をしているという。

記者会見の様子
記者会見の様子

 緊急事態宣言の発令を受けて同社は全国のスタジオを全面休業したが、業務委託契約で働くインストラクターたちに休業に伴う補償はなかった。ユニオンは休業補償を求めているが、会社は応じていない。

 また、緊急事態宣言が解除された後も、インストラクターたちの苦境は続いている。スタジオの営業は段階的に再開され、6月1日からは全店で営業が再開しているが、クラスの総数は休業前の50%ほどに減り、各インストラクターが担当するクラスが激減しているという。

 ユニオンによれば、インストラクターたちが会社と締結している業務委託契約書には、クラスの科目や時間は両者間で別途決定するという規定があり、何の相談もなく一方的にクラスを削減することは契約違反に当たる。

 新型コロナの第2波が警戒されるなかで、ヨガやフィットネスのスタジオが以前と同じように営業できないのは当然だ。

 だが、ユニオンによれば、スタジオ・ヨギーのクラス削減率は他社と比較しても高い。コロナの影響を受ける前から経営状況が思わしくなかったため、「コロナに便乗した営業縮小」を行ったのではないかとユニオンはみている。経営状況や今後の事業指針について開示を求めたが、会社からの回答は得られていないという。

 ユニオンは、「会社はインストラクターの労働を確保する努力も、補償の努力もせず、一方的な不利益変更を強要してきた」と主張している。

 国は、事業基盤が弱く、収入の減少が生活基盤の悪化に直結しやすい個人事業主・フリーランスに対する影響を最小限とするため、発注事業者に対して、取引上の適切な配慮を行うよう要請している。

 しかし、こうした「要請」の実効性には疑問がある。今回のケースのように、一方的な契約の変更や解除が横行しているのが現実だ。

〔参考〕「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」

労働組合の主要メンバーはクラス担当がゼロに

 さらなる問題は、会社側の労働組合への対応だ。執行委員長をはじめ、ユニオンの主要メンバーについてはクラス担当から完全に外されたというのだ。緊急事態宣言の前まで委員長は週4クラス、副委員長は週8クラスを担当していたが、営業再開後の担当クラスはゼロだ。

 これは事実上の契約解除であるとともに、不当労働行為に該当する可能性がある。労働組合法は、正当な組合活動をした者に不利益な取扱いをすることを不当労働行為として禁止している。

 個人事業主であるにもかかわらず、労働組合活動ができるのかと疑問に思う方もいるだろう。しかし、形式上「個人事業主」であったとしても、法律上の「労働者」であるかどうかは具体的な実態に基づいて判断される。

 労働組合法上の「労働者」は労働基準法上のそれよりも広い概念だと考えられており、働き方によっては、労働組合を結成し、会社と団体交渉を行うことができる。プロ野球選手やコンビニオーナーが「労働組合法上の労働者」であると認められたこともある。

〔参考〕「労働組合法上の労働者性の判断基準について」

 なぜユニオンの主要メンバーがクラス担当から外されたのだろうか。経緯を説明するためにコロナ以前の状況に遡ろう。そこから見えてくるのは、「フリーランス」に特有の問題である。

 ユニオンが結成されたのは昨年の4月だ。労働組合結成のきっかけになったのは、会社がインストラクターに対して導入しようとした有料講習・有料認定制度だという。これは、インストラクターとして業務を行うためには、毎年「更新手数料」を支払い、併せて会社が主催する有料の講習を一定日数受けなければならないというものだ。

 つまり、会社の講習を有料で受けて認定を得なければ、今まで担当してきたレギュラークラスを担当できなくなるというものであり、会社がこれを一方的に強制しようとしてきたため、インストラクターたちはこれに抗議し、説明を求めるために団体交渉を行ったのだという。

 このような問題は、業務に要する経費や能力を向上させるための研修費用を自己負担しなければならないフリーランスの働き方に特有のものだ。「労働者」であれば、業務に必要な研修等の費用は会社が負担するのが通常であるし、業務命令によって研修を受けた場合には労働時間に該当するため、給与が発生する。

 ユニオンはこの問題をめぐって会社との団体交渉を6回実施しているが、会社の主張は「強制はしていない」というもので、具体的な経緯の説明を受けることができていないという。交渉が進まないままコロナ禍に突入し、6月に認定制度が導入され、認定を受けていないインストラクターがクラス担当から外されたものとみられる。

 結果としては、おかしいと思ったことに声を上げ、話し合いを進めようとしたユニオンの主要メンバーがクラスの担当から外されたということになる。ユニオンは、会社のこうした対応は不当労働行為に当たるとみており、労働委員会への救済申立てや提訴を視野に入れているという。

「名ばかりフリーランス」問題に切り込む動き

 新型コロナは、彼女たちのような「名ばかりフリーランス」の置かれた不安定で曖昧な立場を露呈させた。フリーランスと呼ばれ、雇用関係に基づかずに働く人々は急速に増加しており、政府はそうした働き方を「雇用関係によらない働き方」などと呼び、働き方の選択肢を増やすものとして積極的に位置づけている。

 こうした動きは必ずしもネガティブなものではない。会社に縛らない、自由度を保った働き方が実現され、自分の生き方に合わせて働き、仕事以外の時間を有意義に使えるとすれば、むしろ望ましいことだ。

 ただ、現在は、こうした新しい働き方の法制度上の位置付けが明確になっていない。その結果として、働き方は対してたいして変わっていないのに、法規制の対象からは外されるということが現実の問題として起こってしまっている。

 例えば、ヨギー・スタジオのインストラクターの場合、業務を行う時間や場所が定められ、会社が指定した統一プログラムの名称・内容で仕事の依頼を受けており、マニュアルも存在している。会見に同席した川上資人弁護士は「指揮命令下の労働として使用従属性が認められ、労働基準法・労働契約法上の労働者性があることは明らかだ」と述べている。

 このように、実態としては労働者のような働き方をしているにもかかわらず、形式上は業務委託契約としているというケースが少なくない。働き手を個人事業主扱いすることは企業に多くのメリットをもたらすからだ。法規制を免れる手法として活用するブラック企業もある。

〔参考〕ウーバーイーツユニオンが提起した社会的課題とは?  プラットフォーム型労働の法的問題を考える

 先日、内閣官房日本経済再生総合事務局が公表した「フリーランス実態調査結果」では、事業者から業務委託を受けて仕事を行うフリーランスのうち、1社のみと取引をしている者は4割であった。このなかには「名ばかりフリーランス」が多く含まれると推測される。

 一方で、個人事業主が偽装されることによって、働き手が受ける負の影響は大きい。新型コロナはそのことも露わにした。

 労働基準法が適用される「労働者」の場合、法律に基づいて休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いを会社に求めることができるが、個人事業主の場合、このような法律はなく、補償については当事者間の契約内容に委ねられる。解雇に関する法規制もなく、失業した場合に失業手当を受けることもできない。

 周知のとおり、新型コロナウイルスの影響が広がるにつれて、雇用関係にあり労働法制が及ぶ労働者でさえも解雇や雇止めが広がっている。そのような規制もないフリーランスの場合、より簡単に収入や仕事を失い、生活に行き詰まってしまう。

 他方で、フリーランスの方でも労働者として評価される場合があることはもっと知られるべきだろう。契約書上、「業務委託契約」や「請負契約」等という形式であったとしても、働き方の実態によっては労働基準法上や労働契約法上の「労働者」であると判断される可能性がある。

〔参考〕労働基準法研究会報告「労働基準法上の「労働者」の判断基準について」

 ユニオンは、この点についても、労働契約法上の権利を有する地位にあることを確認する訴訟を提起する方針だ。実際にこのような訴えを起こし、労働者性が認められたケースもある。

求められる法制度の整備

 フリーランスで働く人々に対しては「特殊な働き方を自分で選んでやっているんだから、保護されなくてもしかたないのではないか」という意見も見られる。

 しかし、新しい働き方はもはや「特殊」とはいえないまでに広がっている。フリーランスで働くことが当たり前のようになっている業界もある。個人の選択の問題ではなく、新しい働き方に対応した法制度が未整備であるという社会の問題として捉えるべきだろう。

 「雇用関係によらない働き方」が浸透するなかで、新しい働き方をする人々を保護するための法制度を整備することが急務だ。この点について、5月22日に開催された全世代型社会保障検討会議の「論点メモ」には、次のように興味深い論点がいくつか提示されている。

「取引条件が明確になっていないことが取引上のトラブルにつながることが多いため、発注事業者が契約書面を交付しない又は記載が不十分な契約書面を交付することが独占禁止法(優越的地位の濫用)上不適切であることを明確化してはどうか」

「発注事業者が不当に取引条件の一方的変更や報酬の支払遅延・減額を行う場合があるため、独占禁止法(優越的地位の濫用)や下請代金法上問題となることを明確化してはどうか」

「フリーランスとして業務を行っていても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、 現行法上「雇用」に該当する場合は、契約形態にかかわらず、労働関係法令が適用されることを明確化してはどうか」

 一方で、近年、雇用関係によらずに働く人々が労働組合を結成し、待遇や就労環境の改善に取り組むことも多い。昨年結成されたウーバーイーツユニオンは、4月に新型コロナ感染予防対策や危険手当の支払いを会社に要求するなど、活発に行動している。

 最近でも、ヤマハ英語講師ユニオンが団体交渉を通じて雇用契約の締結を求めた結果、会社がこれに応じる意向を示したニュースが多くのメディアで取り上げられた。

〔参考〕ヤマハ英語教室の講師「個人事業主」から「労働者」へ(2020年6月8日 NHK NEWS WEB)

 yoggyインストラクターユニオンの委員長を務める塙さんは、会見で次のように述べている。

 「ヨガのみならず、フィットネスの業務委託契約インストラクターで私たちのような理不尽な契約を強いられている人がいるならば、諦めずに声をあげられる世の中であってほしいです。労働組合を作ったり、個人加盟できるユニオンを利用したりして労働条件の維持改善が進むことを願います。」

 ポストコロナの働き方をめぐる議論のなかで、フリーランスなどの新しい働き方をどのように位置づけていくのかが一つの重要な論点になることは間違いない。多くの人が声をあげることが、実態や当事者の声を反映した法制度の実現につながっていくだろう。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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