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ローソンのオーナーが、本部へ24時間営業の見直しを要求 ブラックな「秘密条項」も

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 本日、個人加盟の労働組合である総合サポートユニオン」が株式会社ローソンに団体交渉を申し入れた。埼玉県春日部市にあるローソンのフランチャイズ店舗(以下、FCという)の24時間営業の見直しやチャージ割合の変更などが要求事項だ。

 

記者会見の様子
記者会見の様子

 昨今、セブンイレブンやファミリーマートのFCオーナーの労働問題が社会的な注目を集めている。東大阪市のセブンイレブンの自主的な時短営業に対する損害賠償請求事件や、東日本橋のセブンイレブンのFCオーナーの失踪事件がメディア等で大きく取り上げられてきた。

 これに対し、オーナーたちは「コンビニ加盟店ユニオン」を結成。セブンイレブンとファミリーマートの本部に対し、問題を解決するための団体交渉を申し入れている。しかしコンビニ本部側はこれを受け入れず、労働委員会で争われてきたのである。

 他方で、ローソンのFCオーナーが公に声を上げるのは今回が初めてのケースだ。これまでローソンの実態はベールに包まれてきたが、その過酷な状態が白日の下に晒されることになった。

 コンビニオーナーの労働問題がクローズアップされるのは、フランチャイズ本部の過当競争の結果、すでにコンビニオーナーの多くが貧困に陥るような状況になっているからだ。

 労働問題を生み出す「業界の構図」は、ローソンと他者の共通性が示されることで、ますます明らかになるだろう。そこで今回は、この事件を通じ、コンビニフランチャイズ業界の働き方の構造問題や改革の方途を改めて考えていきたい。

ローソンFCオーナーの長時間労働

 今回ローソン本部へ申し入れたFCオーナーのAさんは、2013年5月にフランチャイズ契約を締結し、同年6月に店舗をオープンしている。

 オープンから現在まで、基本的に低収益・長時間労働の状態に置かれているという。Aさんは開店から6年経った今まで一日も仕事を休んだことがない。

 本人は月に400時間程度(週7日、6:30~21:00)働いていることに加え、妻が夜勤帯で月に250時間程度(週6日、21:00~6:30)勤務している。

 二人で月650時間程度の労働をしていることになる。これは月に80時間残業という国が定めた過労死ラインを大きく上回るものだ。

 当然のことだが、こうした長時間労働は、Aさんの身体を徐々に蝕んでいった。2年前には業務中に突然発話ができなくなるという事態に見舞われた。

 しかし、自分が働かなければ店は回らない。本部に相談しても、特別な対応はしてもらえなかった。結局、翌日以降もだましだまし働き続けるしかなかったという。

 そして今年1月26日に心療内科を受診したところ、「抑うつ状態」と診断されるに至る。「長時間労働が長期に亘り、休日もとれないで働いて心身疲労状態となっており、就労を続けることが困難となってきている」というのが医師の所見だった。

 彼は「これ以上続ければ深刻な健康状態に陥りかねない」と感じ、診断書を本部に提出。FC契約を解除したいという希望を伝えた。

 しかし、本部の担当者は「契約を解除したいのなら違約金180万円を支払ってもらうほかない」と一切応じようとしなかったという。

 FC契約書には、オーナーが「疾病」の場合には、違約金無しの解約に本部が合意することもあると記載されているというが、あくまで「本部が合意した場合」に限られるということなのだろう。

オーナーを最低賃金以下で働かせるFC契約のカラクリ

 もちろんお金に余裕さえあれば、命と健康を優先した方が良いだろう。違約金を支払ってでも廃業するということも、オーナーたちの「選択肢」ではある。

 しかし、概してコンビニのFCオーナーが得られる収入は少なく、貯蓄などできないギリギリの生活を送っている。

 Aさんの場合も、ローソンのFCオーナーを始めてから6年間は、蓄えを作るどころか、貯蓄を切り崩す生活だった。

 数百万円あった貯蓄は底をつき、今は借金生活に陥っているという。だから、違約金を支払って廃業することもできず、契約期間の10年間はいわば「奴隷状態」に置かれるのだ。

 では、なぜFCオーナーの手元に残る収益は少ないのだろうか。Aさんのケースを具体的に検証してみよう。

 Aさんの店舗は、埼玉県春日部市の郊外に位置しており集客が少なく、また周囲に競合店もあることから、店舗の売上げは平均をやや下回る程度。

 とはいえ、店舗の荒利益(売上高から仕入れ原価等を差し引いた額)は、300万円程度あるため、一見すると余裕のある生活ができそうにも思える。

 しかし、約300万円の荒利益のうち、45%~70%もの金額をFC本部にチャージとして納めなければならない(300万円までは45%)。

 さらに、チャージを差し引いた金額の中から、従業員の給与や見切・処分・棚卸ロス、消耗品費、水道光熱費等を支払わなければならないのだ。

 すると、最終的には、店利益が50万円程度となり、そこから出資金の分割払い分等を控除されるため、オーナーの実収入は40万円強しか残らない。

 さらには、サラリーマンであれば、給与控除される社会保険料分(年金・健保等)を加味すれば、手取り収入は30万円強でしかない。4人家族が生活するには大変苦しい収入水準だ。

 この収入を得るために、オーナー夫妻は併せて一ヶ月当たり650時間程度(深夜勤務180時間程度を含む)の勤務に従事している。時間単価でみれば最低賃金さえも大きく下回っている。

 たとえば、一ヶ月の店利益をオーナー夫妻の労働時間で割ってみると、50万円÷650時間=769円である。埼玉県の最低賃金898円を大きく下回っていることが分かるだろう。もちろん、時間外割増や深夜割増を考慮に入れればもっと時間単価の収入は低くなる。

 Aさんも、見切り販売によって廃棄ロスを削減するなどの経営努力はしているが、最大の「無駄」である深夜帯の営業は、基本的にFC契約で義務づけられているため、見直すことができない。

 Aさんの店舗では、23時から5時までの間の売上げが非常に低く、この時間帯を閉店して人件費と光熱費を削減できれば、オーナーの実収入の増加が見込めるという。

 このような事情から、今回Aさんが加入した「総合サポートユニオン」info@sougou-u.jpは、24時間営業の見直し(23時から5時までの閉店)とチャージ割合の変更を団体交渉で要求した。

ローソンFC契約のことは誰にも何も話してはならない

 ここまで紹介してきた労働問題の構図は、他のコンビニチェーン点とも共通している。例えば、ファミリーマートの事例では、オーナーの収入が300万円を割り込む例も報道されている。このFCのオーナーも、一年間、一日も休まず働いていたという。

 彼の店舗の収支の内訳は下記の通り。A三の事例と非常に似通っていることが読み取れる。

荒利益(売り上げ-原価)     約3823万円

本部へのロイヤリティ(約50%) 約1863万円

従業員給料     約988万円

光熱費や廃棄費等    約684万円

営業利益(オーナーの年収)  約288万円

 それにしても、なぜセブンイレブンやファミリーマートの労働問題は表面化する一方で、同じ構図を抱えているローソンは、これまで問題化してこなかったのだろうか? 

 実は、ローソンは、FC契約の内容すべてを口外禁止としており、それに違反すると契約解除の対象となり、10ヶ月分のチャージ額相当(1500万円前後)の違約金を支払う義務があるとしているのだ。

 そのためFCオーナーは第三者(相談機関を含む)に相談したり、実態を告発したりすることが極めて難しい状態に置かれている。今回の当該FCオーナーも当初はこの規定のために誰かに「相談」することさえ躊躇していたという。

 私の知る限りでは、セブンイレブンやファミイーマートでも、契約書のすべてを口外禁止にするような規定は設けていない。

 もちろん、契約書の内容を一切口外してはならないという契約内容は、公序良俗に反しているため「無効」と解釈できる。実際には、法的にFCオーナーに口外禁止の義務は発生しない。

 これは多くの法曹関係者の見解であり、本部側もそれを理解していたはずだ。

 この規定の「本当の意義」は、実際の法的効果ではなく、FCオーナーが第三者にフランチャイズ契約について相談することを思いとどまらせることにある。

 このように、実際には効力のない「公序良俗に反する契約」を押しつけることで相手を萎縮させる手法は、「ブラック企業」が頻繁に使う手段である。例えば、学生のアルバイト契約に「辞めることは出来ない」などと記すやり方だ。

 残念ながら、ローソンもこれと類似の手法を用いていると評価せざるを得ない。

 そうした経緯を踏まえて、総合サポートユニオンは、Aさんに限らず、ローソンのFCオーナー全員のフランチャイズ契約に関して、契約内容全てを口外禁止とする規定の削除または修正をローソン本部に求めたという。

FCオーナーだけではない。社員もアルバイト・パートもブラック??

 一方で、FCオーナーの労働問題は、コンビニ業界の労働問題の一部にすぎないことも指摘しておかねばならない。この事実は、コンビニの労働問題を解決していく上でも重要なポイントとなる。

 現在、日本全国に5万5千店舗以上のコンビニが営業しているが、そのうち5万店程度は三大コンビニチェーン(セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート)によって運営されている。

 その9割以上がフランチャイズ経営となっており、コンビニ業界全体では80万人程度が働いている。

 このうち、働き方に問題があるのは、FCオーナーに限ったことではない。正社員として雇われている店長の長時間労働・残業代不払や、アルバイト・パート店員の「ブラックバイト」も深刻なのだ。

 「総合サポートユニオン」には、アルバイトを組織する「ブラックバイトユニオン」という支部があり、年間300件程度の相談がコンビニ業界から寄せられているという。

 相談内容は、賃金不払い、長時間労働(契約より多くシフト勤務を強制される)、ノルマと自腹購入、辞めさせてもらえない、などといったものだ。その結果、就職活動ができないなど、深刻な問題が発生するケースも見られる。

 ブラックバイトユニオンは学生のアルバイトを組織し、これまでにセブンイレブンやサンクスのフランチャイズ店舗で団体交渉を行い、問題の解決に当たってきた。

 ここでややこしいのは、正社員やアルバイトの交渉相手は、今回問題となっているFCのオーナーになってしまうという事。ともすれば、オーナーと社員・アルバイトは、対立する構図に陥ってしまう。

 コンビニの労働問題が、「オーナーvs社員・アルバイト」になってしまうことは、問題の解決を遠ざけてしまうだろう。

 そこで、ユニオンは、FCオーナーとその従業員である正社員やアルバイト・パートは敵対するよりも、むしろ利害を共通している考え、連携していく道を模索している。

 FCオーナーの長時間労働・低収入と正社員店長の長時間労働・残業代不払やアルバイト・パートの「ブラックバイト」はいずれも、コンビニ業界のフランチャイズシステムに原因があるからだ。

 コンビニの労働問題の解決には、同根の原因で苦しめられている「FCオーナーと社員、そしてアルバイトが手を結ぶこと」が必要だといってもよい。

 そうした意味で、すでにコンビニの正社員の労働問題や、ブラックバイト問題に取り組む総合サポートユニオンが、FCオーナーの問題に取り組むことには大きな意義があるだろう。

 さらに、今後「総合サポートユニオン」は、コンビニFCオーナーの労働組合である「コンビニ加盟店ユニオン」とも連携してコンビニ業界の改善を求める行動を重ねていく予定だという。

 6月16日(日)には、コンビニ業界で働く80万人全員を対象とした労働相談ホットラインを開催する予定だという。自分たちの労働条件を改善したい方や勤め先のFCオーナーの働き方が心配だという方は、ぜひ相談してみてはいかがだろうか。

コンビニ業界誰でも労働相談ホットライン

日時:6月16日(日)13時〜17時

電話番号:0120-333-774

主催:総合サポートユニオン

対象:コンビニ業界で働くFCオーナー、正社員店長、アルバイト・パート

※通話・相談は無料、秘密厳守。ユニオンの専門スタッフが対応します。

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

ブラック企業ユニオン 

03-6804-7650

soudan@bku.jp

*ブラック企業の相談に対応しているユニオンです。自動販売機運営会社のストライキなどを扱っています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。労災を専門とした無料相談窓口

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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