「搾取」される非正規教員たち 露骨な脱法、徹底した支配 安田学園の戦略とは

(写真:アフロ)

 先日報道された、神奈川県横浜市にある学校法人橘学苑での非正規教員の大量雇い止めに関するニュースが話題となっている。

 学校関係者は、ここ6年で120人近い教員が退職したと訴えている。

 私立一貫校 横浜・橘学苑 6年で教員72人退職「非正規使い捨て」(東京新聞)

 

 同校に限らず、私学業界には非正規の使い捨てが蔓延している。昨年末には、「京華商業高校」や正則学園高校でも非正規雇用問題で労使紛争の火種となっていた。

 教員が毎年のようにコロコロ変わる学校で、充実した教育実践ができる訳が無い。そのため、次々に教師たちからの訴えが起こされているのだ。

 そんな中、新たな事件が浮上している。

 東京都墨田区にある「安田学園中学校・高等学校」で、「脱法」の意図を明言した解雇が横行しているというのだ。

 教育現場で「脱法」を公言して教員たちを解雇する。このような事態は聞いたことがない。

 今年3月、同校で非正規教員として働くAさんが、私学業界で働く労働者が個人で加入できる労働組合「私学教員ユニオン」へ加入し団体交渉を申し入れたという。

 また、同校では非正規教員を徹底的に拘束し、搾取する「戦略」が形成されていた。

 本記事では、「安田学園中学校・高等学校」の労働問題を通じて、もはや私立高校では約4割に達している私学非正規教員の「使い捨て」と「搾取」の問題を考えていきたい。

私学全体に広がる非正規雇用の問題

 まず、私立学校に広がる非正規雇用の実情を確認しておこう。現在、私立高校で働く非正規雇用の割合は、全教員の約4割にまで拡大している。

 2011年の文部省の調査によると、非正規教員の比率は、公立高(19.7%)より17ポイント以上高い、36.8%に上るという。

 01年と比べると、私立高の教員数は9万数千人でほとんど変化がないが、正規教員は、退職者補充などが抑制された結果、約4千人減少。逆に非正規教員は2,800人増えて約9%の増加となったという(朝日新聞 2012年10月13日)。

 教育という社会の極めて重要な基盤が、低賃金・細切れ雇用の非正規教員の使い捨てにより支えられているのである。

 実際に、非正規雇用の蔓延により、多くの弊害が生じている。

 例えば、教員が短期で入れ替わることで、生徒や保護者との信頼関係を構築できず、授業や部活、クラス運営を安定的に行うことが難しくなっている。

 また、不安定雇用の非正規教員は、将来的な見通しもたたず、生活苦からダブルワーク・トリプルワークをしたり就職活動に奔走し、教育に専念することが困難になっている。

 非正規教員に基幹的業務をさせつつ、低賃金・細切れ雇用で使い捨てることの弊害は、生徒や保護者に多大な不利益を生じさせるのである。

 ただし、国も無策でいるわけではない。

 上記のような低賃金、細切れ雇用で不安定な立場に置かれる非正規労働者の雇用の安定のために、2013年4月1日に改正労働契約法が施行され、「無期転換ルール」が規定された。

 「無期転換ルール」とは、同一の使用者との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者からの申込みにより、無期労働契約に転換されるルールのことである(使用者は断ることができない)。

「無期転換ルール」とは? 参照:http://muki.mhlw.go.jp/(厚生労働省HP)
「無期転換ルール」とは? 参照:http://muki.mhlw.go.jp/(厚生労働省HP)

 施行から5年を迎えた2018年4月から 、多くの有期契約労働者に無期転換申込権が発生している。

 問題は、この法律を「脱法」しようとする経営者があとを立たないことである。

 Aさんの場合は、2014年4月1日入社のため、2019年4月1日に無期転換権を取得するはずだったが、2019年3月31日付での露骨な雇い止めを学園が通告した。

 後でも詳しく述べるが、学園側は「無期転換をしたくない」ということを雇い止め理由として明言している

 そのような「無期転換ルール」の成立趣旨を正面から否定する雇い止めは、違法行為であり、法的にも無効となる可能性が高い。

 何よりも、「法律を守りたくないから頑張っている教師を解雇する」という姿勢が、果たして教育現場として適切なのだろうか?

 強く疑問を覚えざるを得ない。

「安田学園中学校・高等学校」の脱法行為の経緯

 今回、団体交渉がスタートした「安田学園中学校・高等学校」は、創立90年を超える伝統ある中高一貫の私立学校である。

 創立者は、現在の「みずほフィナンシャルグループ」、「明治安田生命保険相互会社」などの諸企業を起こした実業家、安田善次郎である。

 しかし、「誠実・明朗・奉仕」を校訓として掲げるこの由緒ある学園は、それとは相容れない法律を脱法し、「不誠実」な行為を繰り返している。

 

 2014年4月に入職し、非常勤講師として働いていたAさんへ、学校からの雇止め通告は2019年2月7日に行われた。

 

 これは、1年契約が更新され続け、5年目の勤務が終わるその日、つまり「無期転換ルール」適用のギリギリ前日に解雇するという露骨な「脱法行為」である。

 すでに述べたように、雇い止め通知の際に、管理職がAさんへ述べた雇い止めの理由は、「無期転換ルールを適用したくないから」という露骨なものだった。

 3月8日に、Aさんが団体交渉の申し入れに学校を訪れた際にも、理事長は「5年で雇い止めにするのは、無期転換しなければならないから」と同様の理由を述べている。

 Aさんは、これまで処分を受けたり、更新の際に雇止めになるような注意を受けることは5年間1度もなかった。

 学校という性質上、年度ごとの人員採用が多く、既に今年4月から働く教員の採用のピークは昨年末には過ぎており、2月中旬に雇い止め通告をされて転職活動をしても求人がほとんどない状況であることは学園も重々承知のことだろう。

 このような「脱法」を目的とする雇い止めによって、Aさんの家族は路頭に迷っている状況だ。

非常勤講師を定額(低額)使いたい放題

 安田学園の非正規労働問題は雇止めだけではない。周到に練り上げられた「搾取の戦略」が構築されていた。

 「5年で使い捨て」をする一方で、その処遇は極めて低く、しかも徹底的に「戦力」として活用しているのである。

 まず、私学業界や塾業界に共通して広がる「コマ給問題」(授業の担当コマ以外の時間に業務を行ってもその分の給与が払われない問題)がある。

 特に、「安田学園中学校・高等学校」では特殊な、通称「1.8ルール」というものが決められていたという。

 具体的には、毎年1月中旬に翌年度の時間割希望表(各非常勤講師が来年度、どの曜日のどの時間に授業を入れたいか希望を申請するもの)が配布される。

 しかし、この希望には以下のように多くの条件や制約がある。これが周到だ。

・(1限に授業が入っていなくても)1限目から出勤すること。

・土曜日も毎週授業があるので申請すること。

・希望する時間数(コマ数)の1.8倍の時間数を出勤可能と申請すること。

・個々人の希望条件を出さないこと。

・(1日全てのコマを申請しても)1時間しか授業が入らない日があること。

 わかりやすく言えば、「週10時間の授業・給与が欲しければ、週18時間の空き時間を差し出せ」ということだ。

 毎年1月に希望を出し、勤務時間がわかるのは早くても4月の第2週頃で、教員の仕事を兼業する場合、調整がつかず決めづらい時期となっている。

 そして年間を通して何回も時間割変更が行われ、その要請へフレキシブルに対応をできるように時間を空けておき、対応した労働者が契約更新をされるのだ。

 その結果、担当授業の1.8倍の時間を1年間、他の仕事もできずに拘束されることになる。

 さらに、たとえば、月曜日は1限・4限・6限というように点々と授業が入る日が組まれ、学園から一方的に通知される。

 1限終了の9:30から4限開始の11:40までは授業がなく、4限終了の12:30から6限開始の14:15までは授業がない。

 しかし、この授業のない時間には、授業準備やテスト作成、成績処理はもちろん、学園からの打ち合わせのための呼び出しや年間通して時間割変更への対応等があるが、その分の給与は払われない。

 ではなぜ上記のような日の場合、1日に3コマの授業ならば1限~3限にまとめてくれないのかと疑問が湧くが、しかし、そのような希望条件を出す権利はそもそもなく、それをした時の報復としての雇い止めリスクがあるのだ。

 また、低収入を補うために、他所との兼務兼業をしようとした場合には、校長からの許可が必要となっているが、許可申請自体に雇い止めのリスクがある。

 低賃金のまま強く拘束し、徹底的に活用して非正規のまま使い倒す。このような労務管理が構造化されていることが、よく理解できるだろう。

 結局、Aさんがこの学校を5年続けてきたのは、ひとえに「5年耐えれば無期転換される」という一心であったが、その期待も裏切られて「脱法」を目的に解雇されてしまったのだ。

おわりに

 今回紹介したように、「安田学園中学校・高等学校」の労務管理では、周到に非正規雇用を搾取し、使い捨てる戦略が練り上げられている。

 しかし、私学業界全体を見渡しても、非正規労働者を低賃金・細切れ雇用で使って、都合よく使い捨てるという雇い方をしている学校が少なくない。

 生徒のためを想う、不当な待遇に耐えている先生は、全国に相当な数いるに違いない。多くの教師たちが声を上げ始めている。改善を求める教師たちの取り組みに注目し続けたい。

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