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「無期転換」開始! 乱れ咲く「脱法戦略」と対処法

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 年度末になり、この3月で契約期間が満了になる方も多いのではないだろうか?

 2012年に改正された労働契約法によって、同じ会社で5年以上働いている有期雇用の労働者(つまり、非正規雇用で働く労働者)には、期間の定めのない契約に転換できる権利が与えられることになった。これが「無期転換ルール」である。

 この「無期転換ルール」は、2013年4月1日に施行されたため、5年を迎える今年(2018年)の4月以降、続々と本制度の適用対象者が生まれることになる。ただし、この「無期転換ルール」は、労働者の側に期間の定めのない契約に転換できる「権利」を与えるだけであって、実際にその権利を「行使」しなければ意味がない。

 ところが、その権利を行使できないように、5年が経つ前に契約を更新しないなど、雇止めをされるケースが最近、増えている。本記事では、NPO法人POSSEが2018年2月に2日間行ったホットラインに寄せられた相談のなかから、典型的な事例や傾向を紹介しつつ、解決策も合わせて示していきたい。

「あからさまな」雇止めと、「能力不足」を理由とする雇止め

 ホットラインでは、これまで契約更新をくり返してきたにもかかわらず、今回は更新がされなかったという相談が多数、寄せられた。2日間で、計28件である。学校や病院、製造業で働く人、また事務関係の仕事をする人からの相談が目立った。

 では、企業側は無期転換の権利を行使させないように、どのように(あるいはどのような理由をつけて)、雇止めを行っているのだろうか。主に2つの傾向が見られる。

 1つは、契約書を持ち出して、それを根拠に雇止めをしてくるパターン(1)。もう1つは、契約を更新しないのは本人の「能力不足」による、と別の理由を持ち出して、雇止めをしているパターン(2)。このとき、会社が用意した「試験」がセットになっていることもある。

(1)あからさまな雇止め

 契約書を理由に雇止めをされたというケースをいくつか見ていこう。

家電量販店・販売員のケース

 2013年4月1日から、6ヶ月契約の更新をくり返してきた。2017年4月1日に契約を更新する際に、契約書に「2018年3月31日までとする」との記載があった。さらに、「通算5年を超えて雇わない」といった文言も書かれていた。ハローワークで仕事を探しているが、なかなか見つからないため、この仕事を続けたい。

私立大学・相談員のケース

 学生相談室の相談員として働いている。数日前、上司から「契約書にも書いてあるから知っていると思うけど、非常勤として今年で5年になるので、来年度の契約更新はしません」と言われた。他にも非常勤で働いていた事務の人がいなくなっており、本当に契約更新されなかったよう。

 これらの事例では、契約書にあらかじめ「5年を超えて契約を更新しない」といった文言が入っており、その契約に合意しているのだから、文句はないだろう、という対応を企業側がとっていることがわかる。

(2)能力不足を理由とする雇止め

 次に、能力不足を理由に、契約が更新されなかったというケースを見ていく。

専門学校・講師のケース

 2013年4月から働き始めて、これまで5回、契約を更新してきた。今年の2月頭、「指導力が足りない」ことを理由に、3月までで契約打ち切りとメールで伝えられた。これまで指導力について指摘されたことはない。上司に尋ねると、「自分で気づくべき」と言われた。ただ、昨年末の忘年会では、その上司から「今後もよろしく」と言われていた。

小売店・販売員のケース

 働き始めた当初から、通算5年を超えて働けない、と言われていた。だが5年以上働くための試験があると聞き、先日受けた。業務に関するかなり簡単なテストだったため、大丈夫だろうと思っていたが、不合格に。これまで仕事はしっかりこなしていたため、納得できない。

 ここで2つめの事例では、試験を受け、それに合格すれば5年以上働くことができるという可能性は提示されている。だが実は、「解雇のために、わざと能力を低く評価する」ということは、以前から正社員の世界で横行しているやり口なのだ(もちろん、そのような「能力評価」は正当な解雇の理由とはならない)。

 したがってこれらはすべて、契約期間が通算5年を超えて、「無期転換ルール」を適用する権利そのものが発生しないようにするためのものであると考えられる。

 このほかにも、企業側の「脱法」手段は多種多様に開発されている。例えば、事務職で働いている労働者に、上司から「無期転換するなら、掃除ばかりする部署に行ってもらう」と言われたといった相談もある(配置転換による嫌がらせ)。

 さらには、5年を待たずとも、2年半で雇止めされ、6ヶ月間のクーリング期間を経て、再び採用される可能性を示された事例もあった。改正労働契約法では、クーリング期間6ヶ月で、通算期間がリセット(つまりゼロに)されるためである。

いまの職場で働き続けるために

 これまで見てきたように、「無期転換ルール」の適用を避けようと、通算5年以上の契約を結ばないように雇止めする事例が増えている。だが、こうした雇止めは、労働契約法の趣旨からしても、到底認められるものではない。

 労働契約法では、契約の期間満了にともない雇止めをするにあたっても、労働者が次の契約の更新を期待する合理的な理由がある場合や、契約更新の手続きを取らず、自動的に契約が更新されていたというように、その契約が無期契約と同一視できるような場合には、雇止めすることはできないとされている。

 不当な雇止めにあった場合には、会社側に雇止めの理由をただすと同時に、そのやり取りの記録をとっておくことが重要だ。そして、労働組合や労働弁護士などの専門家に早めに相談するとよいだろう。

 私たちのもとに寄せられた相談では、「このまま同じ仕事を続けたい」という人がほとんどであった。「無期転換ルール」を活用して、いまの職場で働き続けることは不可能ではない。労働組合に加入し、会社との交渉を通じて、無期転換を実現した事例もある。ぜひ、下記の記事も参照してほしい(有期雇用の「5年ルール」の実態と解決策 TBC社とユニオンの画期的取り組み)。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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