有期雇用の「5年ルール」の実態と解決策 TBC社とユニオンの画期的取り組み

 9月11日(月)、エステティック業界大手、エステティックTBC(TBCグループ株式会社・https://www.tbc.co.jp/)とエステ・ユニオン(総合サポートユニオンエステ支部)が有期雇用労働者の雇用契約を無期化する「無期転換労働協約」(非正規安心労働協約)を締結した。

 背景には、労働契約法の改正によって、非正規雇用労働者は5年間以上働いている場合(契約更新によって)、企業は労働者側からの「無期雇用」に転換できると定められて事がある。5年が一つの区切りであるため、「5年ルール」などとも呼ばれている。

 この制度は、2013年4月1日施行(2012年8月10日法改正)であるため、2013年4月1日以降の契約から5年のカウントが始まる。そして、2018年4月以降に続々と無期転換ルールの適用対象者が出てくることになる。

出典:厚生労働省
出典:厚生労働省

 ところが、実際にはこの「5年」が立つ前に、あえて解雇(雇い止め)するケースが頻発していることに加え、そもそもこの新しいルールが理解されていないといった問題がある。

 そこで本記事では、「5年ルール」をめぐる問題の実情と、その解決策について解説していきたい

社会問題となっている、「脱法的な雇止め」と「周知不足」

 先ほども述べたように、制度適用を免れようとする使用者による「無期転換ルール」適用阻止のための雇止めが起こっている。いわば、「5年ルール」の「脱法的な雇い止め」である。

 具体的には、

 (1)「次回更新をしない」旨の記載がある雇用契約書の締結を求められる、

 (2)更新が5年未満の雇用契約を締結させられる、

 (3)更新回数の上限を設けられる、

 (4)「クーリング期間」(契約更新の過程で6ヶ月以上の無契約期間を挟むとそれ以前の契約期間は通算契約期間から除外できるというもの)を設定されるなどの問題が指摘されている。

 もちろん、それらの行為は今回の法「脱法」であるから、裁判を起こせば違法だと判断される可能性が高い。最悪の典型例を一つ挙げていこう。

 報道によれば、東京大学の非正規教職員について、無期転換ルールの適用逃れの問題が発生している。その影響は非正規教職員8000人に及ぶという。

 東大は、2004年に有期雇用契約の上限を5年とする「東大ルール」を作っており、労働契約法改正前からの上限設定のため雇止めをしても有効であると主張しているという。

 さらには、東大は、2012年11月にパートタイムの教職員の再雇用について、クーリング期間を3ヶ月から6ヶ月にするという一方的な不利益変更をし、無期転換ルールの適用を免れようとしているという(改正労働契約法ではクーリング期間6ヶ月で、雇用期間のカウントがゼロになる)。

 ちょうど、2012年8月10日が今回の内容を含む労働契約法の改正日のため、それを意識し、意図的に不利益変更をしたことが推察されるのだ。

 「東大が無期転換を阻害している」労組、非正規教職員8000人の雇用危機訴える(弁護士ドットコム・2017年8月23日付)参照

 一方で、そもそも、この「無期転換ルール」が、労働者に周知されていないという問題もある。2017年4月に実施された連合の調査では、無期転換ルールの内容を「知っていた」は15・9%で、「ルールができたことを知っているが、内容は知らなかった」が32・9%、ルール自体を「知らなかった」が51・2%に上っていた。

 内容を含め、知らなかった人の割合は計84・1%となり、約8割の労働者が無期転換の権利自体を知らないことが明らかになっている。無期転換ルールは、あくまで適用労働者自らが使用者へ無期転換を申し出なければ効力が生じないため、このままでは権利行使がほとんどなされないことが想定される。

連合「有期契約労働者に関する調査」(2017年7月20日付発表)

エステティックTBCの「無期転換労働協約」の具体的内容

 こうした中で、労使の話し合いによって、この問題を解決する画期的な事例が登場した。エステ・ユニオンは、労働者の意見を集め、エステティックTBCと団体交渉を重ねてきたという。締結した労働協約の詳細は以下になる。

  • (1) 会社は、通算契約期間に関わらず、有期雇用労働者が無期雇用への転換を求めた場合、それを認める。ただし、既に会社との間で有期労働契約を更新しないことまたは退職を合意した有期雇用労働者についてはこの限りでない。
  • (2) 会社は、有期雇用労働者が無期雇用への転換を求めた 場合、従来の労働条件を維持し、労働条件の不利益変更を行わない。
  • (3) 会社は、有期雇用労働者が無期雇用への転換を求めた場合、当該労働者に対して嫌がらせ等の不利益取扱いを行わない。
  • (4) 会社は、既存の有期雇用労働者全員に対して、無期雇用への転換に関する案内を通知する。
  • (5) 会社は、今後、新規に採用する労働者については、全員を無期雇用労働者として採用をする。
エステティック大手TBCで結ばれた協約
エステティック大手TBCで結ばれた協約

 この労働協約の内容の画期性は、労働協約で実行性を担保していることに加え、現行法の内容・水準を大きく上回るものとなっているところだ。

 第一に、法律が定める5年の通算契約期間を問わず、有期雇用労働者が無期転換を求めた場合、即時、転換が可能だという点だ。これは、現行法の「5年ルール」をはるかに超える内容となり、非常に画期的である。

 第二に、無期転換時の労働条件の不利益変更の禁止しており、無期転換した際には、それまでの労働条件が維持され、労働条件の引き下げは許されないという点だ。無期転換を条件にこれまでよりも低い契約条件を結ばされるなどはできないということだ。

 第三に、無期転換を要求した労働者への不利益取扱いが禁止されており、無期転換を求めた労働者に対する、嫌がらせ等の報復措置は許されない。無期転換は自らの申し出によるものであるが、それを労働者が抵抗なくできるようにするための工夫である。

 第四に、既存の有期雇用労働者へ無期転換の制度概要・メリットについて周知し、転換を積極的に推進している点だ。前述の連合調査でも有期雇用労働者の約85%が無期転換の権利を知らない中で、個別労働者へ通知をしていき、転換を促すための工夫である。

 第五に、今後、新規に採用する従業員(原則としてエステティシャンに限る)は、すべて無期雇用労働者として採用するという点だ。通常、雇用の調整弁として有期雇用を活用する企業が多い中で、かなり踏み込んだ内容となっている。既存有期社員の無期転換と、新規採用社員の無期採用により、将来的に、エステティックTBCは「有期雇用ゼロ」、「全員無期雇用」の企業になるということだ。

無期転換対象者の声

 今回の労働協約締結を受けての、無期転換希望者の声は以下のようなものだという。無期転換をすることによる労働者の安心感や、モチベーションアップなどが伺い知ることができる。

Aさん

 今回、無期転換の労働協約が締結されたことで、雇い止めを心配せずに安心して働ける様になり、とても嬉しいです。これで、今後の自身の将来設計もできて、先を見通しながら生活をしていくことができます。再就職もなかなか難しい中、とても大きなことだと思います。

 また、会社が、様々な雇用形態の社員を 「使い捨て」ではなく、無期限の「財産」として考えてくれるならば、目標を持って技術のスキルアップをするなどし、より意欲的に働けると思います。

 法律の施行前に業界大手のTBCが率先して無期転換制度を導入する事は、他社への良いお手本となるとも思います。エステ業界は、ブラックだと言われることが多いのですが、良いことも注目されるといいなと思います。

Bさん

 今回の労働協約で無期雇用になると、長期に働けることが念頭に置け、半年や1年のスパンで物事を考えず、より広い視野に立ち、新しい技能を身につけるモチベーションや後輩育成もより前向きに取り組む人が増えると思います。

 特に、子育て世代にとっては、時短勤務かつ「無期雇用」の仕事はありがたいです。パートなどだと有期雇用などが多いので、雇止めの不安が付きまといます。好きな仕事を子育てしながら長期に続けていける展望が開けたのが嬉しいです。

==業界全体の改善へ== 

 今回の労使の取り組みは、ブラック企業が多いとエステ業界が言われる中で、同社を魅力的な企業にするだろう。これから新規に入社する労働者にとっては、皆、無期雇用労働者としての採用になるからだ。

 つまり、ユニオンとの労働協約の締結は企業イメージの刷新や宣伝効果にもなる。その結果、企業にとっても優秀な人材が集まりやすくなり、さらには、今回のように有期雇用労働者が無期転換されることにより、在職労働者の定着や技術の向上等のモチベーションアップにもつながっていくことは、長期的な企業の発展にも資するだろう。

 今後、業界の中でこのような動きを促進させるために、エステ・ユニオンは、同業他社にも労働協約の締結を提案したり、労働協約を締結しないまでも本協約内容の履行を求める公開質問状の送付を予定しているという。 ユニオンの今後の取り組みも注視しつつ、ぜひ、同業他社にも積極的な労働協約の締結を期待したい。

おわりに

 最後に、有期雇用労働者で雇止めや、それを恐れるがゆえに劣悪な労働環境に泣き寝入りをしていたり、退職を考えて悩んでいるエステ業界で働く方は、ぜひ、エステ・ユニオンまで相談されることをお勧めする。

 泣き寝入りをするのでも、退職をするのでもなく、会社と労働環境改善のための交渉を通じて、より良い労働環境を作っていくという第三の選択肢を選んでみてほしい。その実例が、今回のエステティックTBCの労働協約であり、これからの日本にますます必要なモデルであると考えられる。

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