サービス残業の温床となる、企業の「残業抑制策」

10月25日、過労死が問題となっている電通が、残業代抑制のために全事業所の消灯を22時とすると発表した。世間では、労働時間抑制に向けた動きとして評価されている。しかし、こうした会社による「残業抑制策」は、必ずしも労働時間を抑制することにつながっていない。

NPO法人POSSEでは、年間4000件以上の労働相談を受けているが、労働時間抑制策が、逆にサービス残業を生み出してしまう例が多くみられるのが実態だ。

本記事では、企業の「残業抑制対策」を三つに分類しながら解説していこう。

企業が行う長時間抑制の3つの類型

企業による残業抑制策は、主に以下の3つの類型に分けられる。

一つ目は、強制退社型。ノー残業デーを設けて、定時退社を強制したり、毎日の労働時間の制限を設け、従業員を強制的に退社させるやり方だ。

二つ目は、上限設定型。文字通り残業時間の上限を設け、それ以上の残業は認めない、というやり方だ。残業時間の上限を定める労使協定(36協定)で残業時間を低めに抑え、それ以上は残業させない。

三つ目は、残業申請型。残業時間をいちいち従業員に申請させ、企業の側が残業として認める場合だけを残業として認めるやり方。

いずれも目的は長時間労働抑制だ。しかし、どの制度の場合にも、労働時間の抑制につながらずに、むしろ、サービス残業を生み出してしまうケースが続発している。

生み出されるサービス残業

その仕組みは簡単だ。いずれの残業抑制策がとられたとしても、「業務量」が減るわけではないからだ。

業務量が減らない限り、強制退社を命令しても終わらない分は「持ち帰り残業」になってしまうだけだ。また、残業に上限が設定されていても、業務量が減らなければ、やはりサービス残業をするしかない。

さらに、残業申請型の場合には、こなすことのできない分の業務を「自分の責任だ」と思わせる仕掛けになっており、自ら申請を抑制してしまう場合が見られる。

実際の労働相談では、この三つの類型が組み合わさりながら、サービス残業が横行している実態が見て取れる。

具体例を挙げてみていこう。

長時間労働抑制の事例1

まずご紹介したいのは、新卒で不動産会社の正社員として入社したAさんの例だ。この会社では、残業申請、上限設定が巧みに実施されていた。

Aさん(24代、男性)は、月70~100時間程度の残業の末、健康を害し、休職に追い込まれた。一度復帰はしたものの、すぐに元通りの長時間労働を強いられ、長期間回復が見込まれないほどに体を壊してしまったのだ。

労働相談に訪れたAさんの話からは、かなりの長時間労働があるものと考えられたが、明細を見ると残業時間は月20~30時間程度。記録上は、長時間労働が見受けられなかった。理由を聞くと、残業時間には制限が設けられているうえに、残業時間を残業として認めてもらうには申請の上で承認が必要だという。

そもそも、この不動産会社は、数年前に労働基準監督署から全社的に広がっていたサービス残業をなくすよう指導を受けていた。この指導は報道でも大きく取り上げられ、会社は残業抑制に乗り出さなければならなかった。

Aさんが入社した際にも、「サービス残業はするな」、「残業はするな」としつこく言われたという。

ところが、会社のパソコンがなければ、仕事はできない。そこで、Aさんを含めた多くの従業員は「自習時間」として会社に居残りを申請し、残業せざるをえなかった。

このケースは、先の分類では「上限設定型」と「残業申請型」の組み合わせに当たる。長時間労働を「抑制」しようとした会社がとった労務政策が、サービス残業を引き起こしていたのである。

長時間労働抑制の事例2

長時間労働「抑制」によるサービス残業の横行は、保育・介護業界の特徴ともなっている。

いずれの場合も公的資金が運営費の8~9割を占め、利用者の数が決まれば、事業者への総収入額も自動的に決まる。決まったコストの中で利潤を追求するために、事業者は賃金を抑制しなければならない。その手軽な手段としてとられるのが、残業抑制政策なのだ。介護保育ユニオンの統計によると、介護保育業界から寄せられた相談150件のうち、およそ8割でサービス残業が発生している。

ある大手企業の運営する保育園の例を挙げよう。Bさん(30代、女性)は3年前から大手企業の経営する保育園で働いてきた。

この保育園では、「強制退社型」、「上限設定型」、「残業申請型」の三つのやり方が同時に見られる。

この保育園は数十項目にわたる業務の一つ一つについて、残業時間として認めるか否かが決められていた。その表をみると、園として取り組むことになっている研修や会議などをのぞいて、「残業時間としてみとめない」とされている。

保育士の仕事は子どもの相手をする保育のみでなく、保育の記録を書く児童票や保育計画の作成、クラス通信の作成、催し物の準備など膨大な量の事務作業がある。この保育園ではこれらの残業を一切認めていなかったのだ。

この保育園には、他の多くの保育園と同じように十分な数の保育士がいない。だから、子どもがいる間、保育士は保育のみにしか当たれず、事務作業は子どもがいない間にやるしかない。ところが、自分のシフトの時間が終わった後に残っていると、園長にきつく怒られてしまう。

そのためまず、子どもの個人情報を取り扱う必要のない行事の準備などは、持ち帰り。もちろん賃金はつかない。さらに、子どもの保育の記録などは、シフトが終わった後に、消灯で暗くなった部屋で園長にばれないように静かにこなしていくのだという。

「子どものためなら」とみんなで我慢しているというのだが、暗い部屋でただ働きとわかっていながら「責任感」だけで仕事を押し付けられている実情はあまりにも不条理である。

長時間労働とサービス残業で困ったときには 専門機関に相談を

以上の事例からは、業務量が減らない限り強制退社や、残業時間に上限が設定されていても、業務量が減らなければ、サービス残業に労働者が追い込まれる実態が分かるだろう。

また、「残業申請」を通じて、労働者が「自ら」申請を抑制してしまう構図が事態をより深刻にしている。

では、企業側の行う残業抑制策がサービス残業を生み出すのなら、私たちはどうしたらよいのだろうか。現状で一番重要なのは、専門機関を頼ることだ。

サービス残業はいうまでもなく、違法だ。しかも労働基準法違反である。長時間労働も時間外労働時間の上限を定める36協定に違反している場合が多く、これも労働基準法違反にあたる。

労働基準法は、国が労働基準監督署を通して取り締まっている法律で、この法律に違反した事業者は、悪質な場合には書類送検され、刑事罰を科されることにもなる。

しかし、個人で動くのは非常に難しい。しかも、労働時間抑制策の結果として、労働者が「自主的」に証拠を隠しているため、労働時間の記録が公式の文書として残っていないことが多い。

だからこそ、適切な専門家に相談することが大切になる。

専門機関のスタッフは、証拠づくりのプロである。相談すれば、自分ではとても思いつかない様な手段で、証拠を取るやり方を丁寧に教えてくれるだろう。また労働組合や労働基準監督署を適切に使う手段もわかる。

適切な方法で、労働組合や労働基準監督署を使えば、必ず、長時間労働やサービス残業をなくすことができる。

下記の相談機関は、過労死や長時間労働やサービス残業をなくすために、みなさんと一緒になって最後までサポートする。ぜひご相談いただきたい。

無料相談窓口

NPO法人POSSE

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