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ウクライナの「インターネット軍」、SNS活用の情報戦 ロシアとの断絶迫る

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

ウクライナ政府がインターネットを活用した情報戦で、西側諸国の企業にロシアとの関係を断つよう圧力をかけていると米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている

ボランティア30万人参加の情報戦、1日1億人が閲覧

ウクライナのデジタル転換省がつくった「インターネット・アーミー」と呼ばれる組織は、同国のネット情報戦を支援する有志で構成され、SNS(交流サイト)などを駆使して不特定多数の人に情報発信している。

同国のフョードロフ副首相兼デジタル転換相によると、これまでボランティア約30万人が参加し、世界で1日当たり約1億人のネット利用者が投稿を閲覧している。その活動には、ロシアで事業活動を継続している西側企業を名指しし、事業停止するよう呼びかけるものもあるという。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、同省は欧米の大手企業数十社に圧力をかけるように参加者に指示を出している。具体的にはロシア発の対話アプリ「テレグラム」のチャンネル機能を通じ、SNS投稿用のサンプル文章を提供している。参加者はこれを利用して、ツイッターなどの自身のアカウントにメッセージを投稿する。

最近では、医薬・日用品の米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)がターゲットとなった。2022年3月11日に、ウクライナ人とみられる女性が「我が国に血なまぐさい戦争をしかけているロシア軍に資金を提供しないよう強く要請します。侵略国に協力するのはやめて。自社の立場を示しロシア市場を放棄してください」と、J&Jのアカウントをタグ付けして投稿した。

J&Jは22年3月29日に、ロシアでパーソナルケア製品の販売を停止したと発表したが、医薬品と医療機器の販売は続けるとした。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、米ハンバーガーチェーン大手のマクドナルドも「インターネット・アーミー」のターゲットになった。マクドナルドは22年3月8日、「ウクライナの罪のない人々に言い表せない苦しみを引き起こしている」として、ロシア国内の約850店舗の一時閉鎖を発表。22年5月16日には30年以上展開してきたロシア事業から撤退する方針を明らかにした。

この活動のターゲットとなった多くの西側企業が、ロシアからの撤退、あるいは事業の一時停止、販売中止を明らかにしている。その理由として企業は、制裁の中で事業を継続することの難しさや、従業員の安全確保などを挙げて様々に説明したが、背景にSNSからの圧力があったと説明した企業は1社もなかった。

政府当局者や大手メディア幹部にも働きかけ

ここ最近、「インターネット・アーミー」の活動範囲は広範に及んでいるとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。例えば、外国政府当局者をターゲットにし、ウクライナに重火器を供給するよう訴えているという。

また、活動に協力してもらおうと影響力のある人をタグ付けしている。これまでに対象となった人物は、ロイター通信のアレッサンドラ・ガローニ編集主幹やウォール・ストリート・ジャーナルのマット・マレー編集局長、ニューヨーク・タイムズのディーン・バケット編集主幹、ロサンゼルス・タイムズのケヴィン・メリダ編集長、USAトゥデーのニコール・キャロル編集主幹など。ロシアで事業を行っている企業の広告出稿を拒否するよう促す狙いがあるという。

フョードロフ副首相も自ら書簡作戦

一方で、フョードロフ副首相も自ら西側諸国のIT(情報技術)企業に働きかけている。これまでに米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)や米アマゾン・ドット・コムの創業者で会長のジェフ・ベゾス氏などに書簡を送り、ロシア事業の停止を要請してきた。その対象は当初だけでも50社以上に上ったとみられる。

その後、副首相の要請に応じる形でロシアでの販売や事業を停止する動きが広がった。米アップルは22年3月1日、ロシアでスマホ「iPhone」を含む全製品の販売を停止した。米マイクロソフトは22年3月4日、ロシアで全製品・サービスの新規販売を一時停止すると明らかにした。

ウクライナ副首相兼デジタル転換相のミハイロ・フョードロフ氏
ウクライナ副首相兼デジタル転換相のミハイロ・フョードロフ氏写真:ロイター/アフロ

IT大手、次々ロシア事業停止

米ソフトウエア大手オラクルは22年3月2日にロシア国内の全事業を停止したと発表。同業の独SAPはロシアでの販売を停止。米IBMや米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、米デル・テクノロジーズも販売を停止すると明らかにした。

消費者向けネットサービス分野では、米グーグルが検索サイトと動画配信サービス「YouTube」の広告を一時停止。モバイルOS「Android」向けのアプリストアでは有料アプリやサブスクリプション(定額課金)の提供をやめた。グーグルについては22年5月18日にロシア子会社が同国の裁判所に破産申請し、社員の大半がロシアから出国すると報じられた。

このほか、動画配信大手の米ネットフリックスや民泊大手の米エアビーアンドビーもサービスを停止。アマゾンは22年3月8日に、ロシアとベラルーシの顧客向け小売製品の出荷を一時停止。両国におけるクラウドサービスの新規契約や、外部販売業者による出品の受け付けも中止した。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年4月21日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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