EUによる米巨大IT3社の調査、何を問題視したのか? グーグル、アップル、メタに巨額制裁金の可能性
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会が、米IT(情報技術)大手3社の調査を開始した。デジタル市場法(DMA)の全面適用に先立ち各社が取った対策が同法の順守に不十分との見解を示した。
調査対象となったのは、米アルファベット(米グーグルの持ち株会社)、米アップル、米メタの3社である。2024年3月7日に適用が始まったDMAに基づく正式調査はこれが初となる。
ベステアー氏「3社の対応策はDMAに完全準拠していない」
競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー上級副委員長は声明で「3社が示した対応策はDMAに完全に準拠していないと考えられる」と懸念を表明した。
「今後、欧州におけるオープンで公正なデジタル市場を確保するため、各社の順守状況を調査する」(同)。
欧州委は調査を1年以内に完了させたい考えだ。違反が認められれば世界売上高の最大10%の制裁金を科し、違反が繰り返される場合は最大20%まで引き上げる。
構造的な違反の場合、特定の事業やその一部の売却を義務付けたり、関連サービス企業の買収を禁じたりするなど、追加の措置を講じる。
欧州委はDMAに基づき5件の調査を進める。具体的には、①アルファベットのアプリストアにおけるユーザー誘導の制約と②Google検索における自社サービスの優遇、③アップルのアプリストアにおけるユーザー誘導の制約と④ブラウザー選択やデフォルト設定変更に関する制約、⑤メタの「同意するか、支払うか」の2択手法、である。
アプリストアやOS、サービスを問題視
2社のアプリストアについては、アプリ開発業者が、利用者を誘導し自社サービスを宣伝したり、直接契約を結んだりすることに様々な制約を設けていると、指摘する。
Google検索では、「Googleショッピング」や「Googleフライト」、「Googleホテル」などの自社サービスを検索結果画面で優先的に表示しているとみて調査する。
アップルのスマートフォン「iPhone」については、一部のアプリを削除できず、オペーレーティングシステム(OS)「iOS」の初期設定の変更が容易ではない、ウェブブラウザーや検索エンジンなど、代替サービスを容易に選べるような選択画面を提供していない、などと疑っている。
欧州委は、「アップルの対応策はDMAに違反し、利用者がサービスを自由に選択することを事実上妨げているのではないか」と指摘した。
メタの「広告・有料型」2択モデルを疑問視
メタは23年11月、欧州でSNS(交流サイト)「Facebook(フェイスブック)」と画像共有サービス「Instagram(インスタグラム)」の有料版を始めた。
有料版では広告を表示しない。これは、欧州における「一般データ保護規則(GDPR)」の強化やDMAに対処するための措置だ。
アイルランドをはじめとするEUのプライバシー規制当局は、サービスの利用履歴に基づく広告(行動ターゲティング広告)を配信する際、事前に利用者の同意を得るよう求めている。
だが、そうすることで、多くの利用者が広告表示を選択しないとみられる。このことは、売上高の98.5%を広告収入が占めるメタのビジネスを脅かすことになる。
そこで同社は欧州の利用者に対し、FacebookとInstagramを、①同意して引き続き広告付きで利用する「広告型」、②同意せず、広告なしで利用する「有料型」、の2つの選択肢を用意した。
しかしこれについて欧州委は、「同意するか、支払うか」の二者択一のモデルには、「(同意したくない場合)現実的な代替手段がない」と指摘。
「巨大IT企業による恣意(しい)的な個人データ収集を抑制するというDMAの目的を達成できない」と懸念を示した。
欧州委はこのほか、米アマゾン・ドット・コムがEC(電子商取引)マーケットプレイスにおいて自社プライベートブランド(PB)を優先表示していないかどうかについても調べる意向だ。
アップルがアプリのインストール件数に基づき開発者から徴収する新手数料制度「Core Technology Fee(コア技術料金)についても情報収集する。
- (本コラム記事は「JBpress」2024年3月29日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)