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Appleカー、韓国LGが生産受託交渉で「合意間近」 自動車大手は警戒もIT大手と手を組む方法模索

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
画像出典:Luxury Zone

韓国の英字紙コリア・タイムズは4月14日、米アップルと韓国LG電子関連会社による電気自動車(EV)の生産委託交渉が合意間近だと報じた

LG電子とカナダの自動車部品大手マグナ・インターナショナルが近く設立する合弁会社「LGマグナ e-パワートレイン(仮称)」が、「Appleカー」とも呼ばれるアップルブランドEVの初期量産分を担当する見通し。双方が契約の詳細について交渉を続けていると関係者は話している。

画像出典:The Korea Times
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米メディアによると、EV用モーターや減速機などの「パワートレイン(駆動系)」の設計をLG電子がマグナとともに行い、マグナが車両の製造を手がけるもよう。

ただ、アップルは初代モデルを市場調査のための評価車と位置付けており、当初の生産台数はそれほど多くはないとコリア・タイムズは伝えている。

アップルとの取引実績があるLGグループ

LGにはアップル製品の部品サプライチェーン(供給網)となっているグループ企業がいくつもある。液晶パネルのLGディスプレーのほか、電子部品のLGイノテック、電池事業を手がけるLG化学、LG化学から2020年に分社した電池子会社LGエネルギーソリューションなどだ。

これらのグループ企業はアップルとの十分な取引実績があり、歩留まり(良品率)や納期などの点で信頼を得ているという。

LGグループは米テスラや、米ゼネラル・モーターズ(GM)の「シボレー・ボルトEV」にEV用駆動モーターやバッテリーパックなどを供給した実績がある。マグナもEV用電子機器を手がけている。

LG電子は先ごろ、スマートフォン事業から撤退すると発表した。21年7月末をメドに自社スマホの販売を終了する予定。不採算事業からの撤退により利益率の改善が見込まれ、自動車部品関連事業に資金を投じることができるという。

一方、LG電子とマグナ・インターナショナルの合弁会社は、EV用駆動モーターや車載充電器、インバーター(駆動時と減速時に直流・交流電流を変換)などを製造する計画。出資比率はLGが51%、マグナが49%。株主の承認などを経て21年7月に設立手続きが完了する見通し。

アップルとの契約が成立すれば、LGとマグナはAppleカー生産計画の詳細をまとめる。アップルは24年初頭をメドに試作車を公開するとコリア・タイムズは報じている。

現代自との交渉決裂、日本の自動車大手と協議か

Appleカーの計画を巡っては20年末以降、米国や韓国で関連報道が続いている。ロイターは20年12月、アップルが自動運転技術の開発を進めており、24年までの乗用車生産開始を目指していると報じた

米CNBCは21年2月3日、韓国・現代自動車の系列自動車メーカー韓国・起亜に生産委託する交渉がまとまりつつあると報じた。米ウォール・ストリート・ジャーナルは2月5日、起亜がアップルのEV生産に関し提携企業を探していると報じた。起亜が米ジョージア州に持つ完成車工場で24年にも生産を始め、初年で最大10万台を生産する可能性があると、関係者は話した。

だが、現代自は2月8日、これらの報道を否定するコメントを出した。現代自と起亜は、規制当局に提出した文書で「自動運転EVの共同開発について複数の企業から協力要請を受けているものの、まだ初期段階であり何も決まっていない」と説明。そのうえで、「アップルと自動運転車開発の協議をしていない」と否定した。

ウォール・ストリート・ジャーナルは2月9日、「現代自との交渉は決裂したもようだが、アップルは1社に依存することはなく、日本の自動車メーカー数社とも協議している」と報じた。

「iPhone」の生産モデルをEVに

4月5日には、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)がポッドキャストのインタビュー番組に出演して自動運転車の開発計画を示唆したと伝えられた。

この中で同氏は「我々は製品を取り巻く重要技術を自社で持ちたいと考えている」とし、「ハードウエアやソフトウエア、サービスを統合したいと考えており、それらの交点を探っている。そこに不思議な力が宿ると信じているからだ」と語った。

アップルはEV分野でもスマートフォン「iPhone」のように中核技術を自社開発・保有し、製造を協力企業に依頼するモデルを考えていることがうかがえる。これまでの成功体験を基に製造委託先を探しているようだ。

ただ、単なる下請けになりたくない自動車大手とは馬が合わない。それが現代自・起亜との交渉が決裂した理由ではないかと想像できる。かつて、大手通信事業者が「IT大手の『土管』にはならない」と言っていた記憶がある。同様のことが、自動車産業にあるのかもしれない。

EVは長年培われた内燃機関の技術が不要になり、自動車生産の垣根が低くなったと言われている。一方、センサーやソフトウエア、通信技術が、EVと相性の良い自動運転技術で重要になっている。自動車大手はこうした動きを警戒しつつ、時代がEV化に向かう中、IT大手と手を組む方法を模索している。

  • (このコラムは「JBpress」2021年4月15日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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