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アップルの自動運転開発プロジェクト「タイタン」とは

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
画像出典:米CNBC

先ごろ、米アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)が自動運転車の開発計画をほのめかしたと、米経済ニュース局のCNBCが報じた

クックCEO「ハード・ソフト・サービスを統合したい」

ポッドキャストのインタビュー番組で語ったもので、「私の考えでは自律動作は中核技術だ。一歩離れて見れば、自動車はさまざまな点でロボットの要素がある」とし、「自律走行車はロボットだ。自律技術を使ってできることはたくさんある。我々はアップルが何をするのか検討している」と述べた。

同氏は「社内で多くのことを研究している。多くは日の目を見ないが、1つも日の目を見ないとは言わない」とも語った。

アップルが自動車そのものを開発しているのか、それとも自動車に使われる技術を開発しているのか、という問いにクック氏は答えなかった。

だが「我々は製品を取り巻く重要技術を自社で持ちたいと考えている」とし、「ハードウエアやソフトウエア、サービスを統合したいと考えており、それらの交点を探っている。そこに不思議な力が宿ると信じているからだ」とも語った。

テスラに移籍した技術者呼び戻しプロジェクト進展

アップルでは2014年に「タイタン・プロジェクト」と呼ばれる自動運転開発の取り組みを始めたとされる。このプロジェクトは一時、膨大な数の人員と費用を投じて技術開発に取り組んでいたものの、その後曲折があったと言われている。18年には計画を縮小し、自動運転のソフトウエア開発に注力する方針を打ち出したと報じられた。

だが、その後の報道によると、アップルの元ハードウエアエンジニアで、米電気自動車(EV)大手テスラにエンジニアリング部門シニアバイスプレジデントとして移籍していたダグ・フィールド氏を18年に呼び戻した。フィールド氏はタイタン・プロジェクトの責任者に就いたとされる。それ以降、プロジェクトは進展し、EV市販モデルの製造を目指すまでになったと伝えられている。

アップルは18年に、米グーグルに8年在籍し、AI(人工知能)や検索の責任者を務めていたジョン・ジャナンドレア氏を採用。同年12月にAI戦略担当シニアバイスプレジデントとして役員チームに加えた。

CNBCによると19年3月に、テスラでエンジニアリング部門バイスプレジデントを務めていたマイケル・シュウェカッシュ氏も採用した。シュウェカッシュ氏は現在、アップルの特別プロジェクトグループのエンジニアリング担当シニアディレクターを務めているという。

アップルではその後、AI企業の買収が加速した。例えば19年6月には米シリコンバレーの自動運転開発企業ドライブ・エーアイ(Drive.ai)を買収。この企業は、スタンフォード大学AI研究所の科学者グループによって設立され、自動運転や、他車ドライバーや歩行者とコミュニケーションを取るシステムの開発を手がけていた。

こうした企業買収がアップルの自動運転事業を大きく進展させたと言われている。同社は20年1月、エックスノア(Xnor)というAI技術企業を2億ドル(約220億円)で買収したとも報じられた。エックスノアは、米マイクロソフトの共同創業者で資産家の故ポール・アレン氏が設立したAI研究所から独立した企業。AIをクラウドサービスのデータセンターではなく、スマートフォンやスマートホーム機器、セキュリティーカメラ、車載機器といった端末上で実行する技術を開発していた。エッジAIとも呼ばれるこうした技術は、自動運転の分野でも応用が期待されている。

日本の自動車大手と協議か

「Apple Car」とも呼ばれるアップルブランドのEVを巡っては今年2月にさまざまな報道があった。CNBCは2月3日、韓国・現代自動車の系列自動車メーカー韓国・起亜に生産委託する交渉がまとまりつつあると報じた。米ウォール・ストリート・ジャーナルは2月5日、起亜がアップルのEV生産に関し提携企業を探していると報じた。起亜が米ジョージア州に持つ完成車工場で24年にも生産を始め、初年で最大10万台を生産する可能性があると、関係者は話した。

だが、現代自は2月8日、これらの報道を否定するコメントを出した。現代自と起亜は、規制当局に提出した文書で「自動運転EVの共同開発について複数の企業から協力要請を受けているものの、まだ初期段階であり何も決まっていない」と説明。そのうえで、「アップルと自動運転車開発の協議をしていない」と否定した。

ウォール・ストリート・ジャーナルは2月9日、「現代自との交渉は決裂したもようだが、アップルは1社に依存することはない。アップルは日本の自動車メーカー数社とも協議している」と報じた。

  • (このコラムは「JBpress」2021年4月7日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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