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EUがAppleに科した制裁金2900億円、何を問題視したのか 両者の言い分

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2024年3月、米アップルが競合音楽配信サービスとの競争を阻害したとして、同社に約18億ユーロ(約2900億円)の制裁金を科した。だが、アップルはこの決定を受け、不服申し立ての手続きを行う方針だ。

ベステアー氏「アップルは10年間EU競争法に違反」

欧州委で競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー上級副委員長はアップルの慣行について、「開発者が、アップルのエコシステム(経済圏)外で利用できる安価な代替音楽サービスについて、消費者に情報を提供することを制限してきた」と指摘した。

同氏は、「この慣行は過去10年続いており、アップルはその間、EU競争法(日本の独占禁止法に相当)に違反していた」とも述べた

欧州委は、アップルが自社アプリストア「App Store」内で音楽配信事業者に義務付けている独自規約について調査してきた。スウェーデンの音楽配信大手スポティファイ・テクノロジーの苦情を受けて2020年に調査を開始した。

これに先立つ2023年2月、欧州委はEU競争法違反の疑いがあると警告する「異議告知書」をアップルに送付していた。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は2024年2月、欧州委がアップルに制裁金を科す方針を固めたと報じていた。

欧州委は今回、「アップルの行為により、ユーザーは音楽配信サービスに対して、著しく高い料金を支払うことになった」と結論付けた。アップルは、同社のアプリストア「App Store」において、有料アプリやデジタルコンテンツを販売するアプリに対し最大30%の販売手数料を課している。

欧州委は、そのコストがより高額なサブスクリプション料金という形で消費者に転嫁されたと指摘した。また、今回の決定の一環として、アップルに対して、同社のオペレーティングシステム(OS)以外でサービスを提供するアプリを遮断することを禁止した。

アップル「市場の現状を無視している」

一方、アップルは声明で「欧州委は、消費者に損害を与えているという明白な証拠を見いだせていないにもかかわらず、決定を下した」と反論した。「欧州委の主張は、活気に満ち、競争が激しく、急成長している市場の現状を無視している」とも付け加えた。

苦情を申し立てたスポティファイ・テクノロジーについては、「この決定の支持者であり、最大の受益者は、スポティファイだ」と述べた。アップルによると、欧州委とスポティファイは今回の調査期間中に65回以上、面会を重ねた。

アップルによれば、スポティファイは欧州の音楽配信市場で56%のシェアを持つ首位で、そのシェアは第2位企業の2倍以上。「だがスポティファイは自社を世界で最も知名度の高いブランドの1つにすることに貢献したアップルのサービスに対し、一切の料金を支払っていない」とアップルは主張している。

同社は「彼らの成功の大部分は、App Storeおよび、アップルユーザー向けアプリの構築・更新・データ共有のためのツールとテクノロジーに基づいている」とも述べた。

EU競争法で過去3番目に高い制裁金

出所:独Statista(https://www.statista.com/chart/14752/eu-antitrust-fines-against-tech-companies/)
出所:独Statista(https://www.statista.com/chart/14752/eu-antitrust-fines-against-tech-companies/)

FTによると、アップルがEU競争当局から制裁金を科されるのは今回が初めて。約18億ユーロという金額はEU競争法に基づく制裁金として過去3番目に高い。

ベステアー氏によれば、従来の計算方法に基づく金額は4000万ユーロ(約65億円)となるが、「これでは、(アップルにとって)スピード違反や駐車違反の切符(反則金)にもならない」(同氏)。

そこで、違反行為の期間と重大性、アップルの総売上高、時価総額、アップルが調査中に「不正確な情報を提出した」(欧州委)ことなども考慮して金額を決めたと、欧州委は説明している。

今回の決定について、アップルは不服を申し立てる意向を示した。今後EUの裁判所で長期間の法廷闘争が繰り広げられることになる。

筆者からの補足コメント:
EUでは2024年3月7日に、デジタル市場法(DMA)の本格運用が始まりました。アップルをはじめ、米アマゾン・ドット・コムや米グーグルなど「ゲートキーパー」に指定された企業は、同法の全規則を順守する必要があります。アップルは2024年1月、DMAを順守するため、他社アプリストアからもiPhoneやiPadにアプリをダウンロードできるようにすると発表しました。ですが、この新方針によってアップルが欧州で導入する手数料制度に批判の声が上がっています。

特に批判されているのが、「アプリがアップルのApp Storeを使うか、競合アプリストアを使うかにかかわらず、アップルが徴収するコア技術料金(Core Technology Fee)」。対象となるのは、EU域内のiOSで過去12カ月、初回インストール件数が100万件を超えたアプリ。100万件超えた部分にかかるもので1件当たり0.5ユーロ(約80円)です。「(アップルの新規約は)世界で最も人気の高いプラットフォームの1つであるiOSを開放するには至っていない」などと非難されています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年3月6日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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