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ウーバー、カリフォルニア州でサービス停止を回避も予断許さぬ状況

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 先ごろ米カリフォルニア州の控訴裁判所が、米ウーバーテクノロジーズと米リフトに対する仮命令の猶予期間を延長したと、米CNBCロイターなどが報じた。

 これにより、両社の配車サービスは同州で継続できることになった。ただ、あくまでも猶予期間が延びただけの限定的なもの。

 ウーバーは「運転手が望む自由な働き方を我々が支持する間、重要なサービスが遮断されないことをうれしく思う」と述べており、11月に予定される同州の住民投票による判断に期待している。

 しかし、この問題の行方は依然予断を許さない状況だ。

ギグワーカー保護の新法「AB5」

 これに先立つ今年1月、カリフォルニア州は配車サービスなどで単発的に働く、いわゆる「ギグワーカー」を請負業者ではなく従業員として扱うよう義務付ける新法「AB5(Assembly Bill 5)」を施行した。

 配車サービスのドライバーには、福利厚生や最低賃金制度などがない。有給の病気休暇もなく、社会保障や医療保険の会社負担もない。こうした中、新法はギグワーカーを保護する目的で制定された。

 ただ、ウーバーなどはこれに反発。請負制によって柔軟な働き方が可能になっており、ドライバーは継続を望んでいると主張した。

 また、2社は「当社の事業はドライバーと乗客を結び付ける技術プラットフォームの提供であり、旅客運送業ではない」とも主張。

 ドライバーを従業員として扱えば、社会保障費などの負担が増え、事業が成り立たなくなるとも訴えた。

 しかし、カリフォルニア州の司法長官などは5月、ドライバーに労働者としての権利を保障しなかったとして、2社を提訴した。

 

 AB5は、企業が仕事の実績を管理・統制したり、仕事の内容が企業の通常業務の範疇に入ったりする場合、「従業員」に分類されると定めている。

 そして8月10日、一審の上級裁判所は、ウーバーとリフトのドライバーは請負業者としての要件を満たさないと判断。2社に対し配車サービスの運転手を従業員として扱うよう求める仮命令を出した。

 この時、裁判官は「ウーバーなどが主張する理由が認められれば、テクノロジーへの依存が高まっている今の大多数の企業は、何らとがめられることなく労働者の権利を奪うことができてしまう」と述べた。

 一方、ウーバーは「この問題はカリフォルニア州の住民投票で判断されるべきだ」と反論していた。

「100万人以上の請負業者が従業員に」

 ウーバーは今年1月、新法の施行を受けて対策を講じた。これは配車サービスの運賃設定をドライバーに委ねるというもの。

 カリフォルニア州の3つの空港からの乗車運賃について、ウーバーが設定した料金の最大5倍を請求したり、10分の1にまで下げたりできるようにした。

 目的は業務の裁量権を与えること。これにより、ドライバーの独立性を高め、同法の適用を回避しようとした。

 一方、米ニューヨーク・タイムズは、カリフォルニア州では新法の下、100万人以上の請負業者が従業員になるだろうと伝えていた。ウーバーとリフトには同州に数十万人のドライバーがおり、彼ら、彼女らの雇用形態も変わることになると指摘した。

 ギグワーカーを抱える企業のコストは、今後20〜30%上昇するとみられており、同様の動きが他州に波及する可能性があるとも指摘されている。

ウーバーの配車事業67%減収、料理宅配が初めて逆転

 両社の業績は新型コロナウイルス感染拡大の影響で低迷している。

 ウーバーの4〜6月期の売上高は前年同期比29%減の22億4100万ドル(約2400億円)だった。

 このうち、配車サービスの売上高は7億9000万ドル(約840億円)で同67%減少。これに対し、料理宅配の売上高は同約2倍の12億1100万ドル(約1300億円)となり、初めて配車サービスを上回った。

 一方のリフトの4〜6月期売上高は、3億3930万ドル(約360億円)で同61%減少。

 リフトの配車サービス利用者数は同60%減の868万8000人にとどまった。同社は料理宅配サービスを手がけておらず、コロナ禍で急成長している同市場の恩恵を受けられない状況だ。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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