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アップル、中国でモバイルゲーム大量削除 激化する米中貿易摩擦が背景か

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 ロイター通信によると、米アップルはスマートフォン「iPhone」など向けのモバイルアプリ配信サービス「App Store」の中国版で、アプリを計2万9800本削除した。うちゲームは2万6000本以上に上ったという。

 中国当局は有料モバイルゲームアプリにライセンスの取得を義務付けており、未認可ゲームの取り締まりを強化している。

政府未認可アプリを禁止

 これに先立ち、英フィナンシャル・タイムズ米CNBCなどが、アップルが中国当局の認可を得ていないゲームの配信を取りやめると報じていた。これらの記事によると、アップルは7月1日付で、未認可ゲームのApp Storeへのアップロードを禁止したという。

 中国では、2016年に有料モバイルゲームアプリに認可制を導入した。これはアプリそのものを有料にしているもののほか、アプリ内課金を導入しているものも含まれる。

 この新規制に従い、華為技術(ファーウェイ)や小米(シャオミ)といった中国のスマートフォンメーカーは自社サービス内で未認可のゲームを削除した。

 ところが、どうわけか当局はアップルに寛大で、同社サービスで配信される有料ゲームには目をつぶってきたという。

 そうした中、アップルは今年2月、6月末までにライセンスが必須になると開発者に注意喚起した。そして、その期限が過ぎた今、まず、未認可有料ゲームの新規・更新のアップロードをできなくし、今回、大量削除の措置を取ったということのようだ。

中国、アップルへの規制を強化

 アップルがなぜ、2016年から長きにわたり中国の規則を免れることができたのかは誰も分からないと、フィナンシャル・タイムズは伝えている。

 そして、当局がなぜ、このタイミングでアップルに対する規制を強化したのかも定かではないという。ただ、米中貿易摩擦が激しさを増していることがその背景にあるのではないかと、専門家はみている。

 中国向けのApp Storeには7月1日時点で、約6万本の有料ゲームがあった。しかし、これまで当局から認可を得たものはそう多くはないという。

 中国当局の審査は厳しくなっており、昨年はわずか1570本しか認可されなかったと同紙は伝えている。

中国は巨大なモバイルゲーム市場

 アップルにとって中国のアプリ市場は重要だ。フィナンシャル・タイムズはモバイルアプリのマーケティング会社、米センサー・タワーのレポートを引用している。

 それによると、中国におけるApp Storeの年間売上高は164億ドル(約1兆7300億円)で、世界のどの国よりも多い。

 これに対し、米国App Storeの年間売上高は154億ドル(約1兆6300億円)。いずれの市場も多くをゲームが占めているという。

 また、ゲーム市場の調査会社であるオランダのニューズーは、中国における今年のモバイルゲーム売上高が約130億ドル(約1兆3700億円)になると推計。このうちiPhone向けゲームが53%を占めると予測している。

 アップルは先ごろ、App Storeを通じて昨年1年間(2019年)に生み出された世界の売上高合計が5190億ドル(約54兆8200億円)に上ったとする調査結果を公表した。

 この中で最も多くの金額を占めたのは、小売りや旅行、配車、料理宅配などの「商品・サービス」。そして、2番目に金額が大きかったのはゲームや音楽・動画配信、電子書籍などのカテゴリー。

 この「デジタルグッズ・サービス」カテゴリーで金額、ダウンロード件数ともに最も多いのがゲームだという。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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