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YouTubeで今も続く不適切動画の問題

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
YouTubeのスーザン・ウォジスキCEO(最高経営責任者)(写真:ロイター/アフロ)

 先ごろ米グーグルは、同社傘下の動画共有サービス「YouTube」で、不適切動画排除の取り組みを強化するため、より厳格な基準を設けると発表した

条件はさらに厳しく

 今後は、チャンネルと呼ばれる、動画投稿者のページで、過去12カ月の総視聴時間が4000時間に満たない場合、そのチャンネルの動画には広告を表示しない。

 これにより、基準に満たない投稿者には広告収入が入らなくなる。

 厳しい基準はもう1つある。チャンネルに登録している利用者の数が、1000人に満たない場合も広告を表示しない。

 これらの基準は、すでにあるすべてのチャンネルや、今後登場する新規チャンネルを対象にする。そして、この新たな措置は2月20日から実施する。

 これまでYouTubeは、総視聴回数が1万回未満のチャンネルには広告を表示しないというルールを設けていたが、新たな措置により、条件はより厳しくなる。

 グーグルの狙いは、著作権侵害などの違法な動画や、公序良俗に反する不適切な動画の投稿者が収益を得られないようにすること。広告主のYouTube離れを防ぐ狙いもある。

 しかし、健全な小規模チャンネルは、今後YouTubeで収益を得ることが難しくなるだろうと、米ザ・バージの記事は伝えている。

自殺遺体の動画に非難殺到

 YouTubeをめぐっては、今年に入って、米国の人気ユーチューバー、ローガン・ポール氏が、山梨県の青木ヶ原樹海で首つり自殺したと見られる遺体の動画を投稿し、非難の的となった。

 これを受け、同社は、動画を削除するとともに、再発防止策の一環として、ポール氏のチャンネルを「Google Preferred」の対象から外すなどの措置を講じた。

 Google Preferredとは、厳選した人気チャンネルに特化した広告商品で、通常の動画よりも高い広告料が支払われる。

 また、同社は、Google Preferredについて、人間の目でチャンネルを審査し、ガイドラインの適用を徹底することも明らかにした。

 2月中旬までに、米国のGoogle Preferred対象チャンネルと、その動画のチェックを完了し、そのほかの国でも3月下旬までに完了するとしている。

 その後同社は、ポリシーセンターに新たなページを追加。YouTubeのポリシーに反する行為への措置として、Google Preferredからの削除、チャンネルへの広告掲載の停止、おすすめ機能への掲載停止などの罰則を設けたことも明らかにした。

昨年から続く不適切動画問題

 実はこうした措置は、いっこうに解決の糸口が見えない不適切動画問題が背景にある。

 例えば、昨年11月、YouTubeとグーグル、持株会社のアルファベットは、不適切な子どもの動画を放置し、その動画に広告を掲載していたとして、非難された。

 このとき、スポーツ用品の独アディダス、コンピュータ大手の米HPインク、ドイツ銀行などの広告主が、広告掲載を取りやめたという経緯がある。

 この事態を受け、グーグルはその後、数百のアカウントを停止したほか、15万本の動画を削除し、62万5000本もの動画に対するコメントを削除した。

 しかし、それでも、自社の動画サービスを十分に監視できていなかった問題は大きいとして、同社は批判を浴びた。

 また、昨年3月には、ヘイトスピーチや過激な内容を含む動画に、大手企業の広告が掲載されていると報じられ、その動画管理・監視体制が疑問視された。

 このときは、ドイツの自動車大手アウディ、英小売大手のマークス・アンド・スペンサー、米スターバックス、米ウォルマート・ストアーズ、米ジョンソン・エンド・ジョンソン、米AT&T、米ベライゾンといった大手が広告の引き上げを表明する事態に至った、という経緯がある。

(このコラムは「JBpress」2018年1月18日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報などを加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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