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YouTube、今年2度起きた不適切動画の問題

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 YouTubeにとって、今年は苦難の年だったと言えるのかもしれない。同社に今年起きた2つの問題を振り返り、その影響力の大きさや、ビジネスの規模を、今一度確認してみたい。

アディダスやHPなどが相次ぎ広告を取りやめ

 今年11月、アップロードされた不適切な子どもの動画を放置し、しかも、その動画に広告を掲載していたとして、YouTubeと親会社のグーグル、さらに持株会社のアルファベットに対し、非難の声が上がった。

 米ウォールストリート・ジャーナル英フィナンシャル・タイムズ英ロイター通信などの報道によると、広告主となっていた企業は、YouTubeへの広告掲載を取りやめた。

 そうした企業には、スポーツ用品の独アディダス、コンピュータ大手の米HPインク、ドイツ銀行、大手飲料メーカーの英ディアジオなどがあった。

 この問題を最初に報じた英紙タイムズによると、問題となった動画には女児が映されていた。多くの場合、それらの動画は子どもが自分で撮影したもので、時折下着姿で映っている。

 この手の動画には、わいせつなコメントが多数寄せられるほか、児童虐待コンテンツへのリンクも貼られる。また、サイトには同様の動画へとユーザーを誘導するお薦め動画も掲載される。

 これを受け、YouTubeの広報担当者は当時、「我々は児童を性的対象にする動画を禁止している。そうした動画には、決して広告を掲載すべきではない。我々は緊急に問題の解決にあたっている」との声明を出した。

 だが、それでも、自社の動画サービスを十分に監視できていなかった問題は大きいとして、批判を浴びた。

3月にも企業が広告引き上げる

 YouTubeが、投稿動画の管理や監視体制をめぐって問題視されたのは今年2度目のことだった。実は、3月に起きた1度目の問題も、きっかけはタイムズ紙だ。

 このとき同紙によって、ヘイトスピーチや過激な内容を含む動画に、大手企業の広告が掲載されていると報じられたのだ。

 そして、この問題を重く見た欧州の企業や団体は、YouTubeとグーグルから広告を引き上げた。その中には、ドイツの自動車大手アウディ、英小売大手のマークス・アンド・スペンサー、英国政府などがある。

 また、この問題は米国にも飛び、スターバックス、ウォルマート・ストアーズ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、AT&T、ベライゾンといった米企業も広告の引き上げを表明する事態に至った。

 このとき、グーグルは謝罪の声明を出し、その対策を明らかにした。そのうちの1つは、総視聴回数が1万未満のチャンネルの動画には広告を表示しないというもの。アルファベット傘下のシンクタンクであるジグソー(Jigsaw)が考案した、反テロリズム動画に誘導する措置も取った。

 このほか、同社は、画像解析の精度向上や、第三者機関と協力する問題コンテンツの特定のための取り組みに50のNGO(非政府組織)を追加すること、問題のありそうな動画に警告を表示したり、コメント投稿を不可能にしたりするといった対策も行った。

YouTubeユーザーは15億人、無視できない存在に

 ただ、それら対策の具体的成果が明確に見えないまま、企業はYouTube広告に戻りつつある。当時広告を撤退したり、規模を縮小したりした企業は250社以上に上った。

 しかしロイター通信によると、10月時点でその大半が再び広告を掲載したり、広告予算を増やしたりするようになった。

 一体なぜ、そのようなことが起きるのか。

 1つの理由として、ユーザー数が全世界で15億人にも上る、そのビジネス規模があるようだ。ロイター通信によると、「ネットでは、テレビコマーシャルのようなスタイルの広告媒体への需要が高いが、供給はそれに追いついていない」という。

 こうした状況で、膨大な数の利用者を抱えるYouTubeは、企業にとって無視できない存在になっている。

(このコラムはJBpress2017年11月28日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報などを加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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