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女性15人が崩れ落ちた、金正恩「残酷ショー」の衝撃場面

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

 韓国デイリーNKは最近、北朝鮮当局が制作した、薬物犯罪の取り締まりに関する宣伝映像を入手した。

 映像のナレーションは「(薬物犯罪者は)麻薬をはやらせて朝鮮人民すべてを思想精神面だけでなく、肉体的にも変質堕落させている」と指摘。また、「わが国で社会主義の赤い旗を下ろさせようとする敵方の策動に同調する行為」だと強く批判している。

 北朝鮮でも覚せい剤や麻薬の使用は違法であり、摘発されれば刑事罰を受ける。またそれと同時に、薬物犯罪は政治的にも警戒対象になっている。ナレーションで述べられている通り、「社会主義」を破壊する「非社会主義行為」のひとつと捉えられているのだ。

 最近ではむしろ、刑事事件よりは政治的事件の側面で、重大視されている傾向も見られる。北朝鮮当局は、政治的・思想的に「問題あり」と見なされた人々を様々な形で「見せしめ」にするのを常套手段としているが、薬物犯罪もまた、そこに含められているのである。件の映像でも、逮捕者の顔写真と実名が暴露されている。

 もっとも、北朝鮮当局の行う「見せしめ」は、公開処刑や公開裁判による収容所送りなど、残忍な結果に終わるものだけではない。

 2013年には北部・両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)では、公開裁判に引き出された15人の女性らに、こんな出来事が起きた。容疑は薬物関連や人身売買など、重罰の対象となるもので、処刑されることも珍しくない。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 しかし、土壇場で奇跡が起きた。判決で、「最高指導者(金正恩氏)の寛大な措置により、再起の機会を与える」として無罪が宣告されたのだ。本人たちにとっても見守る人々にとっても、さぞや衝撃的な展開だったことだろう。

 こうした例は、金正恩政権が本格的に始動した2012年から2015年にかけて、複数あったことが韓国のNGOの調査でわかっている。

 急死に一生を得た被告とその家族が、泣き崩れたであろうことは想像に難くない。特に上述した恵山の件では、保衛部(秘密警察)が無罪となった女性らをバスに乗せ、わざわざ自宅まで送っていく「オマケ」まで付いたという。

 こうした劇場型の統治手法は、金正恩氏が好んで用いるものだ。冒頭で述べたような宣伝映像も、金正恩政権になって多く作られるようになった。もしかしたら金正恩政権になった当初、北朝鮮国民は新鮮なこのやり方から、ある程度のインパクトを受けたかもしれない。

 しかし結果的に、薬物犯罪も人身売買も韓流コンテンツの隠れた視聴などに大きな状況の変化はない。金正恩氏の演出も早々とマンネリ化してしまったのだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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