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「人間の暮らしとは言えない」北朝鮮の飢餓、首都圏も深刻

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮のホームレス「コチェビ」(デイリーNK)

軍事偵察衛星の打ち上げ失敗に汚物風船、ミサイル連射など話題に事欠かない北朝鮮だが、一方でその内情は厳しい。

北朝鮮で春から初夏にかけては、最も食糧難が深刻化する、「ポリッコゲ」(麦の峠)と呼ばれる時期だ。比較的食糧事情のいい首都・平壌周辺でも、極めて劣悪な状況になっていると、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

「江東(カンドン)郡、成川(ソンチョン)郡など平安南道の農村地域の住民の生活は、言葉で言い表せないほど本当に苦しい」

そう伝えた情報筋だが、江東郡は平壌市に含まれる地域で、その東に隣接しているのが成川郡だ。村人たちは、なんとか食べ物を確保しようと、トゥエギバッ(個人耕作地)での農作業に必死になっているが、すぐに収穫が得られるわけではない。

「山から取ってきた草に、トウモロコシの粉を一握り混ぜて作った粥で生きながらえている人がほとんどで、それすらも満足な量が得られない。農村の人々の生活を目の当たりにすれば、これが人間の生活かと思うほどだ」(情報筋)

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

最近では粥すら満足に食べられなくなり、水を飲んで腹を膨らませるほどの惨状となっているとのことだ。

農業をするに当たっては種が必要となるが、それを買うためにトンジュ(金主、ヤミ金業者)から借金をするしかなく、秋に返済すればほとんど何も残らない。また、肥料の値段も上がっている。江東郡在住の40代住民は、情報筋に次のように語った。

「山で草という草はすべて取りつくした。1グラムの食べ物も、1銭の現金もなしに暮らすのは死ぬより辛い。結局はトンジュに頼るしかない。トンジュのせいで辛い目に遭ったりして、血の涙を流したこともあったが、何一つ持たざる自分にとって、彼らの存在はありがたくすら感じるほどだ。こんなに苦労して生きて一体何をしているのだろうかと思ったりする」

また、成川郡在住の50代住民も、同様に困窮ぶりを訴えた。

「山に草が生えていなければ、家族全員が餓死していただろう。今は端午(旧暦の5月5日、今年は6月10日)の前なので、毒草はまだ生えていない。適当に草を摘んで食べればいいが、それすらも戦争のようだ。皆が一斉に草に飛びかかる。朝から晩まで草摘みをしている人もいる。傍から見れば草を食むケダモノにしか思えないかもしれない。一所懸命農作業を続ければいつかは未来が開けるとの希望を持って歯を食いしばって生きているが、実際はお先真っ暗だ」

この時期の食糧不足は毎年のことだが、今年は特にひどいという。

「頼れるのは畑仕事しかない、一生田畑を耕して生きていく人々は、トンジュから借りて空きの収穫後に返済する暮らしを続けるしかない。未来への希望より絶望のほうが大きい」

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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