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「肉体的に堕落させた」金正恩が処刑 “女性社長”の罪と罰

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

 北朝鮮は2020年1月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐ目的で、国境を封鎖し、人と物の出入りを完全に遮断した。市場で売られているものの多くが中国製で、国産品でも原材料を中国からの輸入に頼っている状況での貿易停止は、北朝鮮の人々の生活に深刻な影響を与えた。

 医薬品も不足し、「代用」として違法薬物の乱用が深刻化する状況となっていた。これに対して、当局が取り締まりに乗り出したと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 各地で反社会主義・非社会主義現象(風紀びん乱行為)の取り締まりを行っている82連合指揮部は先月、「麻薬が社会主義生活様式と思想、精神を麻痺させている」として、会寧(フェリョン)市内の朝鮮労働党の各組織、勤労団体、人民班(町内会)、各職場などに、麻薬や覚せい剤を使った者をリストアップして提出せよとの指示を下した。

 また、「麻薬とアヘン関連者を知りながら匿うことは、党の政策と路線に正面から挑戦する行為で、犯罪者どもと同じ犯罪容疑を適用して処罰する」と警告した。

 さらに、「以前に病気治療などのために麻薬を使用した経験があったり、使用を目撃したら、紙に書いて出せ」とも指示した。

 これにより、市内では23人が逮捕された。ほとんどが住民への調査や住民からの通報に基づく摘発で、18人は覚せい剤やアヘンを使用した容疑、5人は密売した容疑だ。それ以外にも、多くの住民が取り調べを受けており、逮捕者はさらに増えるものと情報筋は見ている。

 北朝鮮の刑法206条(非法アヘン栽培・麻薬製造罪)と208条(麻薬密輸、取り引き罪)の定める最高刑は死刑だ。そうでなくとも金正恩総書記は、薬物犯罪は「人々を精神的・肉体的に堕落させた反国家行為」だとして取り締まりに力を入れてきた。

 最近では、咸鏡南道(ハムギョンナムド)咸興市(ハムン)市の東興山(トンフンサン)区域に住むある女性経営者が、秘密の薬物工場を運営していたとして、金正恩氏の特命を受けた国家保衛省により処刑されている。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 今のところ、咸鏡北道での逮捕者に対する処分は下されていないが、重いものになると見られている。

 今回の取り締まりに関しては、市民から不満の声が上がっている。

「逮捕された人々はほとんどが一般住民で、幹部はやはり今回も(摘発を)免れている」

「(当局が)力のない一般住民だけを逮捕して、処罰すると脅迫しているのは情けない」(会寧市民)

 82連合指揮部が立ち上げられたのは、地域の安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)と地元住民が癒着しており、違法行為の効果的な取り締まりができないことから、地域に縁故のない人員を送り込んで摘発するためのものだった。

 しかし時が経つにつれ、82連合指揮部のワイロで骨抜きにされつつあることが伝えられている。彼らがいかにして生活を成り立たせているかについては知られていないが、充分な配給や月給が受け取れておらず、ワイロを受け取って暮らしている様子がうかがえる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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