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【2024年の鉄道】北陸新幹線敦賀延伸でめでたいはずの一年、災害で「営利」と「公共性」が問われる

小林拓矢フリーライター
春に敦賀に延伸する北陸新幹線(写真:イメージマート)

 ほんとうは、この一年の鉄道はめでたいことが続くはずだった。新型コロナ感染症が5類に移行し、多くの人が鉄道に戻ってくるはずだった。昨年の年末の帰省ラッシュでは、多くの人が鉄道に乗り、「のぞみ」が全席指定になるほど、利用者は多いという状況だった。

 そして3月16日の北陸新幹線敦賀延伸、3月23日の北大阪急行電鉄箕面萱野延伸と、明るい希望を多くの人に与えてくれるニュースが続くことが予定されていた。

 しかし1月1日、北陸地方で大きな地震が起こった。

 北大阪急行電鉄の延伸は予定通り行われるだろうが、北陸新幹線の敦賀延伸は能登半島での地震の影響を調べ、何かあった場合には早急に対応する必要がある。おそらく、近年の建築・土木の基準では頑丈にできているから問題はないと思うものの、開業にともなう祝賀ムードは相当に減じられる状況となる。

北陸の鉄道はどうなる?

 昨年の12月31日23時59分、京王電鉄京王線で事故が起こった。その影響で、1月1日になってからの終夜運転での「京王ライナー」は50分程度の遅れで運行した。ふつうは、「京王ライナー」はダイヤ乱れの際は運転を行わないものの、終夜運転の際には運転を行うという珍しい事態になった。

 新春早々不穏な、とは思った中で起こったのは、北陸地方での大地震と津波である。

 この影響で、北陸地方の鉄道は運転を停止した。地震による被害がないかを確かめた上、翌日から少しずつ運転を再開した。

地震後の北陸・上越新幹線の運行状況
地震後の北陸・上越新幹線の運行状況写真:アフロ

 だがこの原稿を執筆している現在でも、JR東日本の越後線内野~新潟大学は路盤損傷、JR西日本氷見線は能町~伏木で路盤損傷、七尾線では羽咋でホーム損傷、大糸線では頸城大野~根知駅レール損傷となっている。またのと鉄道では、穴水でのレール損傷となっている。七尾線やのと鉄道での被害は大きいことが考えられ、まだわかっていない被災状況もある。のと鉄道では穴水で停車している車両2両を仮事務所として使用しているという報道もある。また、のと鉄道には、1月9日より鉄道・運輸機構の「鉄道災害調査隊」による調査を実施予定となっている。

 ほかにも鉄道の被害はあったものの、執筆時点までには復旧している。

 正月のUターンラッシュへの対応などを考えると、大急ぎでさまざまな対応をしたということなので、鉄道関係者には深く頭を下げたいという気持ちがあふれてくる。

 だが心配なのは復旧に時間がかかりそうな路線だ。とくに、のと鉄道である。のと鉄道は、七尾~穴水間で運行だけを行う第2種鉄道事業者であり、線路の保有は第3種鉄道事業者(七尾~和倉温泉間は第1種鉄道事業者)のJR西日本が行っている。

 のと鉄道は、厳しい状況に置かれている鉄道会社だ。

 以前は、のと穴水(いまの穴水)~蛸島間の路線や、穴水~輪島間の路線も運行していたものの、沿線の過疎化や高規格の自動車道路ができたため利用者が大きく減り、七尾~穴水間の33.1kmだけの路線になってしまった。

 利用状況は決していいとはいえず、存続できるかが気がかりである。

 今回の地震で大きな被害を受けたところは、鉄道がすでになくなってしまったほど過疎化が進んだところにあり、クルマ社会の地域である。

 のと鉄道として残っているところには、早期の復旧ができるように国や石川県には全力をつくしていただきたい。鉄道を、見捨てないでほしい。

のと鉄道NT200形
のと鉄道NT200形写真:イメージマート

北陸新幹線敦賀延伸の意味付け

 ことしの日本の鉄道では、北陸新幹線敦賀延伸が慶事として予定されていた。だがこの震災で、大っぴらに喜べる状況ではなくなってしまった。

 今回の敦賀延伸により、福井エリアから東京に直結することができ、利便性は大きく向上することになった。いっぽう、石川エリアや福井エリアには敦賀での乗り換えが必須となり、大阪や名古屋方面からは不便になる。とくに名古屋からでは、東海道新幹線で名古屋~米原、「しらさぎ」で米原~敦賀、北陸新幹線で敦賀~福井・金沢ということもあるのだ。

 北陸エリアと関東圏の結びつきが強くなるいっぽうで、関西圏・名古屋圏との結びつきが弱くなるということも考えられる。北陸の人たちが関東圏に向ける意識は高まっていくだろう。

都市鉄道はどうなる?

 関西圏では、北大阪急行電鉄の箕面萱野延伸が大きなトピックとなっている。また、阪急電鉄京都線の有料座席サービス「PRiVACE(プライベース)」の導入なども注目される。

 いっぽう関東圏では、JR東日本京葉線のダイヤ改正が問題になっている。通勤快速の廃止や、ラッシュ時の全列車各駅停車化といったことが取りざたされている。

削減傾向にある京葉線の快速列車
削減傾向にある京葉線の快速列車写真:イメージマート

 鉄道の沿線によって濃淡こそあれ、コロナ感染症5類移行後にはある程度人は戻ってきた。しかし、鉄道事業者によっては、「コロナ禍前の乗車人員が戻っていない」ことを理由に、かたくなに列車の本数を増やさないところがある。列車内が窮屈であることには、結果として変わりはないという状況だ。

 詰め込むこと第一、という考えをこの際に転換してもよかったのでないだろうか? こういったサービス向上を頑として行わないという鉄道のあり方は、利用者に不満を抱かせるのに十分でないだろうか。

 その一方で、有料座席サービスや通勤向け特急への注力が進む。結局はカネか、ということになる。

リニア、災害対策……懸案多々

 リニア中央新幹線の静岡工区をめぐる有識者会議が昨年終了し、JR東海は静岡工区の着工に向けて動き出した。だが、資材価格の高騰や、静岡工区以外でも工事が遅れているという問題があり、「2027年以降」といってもかなり先になるのでは、という懸念を抱くには十分な材料がある。

 いっぽう、地震や風水害でこの国の鉄道は被災し続け、その復旧のために人手が必要だ。鉄道だけではなく、建築や土木の工事の人が足りないという状況が続いている。先手を打って災害対策ができる余裕のない鉄道事業者も多く、かつ何かあった際の対応にも時間がかかる。とくに大規模に被災した場合、復旧するかバス転換するかの議論が必ず起こる。

 今回の北陸地方の震災では、のと鉄道の被害がいまだ全容をつかめていない。「鉄道災害調査隊」も出動する。

 鉄道のような公共交通機関では、「営利」か「公共性」かという問いは常につきつけられる。近年では「営利」に傾きすぎているところがある。「公共性」の回復が重視される一年であってほしい。その中で、災害に強い鉄道になることを期待したい。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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