Yahoo!ニュース

「のぞみ」ピーク時全車指定が話題に 新幹線・特急の「指定席」「自由席」事情を考える

小林拓矢フリーライター
山陽新幹線を走るN700S「のぞみ」(写真:イメージマート)

 新幹線や特急は、お盆・年末年始・ゴールデンウィークの際には非常に混雑している。東京駅の混雑はすさまじいものがあり、多くの人が列車に乗ろうとして列をなしている。

 この夏は、新型コロナウイルス感染症が5類になってから初めての長期休暇ということもあり、新幹線で移動しようとする人が駅に殺到していた。

 その上、台風や突発的な大雨の影響もあり、駅は混雑し列車の運行も大きく混乱した。

 この夏が異常だったにせよ、コロナ禍前からピーク時の大きな駅での混雑はよく話題になっていた。筆者もそういうときに東京駅を通ることがあり、全列車満席を示す看板には驚かされた。

 東海道新幹線は「のぞみ12本ダイヤ」を導入しているものの、それでもピーク時には追いつかない状況になっている。

 困難の原因は、「自由席」だ。

「のぞみ」にも自由席がある

 東海道・山陽新幹線では、もっとも速達性が高いのは「のぞみ」である。なお山陽新幹線では九州新幹線直通の「みずほ」も同等とする。

「のぞみ」は16両編成のうち1号車から3号車までが、自由席である。なお「みずほ」は8両編成のうち1号車から3号車が自由席となっている。

 自由席は短時間の乗車でもいいという人や、新幹線の定期券を持っている人などが使用する。名古屋から京都といった短い区間で使用する人のためのものである。また、長く乗ろうとする人は、始発駅に並び、座席を確保して座るものである。

 ふだんはこれで問題はない。

 しかしピーク時には、そんなことをやっていては駅や車内も混雑し、人でごった返すことになる。

 自由席に座ろうと多くの人が並び、当然ながら始発駅でも座れない人が出てくる。

「のぞみ」が運行されるようになった当初、全車指定席だった。このころの「のぞみ」はごく限られた時間帯の速達型特急だった。ところが「のぞみ」の本数はどんどん増えていった。2003年10月には自由席が設定されることになった。

初期の「のぞみ」に使用された300系
初期の「のぞみ」に使用された300系写真:イメージマート

 その後、ピーク時には自由席に多くの人が殺到することになる。そういう場合は指定席も満席だ。その状況を改善するために、JR東海とJR西日本は、ピーク時の「のぞみ」を全車指定席にする。これで提供される指定席は1列車あたり約2割増えるという。駅の混雑も解消し、列車の定時運行にもつながるとのことだ。

「のぞみ」のようにランクの高い列車に、自由席があるというのに違和感を抱く人もいるかもしれない。しかし、「のぞみ」が高頻度の運転をする中で、ふつうのサービスを提供することもまた必要な状況になっているのが現実である。

 新幹線や特急における「指定席」「自由席」について考えてみよう。

「特急券」と「自由席特急券」

 新幹線や特急に乗るには、指定席なら「特急券」、自由席なら「自由席特急券」が必要だ。このことから、新幹線や特急は「指定席」が基本となっていることがわかる。

 いまでは定期運行はされていないものの、急行の「急行券」は自由席が前提であり、指定席に乗るには「指定席券」を追加で買わなくてはならなかった。

 本来、新幹線や特急は特別な列車で、指定席が基本だった。かつては主要な幹線にしか走っていなかった。ところが時代が変わり、特急が大衆化した。新幹線も当たり前の乗りものになった。

 昔の新幹線や特急を見てみよう。東海道新幹線開業前の1964年9月の時刻表によると、特急は全車指定席、急行は指定席も自由席もあるという状態だった。翌10月の時刻表では、新幹線は超特急「ひかり」と特急「こだま」で、指定席だ。

 当時の急行は、指定席は1等車中心であり、自由席の2等車が多く連結されていた。東京~西鹿児島間を日豊本線経由で走る急行「高千穂」にも、自由席が連結され、途中駅間の利用が多かったと思われる。

 しかし特急にも自由席が導入されるようになる。1967年10月ダイヤ改正の時刻表では、新幹線「こだま」以外でも在来線特急で自由席を設ける例が出ている。大規模ダイヤ改正となった1968年10月の時刻表でも同程度である。対北海道連絡の東北本線特急「はつかり」のような重要な列車は、全車指定席だった。

 大きく変わったのは1972年10月のダイヤ改正からである。高頻度の特急を増やし、「エル特急」と名付け、自由席を増やした。このころから特急の大衆化が進むようになる。やがて特急は急行を駆逐していった。

高頻度運転の「特急」は「エル特急」と呼ぶことになった
高頻度運転の「特急」は「エル特急」と呼ぶことになった写真:イメージマート

 国鉄がJRに移行するころになると、多くの地方路線で短編成・短距離の特急が運行されるようになり、かつての急行と同様の役割を果たすようになる。座席を予約しなくても問題がないほどの運行本数となる。普通車自由席だけの特急も見られるようになる。

「特急」は、特別なものではなくなった。

JR四国の特急は短編成・高頻度が特徴だ
JR四国の特急は短編成・高頻度が特徴だ写真:イメージマート

指定席列車の大衆化

 いっぽう近年、混雑が激しい新幹線や特急では、座りたいという考えの乗客も増えてきた。「指定席券売機」が多くの駅に備えられ、やがてはネット予約が可能になる中で、指定席の特急が大衆化することになる。

 その流れの中心となっているのがJR東日本だ。東北方面の新幹線「はやぶさ」「こまち」「つばさ」は全車指定、北陸方面の「かがやき」もそうである。在来線特急では「ひたち」「あずさ」「かいじ」などが全車指定席に、「踊り子」「湘南」も近年は全車指定となった。私鉄特急のように、着席が保証されていることがサービスであるかのような考えである。もちろん、車内での自由席特急券販売の手間を惜しむということもあるだろう。

中央東線の特急は全車指定席だ
中央東線の特急は全車指定席だ写真:イメージマート

 以前ならば急行の自由席に乗るような距離でも、特急の指定席を求める人が多くなったのが現実である。そして全車指定席になるような特急は、ふだんから混雑している列車ばかりである。混雑のない快適なサービスを提供するというのが、全席指定席への回帰の理由ともいえる。

 東海道・山陽新幹線「のぞみ」のピーク時指定席化は、駅や車内の混乱を避けるため、JR東日本の新幹線や特急がやっていることと理由は近いと考えていい。ピーク時でも立っていてもいいなら自由席特急券でも乗れるとのことだが、これは新幹線用の定期券を持っている人の措置だといえる。

 いっぽう、以前から大手私鉄の有料特急は全車指定となっている。私鉄有料特急は長距離を走るわけではないので、「座れる」ということがサービスであると考えていい。

 もっとも、JRの在来線特急も以前ほど長距離を走るわけではなくなってきた。しかし、全車指定にするほど混雑していない列車だと考えるのが妥当かもしれない。そのあたり、新幹線でも停車駅の多い列車は同様なのだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事