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ことしも発売決定「青春18きっぷ」 登場から41年、課題と今後は?

小林拓矢フリーライター
ローカル線の利用は、「青春18きっぷ」での何よりの楽しみであるものの……(写真:イメージマート)

 国鉄がJRになり、JR各社もそれぞれ独自色を出していく中で、変わらないものもいまだにある。それが、「青春18きっぷ」である。

 いっぱんに、「青春18きっぷ」は春休み・夏休み・冬休みの時期の普通列車乗り放題きっぷという認識となっている。この「普通列車乗り放題」が5日分というのが、多くの利用者の心をつかみ、ロングセラー商品となっている。

国鉄時代からの「青春18きっぷ」

 JR各社で運賃や料金の体系が異なり、乗り放題きっぷなどのトクトクきっぷがさまざまに変わっていく、正直なところ削減されていく中で、「青春18きっぷ」は残り続けている。

 それも、国鉄時代から存続していたものが、いまでも続いているということには驚くしかないといえる。

 登場は1982年。「青春18のびのびきっぷ」という名称だった。当時は、1日券3枚と2日券1枚。1日券が4枚になったこともある。1983年春からは「青春18きっぷ」という名称になる。1984年夏には1日券が5枚、価格は1万円と、現在の形に近くなる。

 このころ、各地には長距離の普通列車が運行されていた。いまでは信じられないかもしれないが、客車による普通列車も多く、また夜行の普通列車も存在した。そういった列車の利用を促進するという目的もあった。

 国鉄がJRになって、各社独自のサービスを追求するようになっても、「青春18きっぷ」は残り続けていた。マルスでの取り扱いも行われるようになる。

 大きな変化としては、1996年春から5枚つづりだったものが、5回分を1枚の券にまとめるようになったことがある。複数人で使用する場合に面倒になっている。一説には、金券ショップでのばら売りに対抗するためと言われている。

「青春18きっぷ」はこの形態を守りつつも、価格は上昇し続け、現在では12,050円となっている。

 ただ、この40年近くで2割しか上がっていないというのも、驚きである。

「青春18きっぷ」は、ほかのトクトクきっぷが消えた今でも、多くの人に支持され続けて残っている。

 現在、この「青春18きっぷ」には、どのような課題があるだろうか?

利用可能路線、長距離普通列車の消滅

 国鉄からJRという日本の鉄道史上もっとも大きな変化のあとも、JRは変化し続けた。とくに、「青春18きっぷ」が利用可能な在来線は、大きく変わっていった。

 整備新幹線が開業することにより、並行在来線が第三セクター化、それにともない利用できる路線が減っていったのだ。

 通過利用に限って「青春18きっぷ」を使用できる区間がないわけではないのだが、他線区から孤立したJR在来線がある場合に限ってのことなので、例外的と言うしかない。

 旧東北本線、旧信越本線や旧北陸本線それぞれのかなりの部分が「青春18きっぷ」の対象外となり、長距離移動に利用可能な路線がどんどん消えていった。

 長距離を「青春18きっぷ」で移動したくても、できないエリアも増えている。「青春18きっぷ」は、値段はそれほど上がっていなくても、利用できる路線が減っているという事態になっている。

 今後、北陸新幹線の敦賀開業や、北海道新幹線の札幌開業で、利用できる区間は減っていくだろう。

 北海道新幹線の札幌開業にあたっては、「山線」と呼ばれる函館本線の長万部~小樽間の廃線が決まっており、いっぽうで函館~長万部間も存廃をどうするかの議論が行われている状況である。

 相次ぐ廃線も課題だ。国鉄末期からJR初期にかけて、多くの路線が廃線になった。それゆえ、乗車可能な路線も減っている。以前は複雑な路線網を駆使していろいろと回ることができたが、現在はそれが難しくなりつつある。

 その一方で、幹線の長距離普通列車がどんどん短区間・短編成になっていき、ロングシートを利用しなければならない状態になっている。ゆったりと鈍行列車の旅を、という利用法が困難になり、つねに接続を意識して効率よく移動しなければならない現状もある。

幹線でもロングシートの普通列車は多い
幹線でもロングシートの普通列車は多い写真:イメージマート

 当然ながら、夜行の普通列車はもうない。「青春18のびのびきっぷ」時代にはあった夜行の普通列車どころか、座席指定の臨時快速列車も「ムーンライトながら」の運行終了で消えた。

 こういった状況があり、「青春18きっぷ」は以前ほど使い勝手のいいものではなくなっている。

 今後、「青春18きっぷ」に何が望まれるのだろうか?

「青春18きっぷ」の今後は?

「青春18きっぷ」は、たびたび廃止説が流れている。国鉄時代から続いていた乗り放題きっぷの「ナイスミディパス」はすでになく、「フルムーン夫婦グリーンパス」は2022年度には販売されず、今後の販売もないだろう。そういった流れの中で、「青春18きっぷ」はなくなるのでは? と考える人がいるのは自然なことである。しかしそのお得さから売れ続けているので、発売終了ということはないだろう。

 コロナ禍で鉄道の利用者が減少している中でも、販売を中止するということもなかった。

 いっぽう、JR東日本にある普通列車の自由席グリーン車での使用が(グリーン券さえあれば)可能になっていたり、JR西日本の「Aシート」での利用も可能になっていたりする状況で、都市圏をまたいだ長距離の移動には便利なものになっている。

 多くの利用者に支持されて人気がある、というのが「青春18きっぷ」が存続し続ける最大の理由になっている。

 ただ、「青春18きっぷ」が置かれた状況は厳しい。利用できる路線が減り、災害で不通の路線もある(代行バスは利用できるが)。ロングシートが普通列車の主流となり、長距離を乗り続けるのが苦痛となる路線もある。近年は普通列車の本数も削減されている。その中で値段を大きく上げられるかというのも、また無理である。

 マイナスの要素が多い中、普通列車をより利用しやすく、快適にすることでしか「青春18きっぷ」は支持し続けられるようにならないのではないか、と考える。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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