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“ファーストクラス”目指したはずの新幹線「グランクラス」 リニューアルで高級路線はどうなる?

小林拓矢フリーライター
グランクラスの連結された北海道新幹線H5系(写真:イメージマート)

 東京から北へ向かう、フル規格の新幹線にのみ連結される最上級座席「グランクラス」。2011年3月にE5系の導入とともに営業が開始され、北海道新幹線新函館北斗開業の際には車両も増備された(H5系)。北陸新幹線開業時にはE7系(とW7系)にも導入された。

 グランクラスは、上等な座席だけではなく、充実した軽食とアルコールを含む飲料が無料で提供されるということで、航空機のファーストクラスのようなサービスが売りとなっている。新聞などの車内サービスもある。

 一両にたった18席。アテンダントは2人。開始時は上質なサービスを大々的にアピールしていた。

 もちろん、グリーン車よりも高い。東京から新函館北斗まで、指定席なら23,230円(新幹線eチケット、ほかも同じ)。グリーン車は32,100円。グランクラスは、40,480円。

 これだけの価格差があることで、サービスの充実の正当性を示してきた。

鉄道博物館で展示されているグランクラスのモックアップ(筆者撮影)
鉄道博物館で展示されているグランクラスのモックアップ(筆者撮影)

高くても充実したサービスがあった

 グランクラスで軽食や飲料のサービスを充実させるというのは、飛行機のファーストクラスのようなサービスを提供したかったと考えられる。

 2019年3月までは、洋軽食と和軽食を選択することができたが、現在では選択できなくなっている。ワインなどの提供もあり、それが好評を得ていた。茶菓子のサービスもある。

 しかし、グランクラスが連結されていても軽食・飲料サービスのない列車が短距離の「なすの」など以外にも増えていき、サービスは縮小していった。上越新幹線の「とき」にE7系が導入されたときには、座席のみのサービスとなった。

 コロナ禍も影響した。一時期は感染拡大防止のため、飲食サービスがある列車は「グランクラス」の営業自体を停止してしまった。コロナ前でも50%の乗車率だったものが、コロナ禍になってからさらに下がったことは容易に想像できる。

 コロナ禍の前から利用率の低迷や、食品ロスの発生などある種の損失が課題になっていた。そんな中で高くても充実したサービスを提供することには、どうしても矛盾が生じてくる。

苦悩が感じられるグランクラスの「リニューアル」

 8月26日、JR東日本はグランクラスの軽食・飲料サービスを10月にリニューアルすると発表した。路線別での軽食を全路線共通の「リフレッシュメント」(軽いお食事)とし、生食方式から冷食方式へと変更した。これにより廃棄数削減にとりくむ。「SDGs」(持続可能な開発目標)に基づいた食品ロス削減を目標にするという。茶菓子サービスもリクエストがあった場合のみの提供となる。

 専任アテンダントの乗務体制も2人から1人に減らすとのことだ。さらに一部列車で発売座席数を12席までとしていた制限を終了する。

 正直、発表を聞いて「厳しい」と感じるほかなかった。

 どんなサービスならよかったのだろうか?

水準を落とすべきではなかった

 グランクラスは、JR東日本の最上級のサービスとして、鳴り物入りで登場した。ただそのサービスは、リニューアルのたびに縮小していく。富裕層向けのサービス、あるいはお金を出して快適さを手に入れる客向けのサービスだったのなら、軽食・飲料つきのグランクラスのサービスは落とすべきではなかっただろう。むしろ、そのぶん値段を上乗せするべきだった。軽食・飲料つきグランクラスとそのサービスのないグランクラスとでは、2,000円程度の差しかないのだ。

 むしろグランクラスは、ハイクオリティなサービスを提供する空間として、もっとサービスを向上させてもよかったはずだ。新幹線のイメージアップには最適のサービスである。みんながあこがれるようなサービスにするためには、値上げも当然のことながら必要になる。

グランクラスはどうすべきなのか?

 グランクラスはJR東日本のイメージリーダーになるべきだった。だがそれは難しいことがわかった。理由として、値上げがしにくい事情がある。

 新幹線の場合、途中駅で乗車する客がいる。つまり、飛行機のように、飛び立って水平に飛ぶようになったら、いっせいに機内サービスを展開するということができない。新函館北斗から東京までのグランクラスには、盛岡や仙台から乗ってくる客もいるのだ。当然、その人たちにも食事や茶菓子などを提供する必要がある。いっぽうで、食品ロスを見過ごすわけにはいかない。こうした事情から、充実した高級サービスは提供しにくい。

 中途半端な軽食・飲料のサービスなら、いっそやめてしまうべきである。その代わり、車内販売で以前のようにコーヒーや駅弁、茶菓子などを提供し、車内販売のアテンダントがほかの車両だけではなく、これまでアテンダントにお願いして呼んでもらわないと来なかったグランクラスにも来るようにする。

 コロナ禍という現状から是非はあるものの、グランクラスで提供しているような高級なお酒を車内販売で提供し、しかるべき対価を得るのは問題ないのではないか。コーヒーやジュースなら現状でも問題はない。JR東海の東海道新幹線のような充実した車内販売こそが必要だ。

 グランクラスは、上等な座席のサービスだけで十分である。

 食事サービスに関しては、各駅の駅弁にまかせれば十分だ。駅弁業者はどこも厳しく、グランクラスの軽食サービスと共食いさせる必要もない。しかも東京駅には全国の駅弁を集めた駅弁屋「祭」もある。そこでグランクラスに乗るような層に売れるような高くておいしい駅弁を駅弁業者が開発するのでも問題はない。多くの主要駅で充実したエキナカがあるではないか。お酒のエキナカ店舗もある。

 乗客にとって必要なのは、心地のいい空間と座席であり、飲み放題のお酒ではないと考える。飲食等のサービスを鉄道が過去は別払いで提供してきた以上、それで問題はない。

 このあたりの高級サービスは、鉄道特有の事情もあり、飛行機をまねしようとしても実現はそう簡単ではないだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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