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京王線で「一部座席指定列車」導入へ 未来のライバル「中央線グリーン車」に対抗できるのか?

小林拓矢フリーライター
ロング・クロス切り替えで幅広く使用される京王5000系(写真:イメージマート)

 京王電鉄は「京王ライナー」をさらに強化するため、もう1編成5000系を新造し投入しようとしている。すでに5000系は6編成が投入され、特急などの運用に加え、一部では都営新宿線乗り入れにも使用されている。新しく投入される編成の、ロング・クロス転換型の座席では初めてリクライニングシートが導入される。京王はこの5000系を続々と投入する計画だが、「一部車両のみの座席指定列車」の話も出てきた。どうなるのだろう?

一部指定の前例はある

 一部のみ座席指定という列車は、前例がある。東急電鉄の「Qシート」である。東急電鉄大井町線では、2018年12月から平日の急行長津田行きの一部列車に、「Qシート」という座席指定車両を連結している。1日9本運行され、ゆったりと帰宅したい人には好評となっている。

 二子玉川まで乗車専用、溝の口・鷺沼は降車専用、その先はフリー乗降区間だ。

 現在の「京王ライナー」は、夕・夜間帯の列車は新宿と明大前で乗車、京王線は府中、相模原線は京王永山まで座席指定券(チケットレスサービスもある)がないと乗車できない区間となっている。朝の列車は、京王線は府中までの主要駅、相模原線は京王永山までの主要駅で乗車専用となっており、降車は明大前と新宿でできる。

 ただし「京王ライナー」は、全車指定である。

 いっぽう、京王電鉄の現状を見ると、一部車両のみの座席指定というのもありなのではないか、ということも考えられる。

新宿発着特急の混雑

 京王電鉄では、必ず混雑する列車種別は決まっている。「特急」である。この春のダイヤ改正前なら、「準特急」も同様に混雑していた。朝ラッシュ時上りなら「急行」が混雑する。どの列車種別も、目的地にもっとも速くつくからだ。

 新宿発の「特急」には、つねに多くの人が乗ろうとして並んでいる。並ばないと座れないという状態が、よほどの閑散時間帯以外に多く見られる。

 いっぽう、新宿発・新宿着いずれの列車にしても、混雑する車両は決まっている。6号車から9号車である。これらの車両は、改札フロアに上がるための階段やエスカレーターに近い。それゆえに多くの人がこれらの車両に殺到する。

京王線新宿駅は構造上、一部車両に人が集まりやすい(京王電鉄ホームページより)
京王線新宿駅は構造上、一部車両に人が集まりやすい(京王電鉄ホームページより)

 実のところ、階段から離れた1号車あたりまで行ってみると、多くの時間帯では座ることができる。混雑時間帯でも、ちょっと並べば座れるというのが現実である。なお、ここにも小さな改札はあるものの、こちらを利用する人が少ない。

 ただ、新宿発着の特急は、ふだんから混雑が目立ち、並ばないと座れない、多くの乗客が乗車していて窮屈だという現状は、確かにある。

どの車両が一部座席指定になるのか?

 気になるのは、どの車両が一部座席指定になるのか、ということである。東急電鉄「Qシート」は、3号車が座席指定車両になっている。大井町駅は行き止まり式のホームである頭端式ホームとなっており、ホームの先に改札があるようになっている。当然ながら、改札に近い車両ほど混雑するようになっている。しかし、もっとも改札に近い車両(1号車)を座席指定にすると、ひんしゅくを買う。いっぽう、遠すぎる車両を座席指定にするのも、やはり反発がある。3号車というのはそのあたりが妥当なのだろう。

 では京王の一部座席指定車両はどうするのか。まず、改札階へのホームやエスカレーターに近い6号車から9号車は、階段に近く、多くの人が利用する。10号車は、時間帯によっては女性専用車両である。

 となると、4号車か2号車ということになる。新宿駅でのメインの改札へのアクセスを考えると4号車が妥当なとこだろう。この車両の座席数は45席である。

なぜ着席サービス?

 京王電鉄は、「京王ライナー」に加え、一部座席指定の着席サービスを導入し、快適な乗車環境を提供することに力を入れている。

 京王線のライバル路線はJR東日本中央線であり、こちらは通勤向け特急「はちおうじ」「おうめ」が運行され、「あずさ」「かいじ」の区間利用もある。加えて、快速列車にグリーン車を導入する計画が進んでいる。それに対抗する切り札として「京王ライナー」が導入された。

 現在、中央線の「はちおうじ」「おうめ」の本数は減少気味、中央線快速グリーン車の導入計画は遅れに遅れている。そんな中で、京王は着実に「京王ライナー」のサービスを伸ばしてきた。中央線特急に比べると割安で、気軽なサービスが多くの人に喜ばれているのだろう。また、下車駅が多く設定されているというのもポイントだ。

 そういうのもあって、さらに着席サービスを強化しようとしている。

 では、どの駅までの利用が着席サービスとなるのか?

 新宿からならば、「京王ライナー」と同様に新宿と明大前で乗車、府中もしくは京王永山から下車となる。ただ、京王電鉄の利用状況を見ると、新宿~調布間に乗客が集中するようになっている。調布を利用可能な駅に含めるかどうかも気になる。

 京王電鉄の「一部座席指定列車」は、遅れている中央線快速のグリーン車への対抗上、有効な切り札となるかどうか、楽しみである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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