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東京メトロ、有楽町線と南北線が延伸へ 方針をくつがえした理由とは?

小林拓矢フリーライター
東京メトロ南北線に使用される9000系(写真:イメージマート)

 東京メトロは、2008年の副都心線開通後、新線を作らないという方針を出していた。既存の路線の運行に専念し、安定した経営基盤を築くことが必要であるからだ。

 その後、東京の鉄道網と、東京メトロをめぐる環境は大きく変わっていった。新しい鉄道の必要性も、訴えられるようになった。

 2016年の交通政策審議会答申第198号「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」において、「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として、「東京8号線(有楽町線)の延伸」と、「都心部・品川地下鉄構想の新設」が整備対象とする路線として挙げられた。この答申を受けた2021年の東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会答申「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」では、有楽町線延伸と品川への南北線延伸が「早期の事業化を図るべき」とされた。

 これらを受けて、東京メトロは1月28日、新線の鉄道事業許可を申請した。

東京メトロが計画する新線の路線図(東京メトロプレスリリースより)
東京メトロが計画する新線の路線図(東京メトロプレスリリースより)

答申に見える東京メトロが新線を建設する理由

 これまで東京メトロは新線の建設を行わないという方針だったものの、それをくつがえした。理由は、答申「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等について」に記してある。

 今回、東京メトロが鉄道事業許可を申請した2路線に関しては、「東京メトロのネットワークとの関連性があり、運賃水準や乗換利便性など利用者サービスの観点や整備段階での技術的な観点からも、東京メトロに対して事業主体としての役割を求めることが適切である」としている。

 いっぽう、建設にあたっては、「十分な公的支援が必要」とし、「類似事例に適用実績がある地下高速鉄道整備事業費補助や独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構による都市鉄道融資の活用が適切である」と公費での支援も打ち出した。この答申には、株式売却のことも記されている。

 要するに、東京メトロのネットワークと接続するのが適切な路線網であり、そのためには工事の公費負担も行うということで、東京メトロが新線を建設し、運営することになったのだ。

 この2路線に求められているものとは何か。

地下鉄の延伸は何のためなのか?

 まず、有楽町線の豊洲から住吉までの延伸についてである。答申では、「国際競争力強化の拠点である臨海副都心と都区部東部の観光拠点や東京圏東部・北部地域とのアクセス利便性の向上」と、「京葉線及び東西線の混雑の緩和」を挙げている。この答申が出た2016年時点は、4年後に東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えていた。

 いっぽう、臨海副都心エリアは交通アクセスが弱く、とくに東京東側の南北の移動は大江戸線を除けばバスが中心となっている。その状況を打開するために、臨海副都心エリアと東京圏東部・北部とのアクセスが重要になってくる。

 このあたりを、東京メトロのプレスリリースでは、「有楽町線延伸(豊洲・住吉間)の沿線地域である豊洲周辺を含む臨海地域は、国と東京都により、特定都市再生緊急整備地域や国際戦略総合特区のアジアヘッドクォーター特区に位置づけられ、近年多くの再開発が進展しています」としたうえで、「本路線は、臨海地域と都区部東部の観光拠点等とのアクセス利便性の向上や地域のまちづくりの面での効果が期待されるとともに、東西線の混雑緩和にも寄与します」と設定の理由を示している。

 そういった背景から、有楽町線は延伸されることになった。

 なお、豊洲の駅構内はすでに、手戻りがないように延伸に向けたスペースや設備を整えてある。

有楽町線から新線が延伸される豊洲駅
有楽町線から新線が延伸される豊洲駅写真:イメージマート

 では、南北線の品川延伸は何のためか? 白金高輪の駅をともに使用する都営地下鉄(都営三田線)でないのは、前述の東京メトロがふさわしいという理由だろう。

 やはり同じ答申によると、「六本木等の都心部とリニア中央新幹線の始発駅となる品川駅や国際競争力強化の拠点である同駅周辺地区とのアクセス利便性の向上」とある。南北線の沿線には、六本木や赤坂、そして永田町などの東京の中心部があり、それらのエリアと東海道新幹線の接続駅であり、羽田空港へのアクセス路線でもある京急電鉄へも乗り換えができる品川との接続が可能になる。そして品川は、2027年開業は困難でもいずれ開業することが予定されているリニア中央新幹線の起点となる。

 東京メトロのプレスリリースでも、「南北線延伸(品川・白金高輪間)の周辺地域である品川駅周辺は、リニア中央新幹線の整備を契機に、東京と国内外の広域的な交通結節点として期待され、新たな国際競争力強化の拠点として、多様な機能が集積する再開発エリアであります」と品川駅付近の将来性を期待した上で、「本路線は、品川駅で山手線、東海道線等のJR 東日本主要幹線、羽田空港に連絡する京急線、東海道新幹線と接続し、六本木・赤坂等との都心部のアクセス利便性向上等に寄与します」と品川の結節点に接続することの意義を示している。

新線開業で拠点性が高まる品川駅
新線開業で拠点性が高まる品川駅写真:イメージマート

メトロが弱いエリアへの参入

 東京メトロはこれらの路線を建設することで、地下鉄ネットワークを充実させ、東京の国際競争力の強化に貢献したいとしている。近年出された答申が、新線建設に冷たかった東京メトロに新線建設への意欲をかきたてさせるようにした。

 また東京東部の南北移動や、品川駅周辺などはこれまで東京メトロが対象としていなかったところである。南北移動は都営バスが主力、東西線や京葉線の混雑もコロナ禍終了後戻るだろう。その状況を打開するには新線しかない。品川駅周辺は、泉岳寺を介して都営地下鉄と結びつきがあるのみで、交通の結節点でありながら東京メトロは関与してこられなかったエリアだ。こういった東京メトロが弱いエリアに、これまでの答申を背景に、かつ資金援助も受けられるということで参入することになった。

 東京メトロ空白地域が、これで解消されるのだ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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