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JR東など特急料金に「最繁忙期」設定 価格調整で混雑は減るのか、利用者にメリットはあるのか?

小林拓矢フリーライター
北陸新幹線はJR東日本とJR西日本にまたがって運行される(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

 JRの特急料金には、「繁忙期」「通常期」「閑散期」と3つのシーズンが定められている。「通常期」の特急料金を基準に、「繁忙期」はプラス200円、「閑散期」はマイナス200円となっている。JR北海道やJR九州の在来線特急列車にはこの価格設定はない。JR東日本の一部の特急列車は、1年を通して特急料金は同額である。この3段階の価格設定は新幹線などが中心となっており、JR東海・JR西日本・JR四国では新幹線や在来線特急に採用されている。

「繁忙期」「通常期」「閑散期」の設定自体は国鉄時代からあるもので、混雑する時期の特急料金を高くするということは行われているものの、これにより「繁忙期」の混雑が緩和されるということはなく、現在に至っている。

 なぜJR東日本などは、4段階の特急料金の価格設定を行ったのか?

ピークシフトをめざすために「最繁忙期」を設定

 JR東日本は、「最繁忙期」を設け、価格を上げることで利用者の抑制をねらい、利用日をピーク期間の前後にずらしてもらうということを考えている。「最繁忙期」「繁忙期」の前後に、あえて「閑散期」を設けるようにもする。

「最繁忙期」の特急料金は、「通常期」に比べてプラス400円。「閑散期」と比較すると、600円の差がある。

特急料金の設定は細かくなる(JR東日本プレスリリースより)
特急料金の設定は細かくなる(JR東日本プレスリリースより)

 この価格設定は、JR東日本だけではなく、JR東日本エリアに直通するJR西日本の北陸新幹線と、JR北海道の北海道新幹線にも適用される。ピーク前後に利用日をずらすと、比較的特急料金が安くなるということになる。

ほかのJRは?

『朝日新聞デジタル』の10月5日付報道によると、JR九州は新幹線の特急料金は来春の料金改定には間に合わないとしている。またJR東海は、各社同様の内容で進めるべき内容ではないとしている。

 やっかいなのはJR西日本だ。北陸新幹線についてはJR東日本と歩調を合わせなければならない一方で、山陽新幹線は東海道新幹線や九州新幹線と足並みをそろえなくてはならない。同じ会社でありながら、異なる特急料金の体系を導入することになるのだ。

 シーズン設定も面倒なことになる。2022年からの4シーズン制は、JR東日本が主導していることであり、JRすべてが従うものではない。すでに在来線特急については、JR北海道やJR九州はシーズンの設定がない。

 このままでは、JR東日本を中心とした4シーズン制と、JR東海を中心とした3シーズン制が分立し、JR西日本は同じ会社で複数のシーズンを扱うことになる。

山陽新幹線は東海道新幹線と歩調を合わせる
山陽新幹線は東海道新幹線と歩調を合わせる写真:イメージマート

価格調整メカニズムは成功するのか?

 そもそも今回の「最繁忙期」設定は、利用者にとってメリットはあるのか。8月のお盆など、「最繁忙期」の時期にしか長期の休みが取れない人も多く、その時期はコロナ禍前は混雑していた。「繁忙期」「閑散期」の 200 円上下の差だけでは価格調整メカニズムを機能させることは不可能であり、その時期には臨時列車を多く運行させていた。

 いっぽう、JR東日本の在来線では、中央本線の「あずさ」や常磐線の「ひたち」など、本数と利用者の多い特急では通年同額、しかもチケットレスでの割引も年間を通じて行っている。今回の「最繁忙期」設定が適用される「つがる」「いなほ」「しらゆき」は、新幹線からの乗り継ぎを対象とした、比較的本数の少ない特急である。そもそもふだんから利用者は少ない。利用の多い新幹線の制度を改めることで、利用の少ない特急列車が制度を改めさせられ、主要在来線特急でこの制度が適用されないということで、いささか場当たり感が否めないものとなっている。同じJR東日本として、特急料金をどうするのかの価値観が統一されていないという状況になる。

いっぽうでJR東日本には通年同額の特急列車もある
いっぽうでJR東日本には通年同額の特急列車もある写真:KUZUHA/イメージマート

 ピーク時の利用者を緩和することで、保有車両の削減を目指すという考えも報じられているものの、ある程度の車両を保有していないと何かあった際に対応ができないということは、2019年10月の台風19号での長野新幹線車両センター被災でも経験したことではないか。この際のE7系・W7系の被災により、E4系Maxの引退が遅れることになった。

 むしろ、ある程度の本数があることを前提にして、閑散期に車両を検査できるようにすることのほうが大事なのではないか。

閑散期の利用者拡大をどうするのか?

 JR東日本としては、増収を狙うのではなくピークシフトをめざすという考えである。ただ、メディアなどで言われているほど人々の働き方は多様ではなく、コロナ禍がまだ終わらない現状でも通勤ラッシュは激しくなっている。閑散期の利用者拡大については、「えきねっと」で買える「トクだ値」を充実させればいいだけのことであり、こちらのほうがよほど価格調整メカニズムに寄与しているといえる。またピークシフトも促進できる。

 今回の「最繁忙期」設定は乗客にはメリットはない。コロナ禍が完全に終わる前のいまでさえどこかに出かけたいという人は多くおり、「GoToトラベル」もまたやろうという話も出ているくらいである。「閑散期」に出かけられる人はもうその時期に出かけている。「最繁忙期」を設定しても、その時期にしか出かけられない人は多い。社会的慣習というものは強固である。施策としてはあまり意味がなく、ほかのJRと歩調が合わないということで混乱の一因にもなるのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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