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JR東日本「えきねっと」のリニューアルはなぜ不評なのか? 他JRに学ぶべき点

小林拓矢フリーライター
チケットレスサービスは便利ではあるものの、注意点も多い(写真:haru_sz/イメージマート)

 JR東日本の指定席予約サイト「えきねっと」。従来から「わかりにくい」「使いにくい」という評価があった。

 なぜ、使いにくかったのか。ログイン画面の複雑さや、情報の一覧性などに問題があったとされている。

 今回の「えきねっと」リニューアルでは、申込時の支払いが可能になったことや、デザインの統一などが図られた。

 このリニューアルで、「えきねっと」への従来からの不満は解消されるのか、ということが気になっていた。

利用者がほんとうに求めていたものとは?

 今回のリニューアルでは、クレジットカード以外でもコンビニなどで支払うことができることがメインになっている。これまでは、登録してあったクレジットカードを使って、きっぷを受け取る際に支払いをする仕組みだった。

 カードがなくても予約できるように、という要望に応えた形だろう。

 すでにJR西日本の予約サイト「e5489」では、コンビニ決済などに対応している。それにあわせて、ということだろう。

 だが肝心の予約システムそのものの使いやすさ、という点ではいまいちうまくいっていないのだ。

 さまざまな形態の予約が、同時に表示されるのだ。

 たとえば新幹線を予約してみよう。東京駅から新潟駅へと予約してみると、チケットレスの「新幹線eチケット」と「紙のきっぷ」の両方が表示される。ここで、まずつまずく。「新幹線eチケット」のほうが、「紙のきっぷ」よりも安いということをどれだけの人が知っているのだろうか。しかし、この「新幹線eチケット」は、東京駅以外から乗車の場合、東京都区内でも都区内から東京駅までの運賃を別途支払わなくてはいけない。もっとも交通系ICカードで決済しているので、いくらなのかは気にしないのだが。

 いっぽう、「紙のきっぷ」を選んで予約しても、別の意味でつまずく。指定席の金額のみが表示され、スクロールしてから「乗車券の申し込み」が現れる。その際に「乗車券を申込まない(お持ちのICカード/乗車券を利用する)」というのも表示されるのだが、東京駅から新潟駅までは交通系ICカードで運賃を決済することはできない。エリアまたぎの交通系ICカード利用はできないからだ。

 さらに複雑なのが、新幹線と在来線特急を乗り継ぐときである。

 東京駅から酒田駅に行くとしよう。上越新幹線は同じ列車でも、2階建て車両の場合は別々に表示される。そして「新幹線eチケット」と「紙のきっぷ」の両方が現れる。この場合、「紙のきっぷ」を選んで乗継割引を適用し、運賃を通しで支払うというのが正解である。

 知らないと適切に使えないのだ。

 さらに面倒なこともある。東京駅から青森駅に向かうとき、新青森駅で在来線に乗り換える。また東京駅から函館駅に向かうとき、新函館北斗駅で在来線に乗り換える。この際、在来線では交通系ICカードが使えない。全線で「紙のきっぷ」にしたほうがスムーズであるといえる。新幹線を「新幹線eチケット」を使ってチケットレスで乗ったとしても、乗り換えの際に再度短区間の乗車券を買う必要がある。

 ただ、2023年春以降、青森エリアではSuicaを導入する計画がある。

 現在の「紙のきっぷ」のシステムと、新しいチケットレスサービスのシステムの両方をわかっていないと、使えないシステムなのだ。

割り切ったJR東海の「エクスプレス予約」

 JR東海は、新幹線のみのネット予約システム「エクスプレス予約」(ここでは「スマートEX」も含む)を開発し、JR西日本の山陽新幹線でも使えるようにし、2022年春にはJR九州の新幹線でも対応するようにした。

 このシステムでは、新幹線のみの予約に特化することで使いやすさを実現した。もちろん、東京から高山や紀伊勝浦に向かう場合、名古屋で乗り換えて乗り継ぎ割引を使うというのがベストではあるものの、JR東海の考え方として、有人駅では窓口を置いて指定席を販売できる体制を整えているというのがある。また、JR東海では在来線予約のシステムを「e5489」で利用できるようになっている。

「エクスプレス予約」では、「新幹線eチケット」と同じように、新幹線の運賃と料金を一体化した金額を提示してくる。それだけのサービスである。

 新幹線を利用することに特化したのが「エクスプレス予約」で、多くの人から「使いやすい」と言われている。

 これに比較すると、JR東日本の「えきねっと」は「使いにくい」と言われるのも仕方がないことである。この使いにくさは、多くの人から改善が求められているにもかかわらず、結果としては解消されなかった。鉄道の知識がない人は使いにくく、指定席券売機のほうがきっぷを買いやすいという状況は変わらなかった。

 在来線も状況は改善していない。

チケットレス対応かどうかを知らないと使えない在来線予約

 たとえば新宿駅から甲府駅まで特急で行くとしよう。指定席で「割引なし」と「チケットレス割引」というのが出る。なぜ「チケットレス割引」というのがあるかといえば、新宿から甲府までは同じSuicaのエリアであり、交通系ICカードと組み合わせてチケットレスで乗車することができるからだ。

 あるいは上野駅から仙台駅まで常磐線経由で行くとする。

 ここでも「チケットレス割引」が出てきてSuicaと組み合わせたくなる。しかし、東京圏と仙台圏では別々のSuicaエリアとなっており、両エリアをまたげない。となるとチケットレスでも別に紙の乗車券を買わなくてはならない。

 この場合、エリアまたぎの交通系ICカード利用がケースによっては可能かどうかが焦点となる。

 JR西日本の「e5489」の「eチケットレス特急券」では、営業キロを200超えたり、エリアをまたいだりするような場合でも、大阪近郊区間と特急停車駅の組み合わせや、「やくも」の停車駅相互など、長距離でも利用できるようにしている。この場合、運賃は交通系ICカードから引き去る。

 JR東日本「えきねっと」の「使いにくい」と多くの人に指摘されるところは、鉄道の運賃・料金のシステムそのものに由来するところで、予約システムだけを変えても「使いにくい」と多くの人が考えるところはまったく変わらなかったといえる。

 それどころか、予約のシステムそのものは駅の窓口の人がマルスを操作するのとそれほど変わらないままだった。そここそリニューアルすべきではなかったか。また「えきねっと」の外側にある交通系ICカードサービスも改善が必要だ。

 もし一般の人が「えきねっと」を利用する場合、「えきねっと」のスマホアプリで予約できる「新幹線eチケット」や、「チケットレス割引」(同一Suicaエリアに限る)のみにしたほうが、妥当なのではないか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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