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JR西日本、10月に減量ダイヤ改正 コロナ禍終了後も低迷続くと判断

小林拓矢フリーライター
越美北線を走行するキハ120形(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 異例のダイヤ改正を、JR西日本は10月に行うことになった。ふつう、JRのダイヤ改正は全社あわせて3月に行うものである。ところがJR西日本だけ、春改正に続きこの秋にダイヤ改正を行う。どんな改正なのか。

利用状況の悪い時間帯を減便

 JR西日本は、2022年の春に全エリアで各時間帯の利用状況に合わせたダイヤ見直しを行う予定であった。人口減少や、地域によっては過疎化が進行する中、鉄道の利用者が減り、それに合わせた企業活動へと変化させていかなければならないことは課題となっていた。

 その傾向が昨年からのコロナ禍によりいっそう強まった。在来線特急の利用者はコロナ禍前の2015年度に比して約3割、在来線の普通列車は6割から7割と、大きく減った。山陽新幹線も同様だ。

 ワクチン接種が進むことによって厳しい状況から回復していくことをJR西日本は期待しているものの、コロナ禍前の水準には戻らないとも考えている。

 2019年4月と比較しても、大阪駅・京都駅・三ノ宮駅といった主要駅では昼間はマイナス37%、夜間・深夜はマイナス59%と、大幅に減少している。

 JR西日本は、この状況に危機感を抱き、ダイヤを間引くという形での改正を行う。

 すでに在来線特急は、2月から定期列車の運転休止や、臨時列車化を行っている。コロナ禍前に比べて45%しか運行されていない状況だ。

 またこの春のダイヤ改正で、深夜時間帯などを中心に、約300本の列車ダイヤを見直した。

 それでもJR西日本の経営状態は悪化していく。さらに減らすしかない。どこをどのように減らすのか。

JR西日本本社
JR西日本本社写真:アフロ

昼間時間帯を中心に約130本削減

 利用率の減少が著しい昼間の時間帯を中心に、列車本数と利用状況の乖離が著しい130本を見直す。

 近畿エリアでは60本を見直す予定だ。琵琶湖線の米原~長浜間は、新快速の一部を米原発着にするといった形となるのだろう。JR京都線の高槻~京都間は、各駅停車の列車をこの区間で運転を取りやめ、高槻~京都間の快速(この区間は各駅に停車)を利用してもらうということになる。JR神戸線の須磨~西明石間は、列車の本数を純粋に減らす。山陽本線の姫路~上郡間は、網干までの列車を姫路で打ち切る。またあわせて赤穂線の相生~播州赤穂間は、姫路~播州赤穂間の列車本数を削減する。大和路線の奈良~加茂間は、加茂発の列車を一部奈良発とするのだろう。関西本線の亀山~加茂間の列車と連絡していない列車を削減すると考えられる。このあたりは筆者の予測であるが、削減するとしても影響が出ない範囲となるとそうなるというものだ。

JR京都線の普通列車
JR京都線の普通列車写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 やっかいなのは、その他のエリアだ。

 北陸エリアでは小浜線と越美北線。ここは本来、どう見ても削減しようがない。北近畿エリアの山陰線は、そもそも本数が少ない。南紀エリアのきのくに線や和歌山線も同様だ。とくにきのくに線は、紀伊田辺~新宮間の本数が少ないため、比較的本数の多い和歌山~湯浅間の削減となることが予想できる。和歌山線は粉河~和歌山間の区間列車が減ると思われる。瀬戸内エリアの山陽線や瀬戸大橋線、山陰エリアの山陰線・伯備線・因美線・境線は、山陽線を除き昼間の普通列車が多いわけではない。

 さてどうするか。詳細は7月に公表されるとしているものの、地域によってはこのことで大きな衝撃を受けているところがある。福井県だ。

どうなる小浜線と越美北線

 このダイヤ改正について厳しく書いているのが『福井新聞』だ。JR西日本はこのダイヤ改正の発表前に福井県と敦賀市などの6市町に減便を打診していると同紙5月19日号には記してある。同紙によると、敦賀~小浜間の30本中14本と小浜~東舞鶴間の26本中15本だという。昼間時間帯を中心にと報じられているものの、その他の時間帯でも削減しないと列車の間隔が大きく開くことになる。

 翌日20日の同紙には越美北線の減便についても記されていた。福井~越前大野間の18本中12本、越前大野~九頭竜湖の全9本だという。越美北線に関しては、福井県や福井市・大野市は運行本数の維持を要請するとのことだ。

 となると、小浜線は大きく削減、越美北線も同様であるだけではなく、一部区間は運行を休止するということになる。国鉄時代の士幌線糠平~十勝三股のようにタクシーによる代行輸送のようなパターンも想定される。昨年廃止された札沼線のように、末端区間が一日1往復という状況すら認められないということになる。

 当然のことながら地元の反発は強い。地元では越美北線をなんとかしようと運動してきた人たちがいる。

 コロナでの利用状況を見て、とはいうものの、越美北線の平均通過人員は2019年度で1日あたり399人と少なく、もともと収益性自体は高い路線ではなかった。

 もちろん、この通過人員なら、長期的には路線をなくすということもあるだろう。しかし地元との協議もほとんどなく、他路線の列車ダイヤ見直しに合わせていきなり減らすというのは問題も大きいのではないだろうか。ある程度の地元との合意ができないと、こういったことは困難だ。

 もちろん、JR西日本の危機意識はわかる。路線によっては列車本数の削減にスジが通っているであろうところも多くある。また、来年3月には全エリアでダイヤ見直しをするというのも経営状況の中でしかたがないといえる。

 コロナ禍終了後も利用者は戻らないというのも想定の範囲内であり、コロナ禍がなかなか終わらないというのもありうることである。

 ただ、地域によっては最低限の利用さえできなくなるという減量ダイヤ改正は、一部見直す必要があるのではないか。もうこれ以上減らしようのないところに手を加えると、利用者が本当にいなくなってしまう。

※JR神戸線の須磨~西明石間について、指摘を受けましたので修正しました。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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