Yahoo!ニュース

廃線や鉄道事業の廃止が次々と決まるJR 地域のシンボル「鉄道」は守られるのか

小林拓矢フリーライター
廃線続くJR北海道の本社。地域のシンボル鉄道を守れるか(写真:田村翔/アフロ)

 2015年1月、高波により路線に大きな被害を受け、運転を休止していたJR北海道の日高線鵡川~様似間。距離はおよそ116kmにおよび、日高地方の全体をカバーする鉄道となっていた。その区間には代行バスが走り、住民は復旧を待っていた。

 しかし、JR北海道は経営難であり、利用者の少ない路線を廃止するしかない状況に追い込まれている。日高線の同区間は、その路線として指定されていた。

日高線廃線を推し進めた政治の構造

 12日に行われた沿線7町長の臨時町長会議では、バス転換に向けて各町がJR北海道と個別協議をすることになった。採決は多数決で行われ、浦河町長が反対、その他の町長は賛成ということになった。全会一致は時間がかかるため、多数決で結論を出すことは仕方のない面もある。

 7町はバス路線の確保や充実、駅周辺の再整備などについてJR北海道とそれぞれ協議し、すべての町と合意ができた時点で日高線の廃止を行うという手続きとなる。

 なぜ、浦河町の池田拓町長は反対したのか。『北海道新聞』11月11日朝刊苫小牧地方面のインタビューで、「全線復旧を求める考えは変わりません。二酸化炭素排出量の削減やインバウンドを含む観光誘客を考えると、鉄路の重要性は今以上に高まっていくはずです」と町長は考えを示していた。JR北海道のバス転換の方針については、「そもそも30年前の国鉄分割民営化の時からJR北海道の経営は厳しいと言われていました。経営安定基金を設け、運用益で赤字の穴埋めをするはずが、国の低金利政策で運用益が減少しました。その時点で政治が基金積み増しなどの対応を取るべきでした。政治の間違いは政治の場で正し、公共交通という国民全体の財産を維持していくべきです」と問題点を指摘、露骨な言い方をすれば、国の無策で北海道のローカル線は見殺しにされた、という考えもできる主張である。

 確かに、JR三島会社(北海道、四国、九州)は経営が厳しいことが予想され、そのために経営安定基金でなんとか経営を補助せよ、というのが当初の方針だった。しかし、バブル崩壊以降の緊縮政策や、安倍政権による金融緩和、すなわち低金利政策により、公共投資は行われず、元本さえも取り崩してやりくりしないとならない状況になってきた。

 日高線では新車が導入されたものの、軽量・低コストの車両だったために老朽化が激しく、もっと古い車両を再登板しないといけないという状況に追い込まれていた。

 そこに高波被害。地域の「シンボル」たる鉄路は、断たれた。

 この間、地域では日高線復旧に向けた市民の動きが多く見られ、国の責任を問う声も聞かれた。だが、政治はそれに答えようとはせず、JR北海道と各自治体の協議に任せるほかなかった。さらに夕張線の一部廃線を行った鈴木直道夕張市長が北海道知事になったため、それもこの動きを後押しするようになった。

 新ひだか町の大野克之町長は、『北海道新聞』11月13日朝刊苫小牧地方面で、「日高線が何か物を運ぶ物流網だったら違っただろう。現実を見据えるとどうしようもなかった」と述べている。

 日高線に沿うように高規格の道路が延伸し続け、物流の中心がそちらに移行している。日高線を走っていた貨物列車はない。道路網の発展が、人の輸送手段としてのみの鉄道となり、現在ではその人も、代替バスで十分運べる人数だ。さらには高速バスで札幌と直結するようになった。そういった構造変動が、日高線の復旧を不可能にしてしまった。

 しかしその高速バスも、状況は厳しい。日高町内陸部と札幌とを結ぶ「高速ひだか号」(道南バス)は、12月20日の運行で廃止する方針となった。理由は運転手不足だという。また、「高速ひだか号」の乗客も少ないという。なおこのバスは1日1往復だ。今後は路線バスで沿岸部まで出て浦河町と札幌とを結ぶ「高速ペガサス号」を利用しなくてはならない。

BRT「駅」としての存続をと陸前高田市

 12日には宮城・岩手エリアの気仙沼線・大船渡線の一部を鉄道事業廃止するとJR東日本が国土交通大臣に届け出た。2020年11月13日に廃止となる。

 気仙沼線の柳津~気仙沼間、大船渡線の気仙沼~盛は東日本大震災で大きな被害を受け、BRT(バス高速輸送システム)として運行を再開した。鉄道による復旧の話はあったものの、時間と費用がかかることからBRTを選んだ。なお、山田線のように鉄路による復旧をめざした区間もあり、復旧後その区間は三陸鉄道リアス線として運行されるようになった。

 JR東日本がBRTとして運行することで、路線は鉄道路線と同じ扱いになり、時刻表にも鉄道路線として掲載され、駅も鉄道の駅と同じように扱われている。

 2020年春には気仙沼線BRTで1駅、大船渡線BRTで4駅開業することになっており、全国とつながる地域の足として利便性を高めていく、はずだった。

 しかし、この区間を鉄道事業廃止とすることで、先行きが気がかりだ。

 BRTは道路運送法により運行しており、鉄道事業廃止による運行・サービス水準の変更はない、とJR東日本は発表している。

 しかし、『河北新報』11月13日朝刊によると、気仙沼市はJR東日本に対し「遠い将来における気仙沼線の鉄路での復活の可能性を残すこと」をBRT受け入れの際に求めているという。また、陸前高田市はBRT継続だけではなく鉄道運賃の維持や時刻表に「駅」として存続させることを求めていると同紙。

 鉄路での復活は困難であっても、運賃の維持や時刻表上でのこれまで通りの路線や駅の記載というのは、地域の「シンボル」としての鉄道の存在感をなくしたくないという意志の表明である。

地域のシンボル鉄道はなぜ守られないのか

 鉄道は、この国の人たちにとっては単なる乗り物ではなく、地域のシンボルであり、地域と地域を結ぶ象徴のようなものである。経営が厳しく、廃線が課題になると、廃止反対の運動が起こってくる。日高線沿線では住民を中心に廃止反対の運動も以前から起こっていた。

 単純に経済効率だけなら、バスにしましょう、バスの本数も増やしましょう、大都会へは高速バスで行きましょう、ということになる。物流は高規格道路で、というのも自然な流れだ。

 しかし鉄道は長年にわたって地域の中心となってきた存在であり、シンボルとして根付いてきた。だからこそ今のように、災害だから廃線はしょうがない、という議論にはならないのである。またバスも人手不足という問題を抱えている。バス運転手は大型二種免許が必要であり、かんたんに免許が取得できるわけではなく、一方で鉄道の運転手のように組織的に養成するシステムが整っている状況ではない。BRTの導入も、明るい話というわけではない。

 鉄道は多くの人が夢を抱いて移動するために乗るものであり、一方で中島みゆき「ファイト!」で歌われたように、閉鎖的な地方から脱出できない象徴としてきっぷのにじみが描かれ、「ホームにて」では帰れないということが歌われた。

 それだけ、多くの人にとっては身体性に刻み込まれた「シンボル」であり、単純に経済効率の問題だけにはなりえないのである。

 国レベルの問題については「シンボル」の重要性を訴える議論をする人たちは、地域の「シンボル」については「しょうがない」としてしまう。そのことに矛盾はないのだろうか。

 地図上に、時刻表上に鉄路として、駅として記される地域は、そのことによって存在感を示せるのである。というのが、陸前高田市が主張したことの意味だ。

 現実には、鉄道が廃止になる地域は人口が少なくなり、多くの人が流出し――職を求めてか、中島みゆき「ファイト!」で描かれた世界があるためかはわからないが――、衰退傾向にあるのも事実だ。しかし、「シンボル」としての鉄道さえなくせば、地域はますます衰退する。一方、鉄道をなくすまで地方を衰退させてきた政治の責任もまた、問われることになるのである。さらに、バスさえも利用が少ない地域にしてしまったということは、もはや構造的な解決は見いだせない状況となっているということだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事