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JR東日本のダイヤ改正に沿線住民が反発 改善策はどこに?

小林拓矢フリーライター
3月のダイヤ改正で中央東線を去るE257系(ペイレスイメージズ/アフロ)

 3月16日、中央東線(東京・新宿~塩尻・松本)の特急がダイヤ改正で大きく変わる。その中で「あずさ回数券」の廃止や、チケットレスサービスの開始、特急の停車駅削減と、山梨県・長野県の沿線住民は戸惑っている。

起こる「ダイヤ改正反対」の動き

 山梨県の石和温泉駅周辺では、「あずさ」が停車しなくなることを受け、「峡東3市市民の会」が駅周辺にのぼり旗を設置し、「ダイヤ改悪絶対反対」を訴えている。

 また、甲州市・山梨市・笛吹市は、昨年12月20日にあずさの現行停車駅を維持するように、JR東日本に要望書を提出した。山梨県も19日に要望書を提出、ダイヤ改正への懸念を示す。

 長野県側の動きはここに来て大きく目立つ。岡谷市・諏訪市・諏訪広域連合などはJR東日本長野支社を訪れ、ダイヤ改正見送りを求める要望書を提出した。阿部守一知事は1月11日の定例記者会見で、「東京都内区間の複々線化など抜本的な部分に取り組むことなしに停車駅数が減らされてスピードアップするというのは、我々の期待する方向ではない」と語っている(『日本経済新聞』1月12日朝刊長野経済面)。

 JR東日本側の論理としては、首都圏と諏訪・松本エリアを結ぶ時間を短縮し、停車駅のパターンを整理するためだと考えられる。だが地元としては、地域観光に取り組んだり、利便性をアピールして移住者を増やしたりしていた意味がなくなってしまったということになるとのことだ。

JRの考えと地元の考えの食い違い

 JR東日本としては、特急の途中停車駅を削減することで、新型車両E353系導入にともなうスピードアップの効果を最大限に発揮させたかったという意図が感じられる。また、都市部の鉄道と同じく、小駅からは普通列車に乗り、特急停車駅で特急に乗り換えるという「緩急接続」(優等列車と各駅停車の接続)型のダイヤにしたいという意図もあるだろう。

 一方で地元は、特急を停車させることでマイカーを使い駅へアクセスする人の利便性を図ったり、移住志望者へのアピールをしたりと、「特急停車」の意義を強調する。山梨県や長野県では、特急で遠くにでも出かけない限り、鉄道には乗らないという人もいるのだ。その意味では、地方では「緩急接続」の考えは根付いていないのかもしれない。東京圏の私鉄のような2面4線タイプのホームは山梨県や長野県のJR駅では見られず、2面3線の駅本屋のホームと島式ホームのいわゆる「国鉄型配線」の駅が多く、完全な「緩急接続」にするのも難しい、ともいえる。

 また、今回のダイヤ改正を機に、「あずさ」と「かいじ」の停車駅を分け、それぞれの列車の目的を明確にしたいという意図がJR東日本にはあった。「あずさ」は甲府以西・長野県から新宿をめざす特急として、「かいじ」は甲府以東から新宿をめざす特急として、それぞれ乗客を分離したい、という考えがあることは確かだ。

 ただし現実としては、停車駅が少なく、スピードも速い「あずさ」に甲府周辺の人たちの人気も集まり、このエリアでは「かいじ」は停車駅の多い「格下の特急」という扱いを受けている。山梨県峡東地域の反発は、地元に「格下の特急」しか停車しないなんて、という考えがあるから、ともいえるだろう。ただし、時間帯と停車駅によっては「あずさ」が便利なときもある。

どうすべきだったのか?

 一方で、今回のダイヤ改正で不便になった駅も多いことは確かだ。3月16日のダイヤ改正をくつがえすことはもはや難しいものの、埼京線と相鉄線直通により12月に想定されているJR東日本のダイヤ改正では、今回の特急ダイヤの見直しを行うことも必要である。そのときのために、沿線自治体などはダイヤ改善のための要請を今後も続けていくことが求められている。ちょうど山梨県知事選も行われており、政策課題として候補者がこのことについて選挙演説でふれてもいいだろう。

 たとえば、「かいじ」が走行されない時間帯、というのが生まれている。下りでは、新宿発19時30分以降、22時00分発まで「かいじ」は走らず、この間2時間30分は大月・塩山・山梨市・石和温泉に停車する特急はない。東京によく行く山梨県人は多くおり、その人たちの利便性を損ねる側面があることは確かだ。

 20時00分、21時00分は「あずさ」の発車時刻であり、救済措置として20時30分もしくは21時30分に新宿を発車する特急を走らせるべきだろう。なお、この時間帯は新しいダイヤでは「はちおうじ」が走ることになっている。そのダイヤを甲府まで延長すればいいのだ。

 また、「あずさ」は基本的に毎時00分発ではあるものの、ピーク時には30分発の「あずさ」も走っている。その発車時刻の「あずさ」は、基本的には山梨県内峡東地域にも停車している。また、21時00分発の「あずさ」は現在のダイヤでは峡東地域に停車している。もし「遠近分離」を図るべくこういった30分発の「あずさ」の停車駅を削減するのなら、新宿発45分あたりに救済の「かいじ」を走らせるべきである。

 長野県内の停車駅については、停車パターンを減らしわかりやすくしたという考えがJRにはあるはずだが、車両性能の向上を時間短縮につなげるのではなく、むしろ同じ走行時間で多く停車できるようにすべきではあった。これまでは振り子特急E351系と一般特急E257系、新車E353系とさまざまな車両が走っていたものの、3月のダイヤ改正ですべてがE353系に統一され、性能がそろうことになる。

 そんな場合、列車の性能向上を駅間での加減速性能のために利用し、すべての特急停車駅に停車するという考えもあってもよかったのではないか。特急停車駅が固定されている路線というのもJRにはあり、わかりやすいパターンダイヤをめざすのも一つの考えとして必要だったのではないか。

「あずさ」の場合、最速列車として停車駅の少ない列車が閑散時間帯に走行される。今回のダイヤ改正で設定された列車では途中駅は八王子・甲府・茅野にのみ停車する。おそらく、「速い列車」というのをアピールするためのものだろう。

 だが利便性の面を考えると、こういった列車は必要がない。新車に統一したことによる車両の性能向上を、見た目だけの速達化に役立てるよりもむしろ、乗客サービスに利用したほうがいいのではないか。

 そして速達化のネックは、阿部守一長野県知事が言うように、中央線の通勤電車が走っている区間であり、ここでスピードアップできないことが中央線特急の遅さにつながっている。

 それでもまだ「あずさ」「かいじ」は、現行でも十分なスピードを保っている。通勤電車区間の遅さを取り戻そうと精一杯の走りを見せている。新車の導入を機に、単なるスピードアップを行うのではなく、地域住民のための利便性を向上させてほしい。数字だけのスピードアップのために利用者や沿線住民を犠牲にしてはならない。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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