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国交省が400億円支援 JR北海道の経営改善は可能なのか

小林拓矢フリーライター
北海道を走る気動車。ローカル輸送の担い手である。(ペイレスイメージズ/アフロ)

 国土交通省は27日、営業赤字が続くJR北海道に対して、2019年度から400億円超の経営支援をするとともに、経営を監視する監督命令を出すと発表した。すでに2016年度から、鉄道建設・運輸施設整備支援機構による経営支援が行われており、安全対策費として1,200億円が貸しつけられた。

 JR北海道は長期の支援を求めており、2031年度の経営自立を目指そうとしているものの、再建が計画通り行かない場合も想定して2年間となった。

国交省による経営改善案

 国交省は、「JR北海道の経営改善に向けた取組」の中で、非鉄道部門を含めた収益最大化、新千歳空港アクセスの競争力強化、観光列車の充実、旅客列車の利便性向上とコスト削減などを提言している。

 一方で鉄道よりも他の交通手段が適している線区――要するに利用者の少ない線区――については、新たなサービスへの転換――具体的には、バス転換――を促している。利用が少ないながらも鉄道を持続的に維持していかなくてはならない線区については、利用促進やコスト削減に取り組むという。

JR北海道の経営改善について(国土交通省ホームページより)
JR北海道の経営改善について(国土交通省ホームページより)

 また具体的な支援としては、鉄道を維持しなくてはならない線区への車両や設備への投資・修繕の支援、貨物列車運行線区への設備投資・修繕支援、青函トンネル維持管理の支援、経営基盤の強化のための設備投資支援を行うという。2019年度から20年度にかけて、400億円台の支援があるとのことだ。

 それ以降に関しては、国の支援を継続するため、法案を国会に提出することを検討している。

 この取組を進めるために、国交省は監督命令を出した。経営改善への取組を着実に進めるようにとのことだ。

 だが経営改善案は、JR北海道が置かれた経営の厳しさを認めたものでしかない。

厳しい環境に置かれたJR北海道

 7月22日づけ『朝日新聞』朝刊によると、利用者が少なくて赤字の5路線5区間をJR北海道は廃止する方針を固めたという。公式には発表はないが、国交省の経営支援策を受け入れる中で、廃止もやむをえないという路線である。夕張線の新夕張~夕張間は、すでに2019年4月1日の廃止が決まっている。札沼線の北海道医療大学~新十津川間は、地元自治体首長が廃線容認を表明し、また浦臼~新十津川間が1日1往復しかない状況にあり、廃線になってもおかしくはない状況になっている。留萌本線深川~留萌間は、1日の利用者数188人/キロという路線であり、乗客の少なさが路線維持への課題になっている。

 一方で日高本線の鵡川~様似間は、もともと利用者が少なかっただけではなく、2015年の高波で土砂が流出、復旧を断念している。根室本線の富良野~新得間は、2016年の台風10号豪雨災害により被災、東鹿越~上落合信号場(石勝線との合流地点)はいまだに復旧できていない。復旧工事には10億5000万円かかるものの、公的資金投入の場合、持続的に路線を維持することが求められる。

 これらの被災路線は、もともと利用者が少なかっただけではなく、被災して復旧が困難という事情も抱えている。

 それゆえに、廃止という意向が出ている、という見方ができる。

 ただでさえJR北海道は厳しい環境に置かれている。冬の雪の対策や、整備に力を入れられなかったことによる事故の多発などが長い間問題になっている。車両も不足し、一部では特急列車運行系統の見直しも行われた。

 その中で災害による路線の寸断などがあり、JR北海道だけで対処するのは困難となっている。JR北海道は北海道や国に対し支援を求め続けている。関連事業で経営状況を改善させようと一生懸命であるものの、カバーできていない。

背景にある北海道自体の厳しさ

 JR北海道が厳しい状況に置かれているのは、北海道そのものの置かれた状況が厳しいというのが、最大の理由である。北海道自体が厳しいのに、その中におけるJR北海道が厳しくないということはありえない。

 ことし(2018年)は北海道拓殖銀行破綻から20年である。それ以来、北海道経済は低迷を続けている。ニトリやツルハホールディングスといった、全国規模の企業になって利益を上げているところはあるものの、道内経済は低迷している。

 2015年10月に北海道が発表した「北海道人口ビジョン」によると、北海道では1997年をピークに人口が減少し続け、日本全体よりも早く人口減少が始まったという。生産年齢人口は1995年以降減少し、年少人口は1955年以降減少、一方で高齢者人口は増加し、年少人口と逆転している。高齢者人口が増加し、年少人口が減少しているというのは、日本全体の傾向ではあるものの、衰退している地域の特徴である。

 死亡数も出生数を逆転し、人口の自然減が続いている。合計特殊出生率も全国平均より低く、下から3番目である。出生率が高いのは、第一次産業が盛んであり、3世帯同居の割合が高いところばかりである。そういったところの多くは、鉄道がない。

 若年者失業率も全国平均より高い。そんな中で道外への人口流出が進み、北海道で転入の多いエリアは札幌圏だけであり、他のエリアでは人口流出が続いている。

 こういった人口減の状況の中で、JR北海道は札幌圏に力を入れるしか生き残る道はない一方、他の路線もインフラとして維持させなくてはならない。線路を公的機関が管理し、運行をJR北海道が行うという、上下分離方式の可能性も出ている。

 本来ならば、国が北海道全体の振興策に力を入れ、その中でJR北海道をどう位置づけるかを考え、北海道経済を回復させる中での重要なインフラにしていかなくてはならないのだが、その考えはおそらく国にはないだろう。

「試される大地」というキャッチフレーズが、以前は北海道では使われていた。しかし現実には「試されすぎた大地」であり、相次ぐ天災もあり、北海道自体が疲弊している。「『試される大地』と言われたくない」と北海道出身者から言われたこともある。

 北海道自体の置かれた厳しさに対する支援がない限り、JR北海道の置かれた状況は解決しないだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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