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Don’t Do It 企業スローガンを変えて人種差別撤廃を呼びかけるナイキをアディダスがサポート

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
ナイキのキャンペーンに起用されたコリン・キャパニック(三尾圭撮影)

 Just Do It.

 1988年にナイキが生み出したスローガンは、世界で最も有名な企業スローガンの1つとなり、多くのアスリートに勇気を与えてきた。

 このスローガンを作ったダン・ウィーデンは、死刑囚のゲリー・ギルモアの最期の一言からヒントを得たと明かしている。

 死刑制度を中止していたアメリカで、自ら死刑を望み、1977年に銃殺刑を執行されたギルモアが撃たれる前に呟いた言葉が「Let's do it(さあ、やろうぜ)」だった。

筆者が撮影した写真をもとに広告代理店のワイデン+ケネディ社が作成した「Just Do It」の標語を含んだナイキの広告
筆者が撮影した写真をもとに広告代理店のワイデン+ケネディ社が作成した「Just Do It」の標語を含んだナイキの広告

 ナイキはこの有名なフレーズを『Don't Do It』に変更して、人種差別問題に真剣に向き合うように呼びかけている。

For once, Don't Do It.(今度こそは止めよう)

Don't pretend there's not a problem in America.(アメリカには問題がないと偽るのは止めよう)

Don't turn your back on racism.(人種差別に背を向けるのは止めよう)

Don't accept innocent lives being taken from us.(罪のない人たちの命が奪われることを甘受するのは止めよう)

Don't make any more excuses.(言い訳するのももう止めよう)

Don't think this doesn't affect you.(この問題は自分には影響がないと考えるもの止めよう)

Don't sit back and be silent.(傍観して、黙っているのは止めよう)

Don't think you can't be part of the change.(世の中を変える一員になれないと思うのも止めよう)

Let's all be part of the change.(皆で世の中を変えていこう)

出典:NIKE(日本語訳は筆者)

 ナイキにとって「Just Do It」のフレーズは、「単なるコピーではなく、ナイキの哲学を体現するもの」だと秋元征紘ナイキジャパン元代表取締役社長は語っている。秋元氏がナイキジャパンの社長に就任したときに、「JUST DO IT.にも、何か日本語コピーを併用しようと考えていた」が、アメリカから来た部下に猛反対された。その部下は創業者のフィル・ナイトに相談して、秋元氏は本社があるオレゴン州までナイトに呼び出されて、「絶対に翻訳するな」と厳命された。

「いかなるアスリートにとっても、最初の一歩を踏み出すことは決してやさしいことじゃない。実際に行動に移る、その小さな勇気こそJUST DO IT.なんだ。その勇気を持つ人々を、そしてそうなりたいと思う人々を、応援しサポートしていくのがわれわれの仕事なんだ」。

この言葉を聞いて、すごく感動しました。「JUST DO IT.」は単なるコピーではなく、ナイキの哲学を体現するものだと知り、これはたしかに翻訳はできないと納得しました。

出典:ナイキの有名コピー「JUST DO IT.」の真実 元ナイキジャパン社長が語る創業者の信念

 ナイキがそこまで強いこだわりを持つ「Just Do It」のスローガンを変えたのは、現在のアメリカ社会を揺るがしている問題がナイキにとっても見過ごすことができないものだからだろう。

 ナイキがスポンサーとなっている多くのアスリートたちは声を挙げている。

 

 2018年には「Just Do It」30周年記念キャンペーンにコリン・キャパニックを起用。ドアップにしたキャパニックの顔の上に、『Believe in something. Even if it means sacrificing everything.(何かを信じろ。たとえそれで全てを犠牲にするとしても)』とのメッセージを加えた。

 人種差別に反対する姿勢を貫き、NFLでプレーするチャンスを取り上げられたキャパニックを大型キャンペーンの顔に起用したナイキは、保守派から叩かれ、大炎上。不買運動も起きて、株価も大きく下がった。ドナルド・トランプ大統領も「テレビ視聴率が大きく下がっているNFL同様に、ナイキも怒りとボイコットで殺されかけている」とツイート。

 しかし、テニスのセリーナ・ウィリアムズやNBAのレブロン・ジェームズらがナイキの姿勢をサポートして、ナイキのキャンペーンはアメリカを分断する議論に発展した。

 ナイキのような大企業が政治問題や人種問題に足を踏み入れるのは大きなリスクを伴うが、傍観して黙っているのを止めて、アメリカを変える一歩を踏み出す姿勢を明らかにした。

 このナイキの姿勢には、最大のライバル会社であるアディダスも賛同。

 Together is how we move forward.(力を合わせて、前へ進んで行く)

 Together is how we make change.(力を合わせて、世の中を変えて行く)

 とのツイートで、ナイキ公式ツイートをリツイートしている。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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