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那須川天心RISEラストマッチ、対戦相手に選ばれた風音とはどんな格闘家なのか?

清野茂樹実況アナウンサー
チームメイトでありながら対戦する那須川天心と風音(写真:東京スポーツ/アフロ)

那須川天心にとってのホームリング、RISEでの最後の試合が、いよいよ4月2日に近づいてきた。格闘技界を席巻してきた“神童”については改めて説明するまでもないが、対戦相手の風音(かざね)については知らない人は多いと思う。那須川とは同じジムに所属しながら、土壇場で対戦のチャンスを手に入れた格闘家はいったいどんな道を辿ってきたのか。その経歴と実績について紹介したい。

一枚のDVDが転機となる

1998年に京都府宇治市で生まれ育った風音は、格闘技好きの父に命じられて3歳から空手道場に通った。K-1 MAXの影響で中学からキックボクシングを始めると、山本“KID”徳郁に憧れて早くからプロを目指す。デビューは高校1年のとき、いきなりDEEP☆KICKのフレッシュマントーナメントで優勝を飾った。そんな駆け出しの格闘家に訪れた最初の転機は、RISEの試合映像が録画されたDVDを目にした瞬間である。「このリングに上がりたいと感覚的に思ったんです」という風音は、RISEに出るために千葉県松戸市のTEPPEN GYMに移籍を決断。「それまでは父親の勤務する工場の駐車場に畳を敷いて、その上で練習してたんで対人練習は出稽古ばっかり。きちんとした練習環境が手に入ったのは初めてでした」と当時を振り返る。同い年の那須川とは、このときからチームメイトになった。

トーナメントを制して序列を変えた

名門ジムでトップ選手らに混じって練習を始めた風音は、すぐにRISEデビューを果たす。初戦でいきなりKO勝利を収めると、その後も白星を積み重ねた。しかし、軽量級の層が厚いRISEではタイトルマッチに辿りつくのは容易ではなく、他団体からも続々と選手がやってくる中、当時のポジションは先頭の背中が見えない“後続集団”であったのが正直な印象だ。そんな状況で迎えた二度目の転機が、昨年11月のDEAD OR ALIVEトーナメントである。53キロ級の国内トップ選手8人が集まったこの大会で、風音は江幡睦、政所仁、志朗という強豪たちを破って優勝。「あの大会で優勝できたことで自信になったし、メンタルも技術も分岐点になりました」と語るように、風音の試合は持ち前のアグレッシブさに粘り強さが加わって明らかに変わった。リング上でチャンピオンベルトを腰に巻いた直後に口にした那須川への対戦要求が、今回の試合へと繋がったというわけだ。

チャンスを引き寄せる強運の持ち主

実はこの同門対決が実現した裏には、那須川が対戦を望んだロッタン・ジットムアンノンとRISEの交渉がまとまらなかったことがある。ロッタン戦が消滅したことで、那須川は風音との試合を受けたわけだが、この状況下で「次点」に付けていた風音の運にも注目したい。トップ選手ばかりが揃った昨年のDEAD OR ALIVEトーナメントに関して言えば、チャンピオン経験のない風音は元々エントリーされていなかったにもかかわらず、予定されていた選抜マッチの相手である大﨑孔稀が新型コロナウイルスの影響で欠場となり、繰り上がりで出場が決まった経緯もある。さらに付け加えると、風音がRISEにやってきた2019年3月は ABEMAの中継が始まったタイミングとも重なっているなど、風音は理屈では説明できない強運も持っているのである。

“神の子”が残した伝説の地へ

試合に向けて、風音はTEPPEN GYMの那須川弘幸会長と二人三脚で那須川天心攻略に取り組んでいることを明かしており、「これだけ練習やってるヤツは他にいないと思います。天心よりやってますよ」と自信満々に語る。この一戦が行われる国立代々木競技場第一体育館は、2006年に憧れの山本“KID”徳郁が宮田和幸を4秒でKOするという伝説を作った会場だ。「まだ小学1年生で、訳もわからずテレビで見てました。同じ場所のメインに立てるって本当にうれしい気持ちで、あの頃の自分に教えてあげたいですよ!」。勝てば自分の人生はもちろん、格闘技界がひっくり返る。三度目の転機はやってくるのか。「自分の強みは自分を信じ抜ける所だと思います」と語る男は、誰よりも自分の力を信じて伝説の地へ向かう。

※文中敬称略

実況アナウンサー

実況アナウンサー。1973年神戸市生まれ。プロレス、総合格闘技、大相撲などで活躍。2015年にはアナウンス史上初めて、新日本プロレス、WWE、UFCの世界3大メジャー団体の実況を制覇。また、ラジオ日本で放送中のレギュラー番組「真夜中のハーリー&レイス」では、アントニオ猪木を筆頭に600人以上にインタビューしている。「コブラツイストに愛をこめて」「1000のプロレスレコードを持つ男」「もえプロ♡」シリーズなどプロレスに関する著作も多い。2018年には早稲田大学大学院でジャーナリズム修士号を取得。

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