フランス優勝の影で報道されていないマテュイディの脳震盪疑い。

(写真:ロイター/アフロ)

 サッカーのワールドカップロシア大会は、フランスとクロアチアによる決勝戦が行われ、フランスが4-2でクロアチアを下し、1998年以来2度目の優勝を果たした。

 試合が始まる前、私はフランスのマテュイディの姿を探していた。マテュイディは10日のベルギーとの準決勝で脳震盪を起こしていたように見えたからだ。私は現場で取材していない。だから、正確に言うと、テレビ中継の画面を注視していた。

 準決勝戦の後半、マテュイディは、ベルギーのアザールと激しくぶつかり芝生の上に倒れた。何が起こったのかはっきり分かっていないようでぼう然としていた。脳震盪の疑いがあるようだった。医療スタッフに付き添われて、彼はいったん、フィールドの外へ。しかし、2分ほどで再び試合に戻って、しばらくプレーしたところでよろよろと倒れ込んだのだ。

 2度目に倒れたときに、ようやく交代した。脳震盪だったかは分からない。しかし、明らかにふらついており、脳震盪が疑われる症状を見せていた。

 本来ならば1度目に倒れたときに、交代するべきだったかもしれない。脳震盪が疑われるときには、ただちに試合から退場するのが、医学的には正しいことだからだ。FIFAの脳震盪ガイドラインも「ただちにプレーから離れ、医師の診断があるまで復帰してはいけない」と明記されている。マテュイディは1回目に倒れたときに、フィールド外には出たが、すぐに戻っており、診断を受けるのに十分な時間を取っていなかった。脳震盪が疑われるときのプロトコルに沿った対応がされていなかったのではないか。

 1回目の脳震盪が完全に回復していない状態で2回目の衝撃が脳に加わると、致命的な脳損傷に至ることがある。これは、セカンドインパクト症候群と呼ばれているものだ。だから、脳震盪と診断された場合は、症状がなくなるまで試合に復帰してはいけない。FIFAの脳震盪回復のプロトコルには、試合に復帰するまでは少なくとも6日間が必要と書かれている。脳震盪を繰り返すと、後になって、慢性外傷性脳症(CTE)を引き起こす可能性もある。慢性外傷性脳症は、神経障害や認知症などの症状をもたらす。

 準決勝から5日後の決勝のピッチにマテュイディは立っていた。脳震盪ではないと診断されたから出場していることになる。しかし、テレグラフ電子版は11日付で「ブレーズ・マテュイディは、脳震盪の懸念にも関わらず、スタメン出場することが決まった」と伝えていた。記事によると、FIFAは、第三者の医療従事者でなく、チームが雇用した医療従事者が脳震盪かどうかの診断をすることを認めているという。

 チームのドクターがマテュイディを診て、脳震盪ではないと診断したのなら、出場できるというわけだ。ちなみにNFL米プロアメリカンフットボールでは、脳震盪が疑われたときには、チームドクターではなく、利害関係のない独立した第三者のドクターが診断することになっている。NFLもずさんな対応を批判されてきたからである。

 

 ワールドカップの決勝は特別な舞台。世界的なスターでも、ワールドカップの決勝の舞台に立てずに選手生命を終えていく選手はいる。大事をとって、マテュイディは決勝に出場すべきではなかったと、私にはとても言えない。

 また、マテュイディだけでなく、モロッコのアムラバトもイラン戦で脳震盪の症状があったにもかかわらず、5日後の試合に出場していた。

 しかし、ワールドカップは世界中の多くの人が観戦している大会でもある。「スターたちは脳震盪の症状が出ていても、次の試合にも出場した。だから、脳震盪はたいしたことではない。深刻に受け取らなくてもいい」という暗黙のメッセージになっていないことを願いたい。脳震盪が疑われるときは、医療従事者の診察を受けなければいけない。脳震盪と診断されたら、プロトコルに従って復帰までのプロセスをクリアしていかなくてはいけない。

 マテュイディやアムラバトの脳震盪を、英米仏のメディアは、FIFAの対応を批判するトーンで伝えていた。グーグルで日本語の記事検索をしたが、日本のメディアからは、ワールドカップ中の脳震盪やFIFAの対応についての報道がほとんどなかった。報道量の観点からも、ワールドカップ中の脳震盪疑いとその対応が、日本のファンに軽視されていないことを願いたい。