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なぜ拳四朗は因縁の再戦で宿敵矢吹をKOで破ることができたのか

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
写真提供すべて FUKUDA NAOKI

19日ボクシングWBC世界ライトフライ級タイトルマッチが行われ、王者の矢吹正道(29=緑)が前王者で同級1位の寺地拳四朗(30=BMB)と戦った。

この試合は、6カ月ぶりのダイレクトリマッチとなった。

試合の展開

試合が始まると寺地は前半から積極的に攻めにいった。懐が深い矢吹に対して前に出て距離をつぶしていく。

矢吹もジャブをつくが、寺地がどんどん攻めてくるので後手になってしまい手数が出ない。

寺地は下がる矢吹に対して、更に右のショートを打って追い込んでいく。矢吹も打ち終わりにパンチを合わせるが、寺地のプレッシャーは続く。

2ラウンドには寺地のジャブからのワンツーが効果的に入り、完全にペースを握っていた。

そして、3ラウンドで、寺地の右がヒットして矢吹がダウン。様子を見たレフェリーが試合をストップし、寺地が3R1分11秒でKO勝利した。

勝敗のポイント

前回、寺地は4ラウンドまでポイントを取られ、攻めざるを得ない状況に陥り、焦りから敗戦した。

その反省を活かし、今回は前半から積極的に攻めにいき、矢吹にペースを握らせなかった。

再戦の場合、勝者は同じ戦略で戦い、敗者は戦い方を変えてくることが多い。寺地が序盤から積極的にきたことで矢吹も驚いたことだろう。

12ラウンドもある世界戦で、スタミナを気にせず攻め続けられたのは、いい調整ができていた証拠だ。

矢吹は得意の打ち合いに持ち込みたかっただろう。本来であれば近距離は、矢吹の得意な距離だ。しかし、寺地の序盤からの襲撃が想像以上で後手に回ってしまった。

一度相手にペースを握られると、途中から戦い方を変えるのはなかなか難しい。寺地のこの試合にかける想いが、矢吹にペースを譲らなかった。

トレーナーとの信頼関係

寺地は試合後のインタビューで「倒しに行くって決めていた。トレーナーの加藤さんを信じてやれば絶対勝てると思っていたので、それだけを考えてやりました」と涙ながらに喜びを語った。

寺地は、トレーナーの加藤氏に絶対的な信頼を寄せている。

今回の試合に向けて、加藤トレーナーは「遠くで戦っても埒があかない。スタイルを変えて、覚悟を決めて前に出て戦うと決めていた」と作戦を話していた。

1月から準備し、2月で調整を重ね、3月に新しいスタイルを変えたという。

短期間で戦い方を変えるのは、選手とトレーナーとの間に深い信頼関係がなければできない。

「本当に辞めないでよかった。加藤さんを信じてスタイルも変えられてよかった。離れずに応援してくれた人へ恩返しできてよかった」

会見の時にも、加藤トレーナーの名前を何度も口にし、感謝を伝えていた。

リングに上がるのは一人だからこそ、隣で支えてくれるトレーナーの存在は大きい。

最後に試合を決めた右については「手応えがあった」と話していた。再戦を一撃で勝利したことは、大きな自信になっただろう。

今後に向けては、「一回自信を無くしたんですけど、今日でまた完全に自信を取り返せた。これからは強い相手としかやらないと思う。統一戦や階級変更も考えている」と話した。

一度負けた相手に雪辱を果たし、見事チャンピオンに返り咲いた寺地。今後は強者を求め、更なる高みを目指す。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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