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新人王MVPで脅威のKO率の奈良井翼 ボクシングを始めたきっかけはマイク・タイソン

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
写真提供FUKUDA NAOKI

スーパーフェザー級・奈良井翼(21=RK蒲田)は、第67回全日本新人王決定戦で優勝し最優秀選手賞(MVP)に輝いた、いま注目の若手ボクサーだ。

新人王戦では4連続KOで勝ち進み、決勝戦で福田星河から2回のダウンを奪い圧勝した。

7戦(6KO)無敗と波に乗っている奈良井に取材するべくRK蒲田ジムに訪れた。

新人王戦について

ーーー新人王戦を振り返ってみてどうでしたか。

奈良井:元の階級から一気に2階級上げて出場したのですが、初戦はめちゃくちゃ怖くて。

ーーー優勝した奈良井選手でも最初は恐怖があったのですね。

奈良井:自分は高校生の時にアマチュアで戦っていたので、その感覚のまま階級を上げてスーパーフェザー級で初戦に出ました。

そこで初めてプロの怖さを知って気が引き締まりましたね。あの試合がなかったら、調子に乗ったまま負けていたかもしれません。

ーーー決勝はどうでしたか。

奈良井:めちゃくちゃ緊張しました。準決勝から決勝までちょっと期間があいて、1月の中旬ぐらいに調子を崩したりしましたが、なんとか戻して決勝に出た感じです。

ーーーアマチュアからプロに転向してどの辺でKOの感覚をつかみましたか。

奈良井:デビュー戦のときは単純に相手に当てたら倒せると思っていたのですが、案外倒れないし、何なら思いっきり打ったら自分の手が痛い。

そこから1発で狙うのをやめて、タイミングで倒すことを意識し始めました。細かくパンチを当てて隙が出たところに、強いパンチを合せる感じです。でも、試合になると倒す欲が出てしまって…。KOを意識しすぎると逆にKOできませんね。

得意は左フック

ーーーやはり一番得意なのは、左フックですか。

奈良井:試合でもほとんど左フックで倒しています。

ーーー左フックで倒す感覚はつかめたのですか。

奈良井:いえ、まだ勘で倒していることが多いです。練習のときは、このコンビネーションをやろうと考えるのですが、試合のときは何も考えず、相手の動きに合わせる感じです。

ーーー倒そうと思って、打っているわけではないのですか。

奈良井:はい。何も考えずに、倒そうと思うと逆に倒せません。振ったらタイミングよく相手に当たって、倒れているような感じです。

ーーー無意識のパンチで倒している。

奈良井:そうですね。

ーーー理想のボクシングは、どのようなスタイルですか。

奈良井:ボクサーファイターで、足も使えて打ち合いもできるスタイルです。毎回倒せるほうが盛り上がるし、見ている人も面白いではないですか。試合をやる前は判定でもいいぐらいの気持ちで行くのですが、やはり毎回倒したいです。

ーーーKOにはこだわりますか。

奈良井:はい。試合前はいつも相手をKOしたいと考えていますね。

ミットを持つトレーナーは奈良井のパンチを「ブレない硬いパンチ」と話していた。
ミットを持つトレーナーは奈良井のパンチを「ブレない硬いパンチ」と話していた。

きっかけはマイク・タイソン

ーーー理想のボクサーはいますか。

奈良井:マイク・タイソンと芝力人君(第2代日本ライトフライ級ユース王者)のスタイルが好きです。

ーーー二人ともKO率の高いボクサーですね。

奈良井:そうです。タイソンは小柄なのにバンバン倒すので、僕はそれを見てボクシングをやりたくなったんです。

ーーータイソンがボクシングを始めたきっかけなのですか。

奈良井:はい。最初はキックボクシングをやっていて、ボクシングは母に勧められました。

とりあえずボクシングの試合をみてみようと映像をあさっていたら、たまたまタイソンの試合があって、自分より大きく屈強な選手を倒している姿に憧れました。

ーーータイソンはヘビー級では小柄な選手ですよね。

奈良井:僕もキックボクシングで自分より大きい選手とやることが多かったです。最初はなぜ大きい選手と戦わなければいけないのかと思っていたのですが、タイソンを見てからは逆に大きい人を倒せるのは、格好いいことだと思うようになりました。

ーーー今でもタイソンの動画を見たりしますか。

奈良井:します。やはりアウトボクサーでやるときは、タイソンを意識します。

相手のタイプにもよるのですが、距離を取ってくるタイプのときは、タイソンの戦い方を参考にしますね。

ーーータイソンの試合の中で、よく見る試合はありますか。

奈良井:世界タイトルを奪取したトレバー・バービック戦です。あのときのキレのある動きが好きです。

ーーーその試合も意識したりしますか。

奈良井:ボディーからのアッパーは、結構まねします。外側を左ボディーで打って、内側にアッパー打ち込む。またそれが当たるのです。

トレーニングでもタイソンの動きを意識している。
トレーニングでもタイソンの動きを意識している。

階級UPの変化

ーーースーパーバンタム級からスーパーフェザー級、2階級上げるとなると試合でも違いを感じますか。

奈良井:そうですね。パンチの衝撃も全然違います。もろにくらったら怖いなと思いました。

ーーー減量はどうですか。

奈良井:スーパーバンタム級のときはきつかったです。普段65キロぐらいだったので、10キロぐらい落としていました。

以前は水抜きなども無知なまま行なっていたので、体調もあまりよくありませんでした。

計量の前日で2.5キロオーバーというのもざらにありましたね。

ーーーそれを1日で落としていたのですか。

奈良井:はい。ちょっとネットで調べた程度の知識でやっていたので、最後の2キロがなかなか落ちませんでした。

無理な減量をした状態で練習して、シャドーだけでもフラフラで、マスをやった時に意識がなくなりかけました。

その状態を見た会長が「無理だからやめろ」と。

それが昨年9月で、東日本の準決勝のときです。

ーーーそれで次戦は階級を上げたのですね。

奈良井:そうです。1年間試合に出場せず、ボクシングが大好きだったのに、嫌いになってしまって。ジムの練習にも行かなくなりました。

ーーー減量の影響で精神的にかなり追い詰められていたのですか。

奈良井:そうですね。減量はボクシングをやる上で、絶対についてくるものではないですか。だからボクシングが嫌になりました。

でも、スーパーフェザー級に上げてからは、食べながら落とせるようになったので精神的に楽になりましたね。

ーーー今は食べながら落とせる感じですか。

奈良井:はい。次の亀田戦のときは一つ階級を下げてフェザー級で出場します。スーパーフェザー級で余裕があったので、ちょうどいい感じです。あと1キロぐらい落とす感じになりますね。

【後編に続く】

後編では6月5日に行われる亀田京之介との試合について語ってもらう。

奈良井翼(ならい・つばさ)

21歳、大阪府大阪市出身、RK蒲田ボクシングファミリー所属。プロ戦績は7戦7勝(6KO)。第67回全日本新人王決定戦で優勝しMVP獲得。小学生からキックボクシングを始め、高校入学後にボクシングに転向した。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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