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日本人初の4階級制覇へ!井岡一翔の挑戦と階級の壁

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:アフロスポーツ)

 プロボクシングの元世界3階級王者、井岡一翔(29)がいよいよ王手だ。

現在空位のスーパーフライ級王座について、同級1位ドニー・ニエテス(フィリピン)と同級3位の井岡一翔が決定戦を行うことをWBO(世界ボクシング機構)が承認した。

井岡は、今年9月に米国で1年4ヶ月ぶりに現役復帰。

WBC、WBO同級3位のプエルトリコのマクウィリアムズ・アローヨに3-0の判定で完勝し、今回のチャンスを得た。

決定戦に勝てば日本人選手では史上初の4階級制覇となる。

王座が空位のWBO世界スーパーフライ級のベルトは、同じ日本人王者の井上尚弥選手が巻いていた。

井岡は今年の暮れにフィリピンのニエテスと海外で対戦する方向で、交渉が進んでいる。

相手をジワジワと追い込む井岡のボクシングスタイル

 井岡は元々は最軽量級のミニマム級からスタートして、ライトフライ、フライ級の3階級で王者となる。

井岡は、スピードとテクニックを活かした、ヒットアンドアウェイのボクサータイプだ。

KO率も軽量級にしては23勝のうち13回のKO勝ちと低くないが、パワーで倒すというよりはスピードとタイミングで勝負してきた選手だ。

自分のペースに持ち込みジワジワと相手を追い込みKOに繋げていく。

必ずしもパワーで勝負してきたわけではない井岡にとって、階級UPは大きなチャレンジだ。

ボクサーが階級を上げる事で、相手の耐久力やパワーが増していく。

そこで勝ち続けるには、どれだけその階級に合わせたスタイルに変化していけるかが鍵になる。

ひとつ階級を上げるだけで勝てなくなる世界

 ボクサーは階級をひとつ上げると戦い方が大きく変わる。

フライ級とスーパーフライ級の差は1.4キロほどであるがその差は大きい。

全階級でNO.1のパウンドフォーパウンド(階級を通じてNO.1)と言われた

3階級制覇王者のニカラグアのローマン・ゴンザレスもフライ級からひとつ階級を上げたことで、

タイのシーサケット・ソー・ルンヴィサイに敗れた。

無敵と言われたチャンピオンがひとつ階級を変えることで、KOで負けた姿は衝撃的だった。

私は現役の時はライトフライ級(48.9kg)で戦っていたが、

実践練習のスパーリングでひとつ階級が上の選手と戦うだけで、自分のスタイルが通じなくなった経験が多々ある。

1階級の差は僅か1キロちょっとではあるが、ボクサーにとって階級の壁は大きい。

パワー、スピード、耐久力と全てが大きく変わってくる。

その階級で通じていたパンチが上の階級で通じなくなるのだ。

これまでより大きな体格の選手に勝つのには自分のスタイルのモデルチェンジが余儀無くされる。

井岡選手にとってスーパーフライ級は大きなチャレンジになると予想された。

復帰戦で見せた新しいボクシングスタイル

 電撃復帰を果たした井岡だが、復帰戦での相手を聞いた時は、苦戦もしくは敗戦もあるのではと個人的には感じていた。

相手のマクウィリアムズ・アローヨは、アマチュアの世界選手権で金メダルを獲得している実績がある選手だった。

世界タイトルの獲得はないが、元WBCスーパーフライ級チャンピオンのカルロス・クアドラス(メキシコ)に勝っていたりとスーパーフライ級でトップクラスの実力者だ。

久しぶりの試合で尚且つアメリカでの試合にこの相手は少々荷が重いのではと感じていた。

しかし、試合になると井岡はダウンを奪う展開でアローヨに完勝した。

驚いたのは、フライ級時代の相手が弱るまで無理をしないクールなスタイルから、

序盤から積極的に攻めていくアグレッシブな戦い方にモデルチェンジしていたことだった。

そして、見事なパフォーマンスを見せて今回のチャンスを物にした。

階級を上げても戦える事を証明した井岡選手。

今度の相手のニエテスも4階級制覇目を狙う実力者だ。

前回の王座決定戦で引き分けとなり、今回再度タイトルマッチのチャレンジとなる。

3階級制覇王者同士のハイレベルな一戦が今から待ち遠しい。

日本人初の4階級制覇王者誕生に期待がかかる。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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