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ハリーの薬物疑惑をリークしたのはカミラ王妃とチャールズ国王なのか 英王室内の裏切りは日常茶飯事

木村正人在英国際ジャーナリスト
ヘンリー公爵の薬物疑惑をリークしたのはカミラ王妃とチャールズ国王なのか(写真:ロイター/アフロ)

■チャールズ皇太子時代の公邸は裏切りや内輪もめが頻発

[ロンドン]チャールズ国王の伝記『チャールズ 国王の心』(2015年)の著者でジャーナリストのキャサリン・メイヤー氏は、国王が皇太子時代から公邸として使っているクラレンスハウスが、裏切りや内輪もめが日常茶飯事だったチューダー朝のヘンリー8世の宮廷になぞらえ“廷臣(スタッフ)”たちの間で『ウルフ・ホール』と呼ばれていたと打ち明ける。

『ウルフ・ホール』は英作家ヒラリー・マンテル氏の歴史小説の題名で15年にドラマ化され、英BBC放送で放映された。クラレンスハウスの内情を取材したメイヤー氏は、チャールズ皇太子(当時)がスタッフに明確な役割を与えられないため、スタッフたちは縄張り争いに終始し、ヘンリー8世の宮廷のような裏切りとご都合主義が横行していたと語る。

「チャールズはスタッフのライバル関係が問題や無用の緊張を引き起こしていたが、良いパフォーマンスを引き出すと誤解していた」とメイヤー氏は伝記を出版した当時、英高級紙デーリー・テレグラフに語っている。実際、スタッフ同士のいがみ合いで慈善活動の契約が潰れてしまったこともあった。

■チャールズは国王になりたくなかった?

「チャールズは王位に就きたくてうずうずしているどころか、その重圧を感じ、これまで関わってきた慈善活動や環境運動への影響を心配していた。即位することを『監獄』に入るように感じているという証言を引用したところ、チャールズは国王になりたくないというニュースが世界中を駆け巡った」(メイヤー氏)

『チャールズ 国王の心』を出版後、メイヤー氏周辺で起きた出来事は、メーガン夫人とともに英王室を離脱し、回想録『スペア(将来の君主に何かあった時の予備という意味)』を出版したヘンリー公爵=王位継承順位5位=への妨害工作を思い起こさせるという。『チャールズ 国王の心』の一部が英紙タイムズで連載されると“忠臣”がすぐさま行動を起こした。

チャールズ皇太子の私設秘書はタイムズ紙に手紙を書き、皇太子がメイヤー氏と会ったのはたった9分だけだとデタラメを言ってメイヤー氏の信用を貶め、訴訟までをちらつかせた。しかしメイヤー氏の手元にはチャールズ皇太子の同意を得て録音した長時間の会話のテープがあったのだ。

■『スペア』の内容は本当に驚くべきものだ

『スペア』についてメイヤー氏は「この本は理解されているよりはるかに多くのダメージを与えた。私たちジャーナリストが持っている限られた情報源に比べ、歴史的に興味深い書籍だ。『記憶は異なる場合がある』という有名なフレーズがあるが、宮殿での物事の進め方や交わされた会話、機能不全の家族など、その多くは本当に驚くべきものだ」と指摘する。

「記憶は異なる場合がある」は、ハリーとメーガンが米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏のインタビューで長男アーチーちゃんの「肌の色」を巡る人種差別を告発したことに対して、エリザベス女王が出した声明にある一節だ。人種差別の問題はその後、棚上げされた格好になっている。

「王室や王族は国民にあるべき姿を示すべきなのに、実は社会や世相の写し絵だ。90年代には離婚件数が増えたが、王室の離婚が相次ぎ、その傾向を先導した。現在では世界の分断、精神衛生上の問題を抱える人が必要なサポートを受けられない。中でも人種差別は非常に強力な告発だ」(メイヤー氏)

■王室内の人種差別は無知が原因

昨年、故エリザベス女王の側近がバッキンガム宮殿で開催されたレセプションで英国籍のアフリカ系女性に「本当にどこから来たのか言いなさい」と詰め寄り、人種差別発言だと非難され、辞任に追い込まれた。メイヤー氏は「王室内の人種差別は必ずしも意図的に敵意と偏見を持っているわけではない。どうすれば良いのか知らないのが原因でもある」と指摘する。

「王室や王族が簡単にこの問題を乗り越えられるとは思えないし、『肌の色』の話が終わってしまったわけでもない。私は、メーガンが間もなく回想録を書き、問題を再燃させると考えている」とメイヤー氏は言う。

ハリーが自分の薬物使用のニュースを父親のチャールズ国王とカミラ夫人がリークしたと疑っていることについてはこう語る。

「裏で取引があったと考えることは十分できる。ハリーが薬物からのリハビリセンターに連れて行かれた時にメディアに流したのかもしれない。王室と会社の違いは、もしあなたが会社を持っているなら理論上、会社は一つの利益しか持っていない。しかし宮廷の場合、一つの宮廷があるのではなく、一つのシステムがある」(メイヤー氏)

「彼らはしばしば自分たちが互いに競争していると考えている。いつも足並みをそろえているわけではない。この話と引き換えに違う話をメディアに書いてもらうという裏切りの感情がある。互いに相手を打ちのめすことが多々ある。『ウルフ・ホール』で描かれたような裏切りや内輪もめは日常茶飯事なのだ」とメイヤー氏は語る。

ハリーが5月6日の戴冠式に出席するかどうかについては「チャールズ国王のチームはハリーが出席できるようあらゆる手を尽くすだろう。しかし王室内には痛みがある。いかなる打開策も見つけることはできないだろう。ハリーはインタビューで利用できることは何でもすると公言しているのだから」と厳しい見方を示した。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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