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米中は逆転せず 独裁強める習近平の強硬路線が裏目 「社会主義現代化強国」は掛け声倒れ

木村正人在英国際ジャーナリスト
独裁を強める中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

■中国経済の実質成長率、35年に2.2%に

異例の3期目を迎えた中国の習近平国家主席の「共同富裕」、出口が見えないゼロコロナ政策、米中デカップリング(分断)の悪影響、台湾有事の懸念で中国の経済成長が滞り、名目国内総生産(GDP)は米国を逆転しないとの衝撃的な予測が14日、日本経済研究センターから発表された。2014年まで続いた一人っ子政策による労働力減少の影響も大きい。

出所)日本経済研究センター
出所)日本経済研究センター

日本経済研究センターによると、20年の予測では29年、昨年の予測では33年に中国のGDPが米国を上回るとみられていた。今回の予測では35年までに中国のGDPが米国を上回ることはなく、36年以降も中国の成長鈍化は確実視される。実質成長率は31年に3%を下回り、35年にはコロナ危機に見舞われた20年並みの2.2%まで落ち込む。

その根拠は3つあるという。

(1)習体制への逆風

習体制は貧富の格差を是正する「共同富裕」を掲げ、アリババやテンセントなど大手IT企業への締め付けを強化する恐れが強い。

(2)ゼロコロナ政策

オミクロン株の感染者が増えた3月以降、上海市などで都市封鎖が実施され、今年第2四半期の実質成長率は前期比マイナス2.7%に転落。北京などの主要都市でゼロコロナ政策への抗議が相次ぎ、緩和の姿勢が示されたが、ゼロコロナの看板そのものを下ろしたわけではない。

(3)米中デカップリング

米中分断は共和党のトランプ政権から民主党のバイデン政権になっても変わらず、米国務省が発表した半導体の先端技術規制は中国経済に深刻な影響を与える恐れがある。

■中国の労働力は今後15年間で15%減少

英誌エコノミストも9月、「中国経済が米国を追い越すことはあるのだろうか。そうではないと考えるエコノミストもいる」という記事を掲載した。「アジアの巨人が抱える多くの問題は自ら招いたものであり、中国が米国を抜いてトップになる日は遅れると思われる。その日は来ないかもしれないと考える経済学者も増えている」と指摘している。

中国のGDPは米ドルに換算した場合、依然として米国に大きく遅れを取っている。高齢化によって中国の労働力は今後15年間で15%減少する恐れがある。ロンドンのコンサルタント会社キャピタル・エコノミクスは、中国のGDPは30年代半ばには米国に迫るか、追い越すかもしれないが、人口動態の悪化に伴い再び遅れをとるだろうと分析している。

習氏は10月の中国共産党大会で「35年に1人当たりGDPを中等先進国並みにする」との目標を掲げた。これを実現するためには年5%前後の経済成長が必要となる。しかし人口動態の悪化、膨れ上がる債務、生産性の低下といったマイナス要因のため、中国が達成できる成長率はその半分程度という見方もある。

「中国経済は60年まで米国を追い越すことはないだろう」――米ロックフェラー・インターナショナルのルチール・シャルマ会長は同月、英紙フィナンシャル・タイムズにこう寄稿している。「中国全体の潜在成長率は2.5%程度だ」と分析する。

「長期的な成長は、より多くの労働者がより多くの資本を使い、それをより効率的に使うことにかかっている。中国は人口が減少し、生産性の伸びが低下する中、持続不可能な速度でより多くの資本を経済に注入することで成長を続けてきた。負債総額はGDPの275%に達しており、その多くは不動産バブルへの投資に充てられている」とシャルマ会長は指摘する。

■2075年、日本経済は世界12位に転落

一方、米金融大手ゴールドマン・サックスは6日、中国経済は35年ごろに米国経済を追い抜き、世界最大の経済大国になるという予測を発表している。11年時点の予測よりも米中逆転の時期は10年遅くなったものの、中国の潜在成長率は依然として米国を大きく上回っていると分析している。

24~29年の年間経済成長率は米国が1.9%であるのに対し、中国は4%程度。中国の成長率は10~19年の7.7%から30~39年にかけ2.5%まで大幅に減速する恐れがある。人口動態の要因によるもので、中国の潜在成長率はインド、インドネシア、フィリピンを大きく下回るようになる。

ゴールドマン・サックスの分析では、人口増加の鈍化に伴って世界の潜在成長率も鈍化する。世界の人口増加率は過去50年間に年率2%から1%未満へと半減し、75年にはほぼゼロとなる。今後10年間の世界の成長率は年平均3%弱で、労働力増加率の鈍化を反映して徐々に低下する経路をたどるという。

新興国の成長率は先進国の成長率を上回り続け、先進国と新興国の「コンバージェンス(収斂)」は進む。50年に世界の経済大国は(1)中国(2)米国(3)インド(4)インドネシア(5)ドイツ(6)日本の順となり、75年には(1)中国(2)インド(3)米国(4)インドネシア(5)ナイジェリアと予測されている。「高齢者大国」の日本は12位に沈むという。

今世紀半ばには経済や軍事で米国に肩を並べる「社会主義現代化強国」を構築する目標を掲げる習氏だが、自らの失策で中国経済を著しく減速させている実態が浮き彫りになっている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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