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未成年者性交疑惑のアンドルー英王子の和解金は18億8千万円 エリザベス女王が一部負担

木村正人在英国際ジャーナリスト
写真があるのに「会った記憶がない」と言い逃れていたアンドルー王子(訴訟記録より)

和解金を受け取った時点で訴えを取り下げ

[ロンドン発]米富豪ジェフリー・エプスタイン被告=自殺 =の性的虐待事件で未成年者と性交したとして米法廷に訴えられたアンドルー英王子(61)=王位継承順9位=と当時17歳だった原告のバージニア・ジュフレ(旧姓ロバーツ)さん(38)が原則的に和解に達したことが15日明らかになった。

和解条件の中で和解金額は機密事項とされているが、英紙デーリー・テレグラフは1200万ポンド(約18億8千万円)と特ダネで報じた。それによると、エリザベス女王はすでにアンドルー王子の訴訟に数百万ポンドの私的資金を提供、今回の和解金の一部も負担するという。

アンドルー王子をエプスタイン被告に引き合わせた同被告の元交際相手ギレーヌ・マクスウェル被告が陪審の有罪評決を受け、アンドルー王子自身もバージニアさんに起こされた損害賠償訴訟から逃れられない絶体絶命の状況に追い込まれていた。

在位70年(プラチナ・ジュビリー)を迎えたエリザベス英女王(95)は、その時が来ればチャールズ皇太子が国王になり、カミラ夫人は王妃(クイーン・コンソート)としてサポートすると異例の声明を発表し、王位継承の道筋を示したばかり。これを受け、アンドルー王子は王室の名誉を傷つけないよう法廷外での決着を急いだとみられる。

米ニューヨークの連邦裁判所に提出された和解書と共同声明によると、アンドルー王子がバージニアさんに支払う金額は機密事項とされていた。アンドルー王子は性的虐待事件の被害者を支援する慈善団体に相当金額を寄付し、バージニアさんは和解金を受け取った時点で訴えを取り下げる。

「エプスタイン被告との関係を後悔」アンドルー王子

アンドルー王子は、17歳の時に性交を強いられたというバージニアさんの告発は一切認めていない。その代わり「エプスタイン被告が長年にわたって無数の若い女性を人身売買していたことは知られている。エプスタイン被告との関係を後悔しており、バージニアさんや他の被害者が自分や他人のために立ち上がった勇気を称賛する」と声明の中で反省している。

「バージニアさんの人格を傷つけようとしたことはなく、彼女が虐待の被害者として、また世間からの不当な攻撃の結果として苦しんでいることを受け入れている」。アンドルー王子は自分と王室の名誉を保つ形でバージニアさんの訴えを大幅に受け入れた。これで英王室にとってプラチナ・ジュビリーを祝うための最大の障害は取り除かれた。

バージニアさんがアンドルー王子を相手取り米ニューヨークの連邦裁判所に7万5千ドル(約867万円)の損害賠償を求めて訴訟を起こしたのは昨年8月。

エプスタイン被告が多数の少女を囲っていたハーレムの一員だったバージニアさんは17歳だった2001年、ロンドンのタウンハウス、米マンハッタンにあるエプスタイン被告の邸宅、カリブ海のプライベートアイランドで3回にわたってアンドルー王子と性交を強いられたと主張していた。米ニューヨーク州法では18歳未満との性行為は違法だ。

訴状によると、ギレーヌ被告は学校やスパ、トレーラーパーク、街頭などでプロのマッサージ師になりたいという少女たちに近づき、1回200ドル(約2万3千円)で性的マッサージを強要していた。「マッサージ」のため呼び出す少女たちの電話番号を記した「ブラックブック」にはアンドルー王子のために12以上の連絡先がリストアップされていたとされる。

アンドルー王子は19年、英BBC放送のインタビューで、バージニアさんとの性交疑惑について「会った記憶がない」と言葉を濁した上、被告への批判を避けたため英国民の怒りを買い、公務を解かれた。法廷闘争が避けられなくなった今年1月には英名誉軍人の称号や慈善団体の後援者の地位を剥奪され、英王室から追放されていた。

【これまでの経過】

1999年、アンドルー王子が英メディア王ロバート・マクスウェル氏(故人)の娘で英社交界の華だったギレーヌ被告の紹介でエプスタイン被告に会う。90年代前半にすでに、ギレーヌ被告から恋人のエプスタイン被告を紹介されていた疑惑も浮上している。

2000年、アンドルー王子とギレーヌ被告がエプスタイン被告とともに米フロリダ州パームビーチにあるドナルド・トランプ前米大統領の別荘マー・ア・ラゴで過ごす。

同年6月、エプスタイン被告とギレーヌ被告がエリザベス女王主催のウィンザー城でのダンスパーティーに招かれる。

同年12月、アンドルー王子がギレーヌ被告の誕生日を祝うパーティーをエリザベス女王所有のサンドリンガムの別邸で開く。エプスタイン被告も招かれる。

01年、バージニアさんの訴えによると、アンドルー王子と3回性的な関係を持つ。最初はロンドンにあるギレーヌ被告邸。あとはニューヨークのエプスタイン被告邸、カリブ海に同被告が所有する島でのどんちゃん騒ぎだった。

06年5月、未成年者への性的暴行でエプスタイン被告に逮捕状。その2カ月後、同被告はアンドルー王子の長女ベアトリス王女の誕生日を祝うウィンザー城での仮面舞踏会に招待される。

08年、エプスタイン被告が司法取引に応じて未成年者買春の罪を認め、禁錮1年半の有罪判決。この時の担当はフロリダ州マイアミの連邦地方検事で、後にトランプ大統領(当時)に労働長官に指名されるアレクサンダー・アコスタ氏。アコスタ長官はその後、秘密裏に行った司法取引を批判され、辞任に追い込まれる。

10年、アンドルー王子はエプスタイン被告の出所を祝ってニューヨークで開かれた身内のディナーパーティーに出席。エプスタイン被告邸で女性を見送る姿や、セントラルパークをエプスタイン被告と一緒に歩いているところを隠し撮りされる。

11年、アンドルー王子が疑惑に関連して英貿易特使を辞任。

15年、英王室が、アンドルー王子が17歳だったバージニアさんと性的関係を持ったという裁判所への訴えを否定。バージニアさんの証言は「信用できない」と退けられ、アンドルー王子に関する訴えは裁判記録から削除される。

19年7月、エプスタイン被告が性的搾取を目的とした未成年者の人身取引容疑で再逮捕される。有罪の場合、最高45年の禁錮刑が科される可能性があり、被害者の中には14歳の少女も含まれていた。3週間後に自殺。

同年8月、エプスタイン被告の別の被害女性ジョアンナ・シェーベルイさんも01年にニューヨークの同被告邸でアンドルー王子に胸を触られたと証言していることが発覚。

同年11月、BBCのインタビューで疑惑がさらに深まり、英王室がアンドルー王子の公務を解く。

21年8月、バージニアさんがアンドルー王子を相手取り米ニューヨークの連邦裁判所に7万5千ドルの損害賠償訴訟を起こす。

21年12月、ニューヨークの連邦裁判所の陪審がギレーヌ被告に対して6つの訴因のうち未成年の人身取引など5つについて有罪評決。エプスタイン被告と共謀して14歳の少女を含む少女4人に性的マッサージを行わせていた。最大65年の禁錮刑が科される可能性も。 

22年1月、アンドルー王子の弁護士は2009年にバージニアさんとエプスタイン被告との間で50万ドルの和解が成立していることを理由にバージニアさんの訴えを門前払いにしようとしたが、裁判の開始が認められる。英王室がアンドルー王子を追放。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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